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142 忘れられし女神編 四星獣VS神造小娘 前編
しおりを挟む腕輪を装着して念じると、目の前の空間が縦に割けた。
一歩抜けた途端に景色が様変わりする。
先ほどまでの荒れた大地から、色濃い緑が生い茂る森の前へと私は移動していた。
森の向こうに小高い丘があり、そこに白亜の神殿の姿があった。
「あれがギガヘイルの首領がいるという神殿か……、でもその前に」
陽炎のごとく立ち昇る四つの気配。
姿は見えない。だが確実にいる。
姿を見せたのは黒髪の少年。
「やあ、ヨーコお姉ちゃん。その腕輪を着けているってことは、デュラハさんは負けちゃったんだね。すごいなぁ」
「マンティ……。私、あっちの神殿に用があるんだけど、通してくれないかな」
「うーん、そうしてあげたいのはやまやまなんだけど駄目なんだ。ルギウスさんからは『誰も通すな』って言われてるんだ。だから、ごめんね」
ニコリと笑った少年の口元から、小さな牙がちらりと見えた。
以前に会ったときにはなかったモノ。
おそらくは、この子もまたドレイク博士の手によって、なんらかの処置を施されてしまったのであろう。ヒトであることを辞めてしまったのだ。
「ヨーコお姉ちゃんこそ、降参する気はない? 大人しく引き下がってくれるんだったら、見逃してあげるよ。どのみちルギウスさんには絶対に勝てないんだから。このまま逃げちゃいなよ。じきに女神さまも目覚めるから、そうしたらこんな間違った世界なんて、パパッっと楽園に造りかえちゃうんだから」
これはきっとマンティなりの優しさから出た言葉なのであろう。
だけど私には、とてもそんな都合のいいお伽話なんて信じられない。
だって私は知っているから。
少なくとも『この世界に神さまはいない』ということを。
私を魔改造した子どもの神さまは、確かにそう言っていた。
ここは空白地帯、神無き地。
だからこそ異世界転移だなんて、馬鹿な真似が勝手に行えたんだ。もしもマンティが言うような存在がいたのならば、異物となる私なんて世界を隔てる壁にて、ペチンとはじかれている。
それがないということは、よしんばその女神さまが言葉の通りの存在であったとしても、すでにこの世界の神さまではないということを意味している。つまり私と同じ異物だ。
私はいわばこの世界に刺さった小さなトゲ。取るに足らない存在。だからこそ、こうしてのほほんと生きることを許されている。
でも女神ともなれば話が違う。
胸に突き立つ剣、あるいは心の臓に打たれた杭。そんなモノに耐えられるほど、果たして世界は強いのだろうか。それでも平然としていられるとは、私にはとても信じられない。
「気持ちは嬉しいけれども、無理だよ」
黒猫の着ぐるみが大きな頭を横にフルフルすると、少年は少しだけ寂しそうな表情をみせた。
「だったらしょうがない。四星獣たち、侵入者を排除しろ」
マンティの声に合わせて、ずっと感じていた四つの気配が一気に膨れ上がり、巨大なモンスターたちが姿を現す。
紅蓮の炎をまとった虎、白い長毛の猿、雷をまとった鳥、そして何故だかでっかいカブトムシ。最後のは獣じゃないよね。
モンスターを使役するテイマーの能力を有するマンティの切り札が、猛然と黒猫へと襲いかかる。
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