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146 忘れられし女神編 閃光に散る花
しおりを挟むギガヘイルの本拠地である浮島の神殿にて、ヨーコとルギウスが激突していた同時刻。
イクロス王子の青の魔甲騎兵メテオールとイレーンの金色の魔甲騎兵エルドラードとの闘いも、いよいよ佳境を迎えようとしていた。
ついに弾薬の尽きた金色が手にした銃剣の二刀流にて、メテオールへと襲いかかる。
このときイレーンは三つのミスを犯していた。
一つ目は、眼前の強敵に夢中になるあまり総指揮を怠ったこと。
云われたことを守るだけの兵隊と、自分で考えて行動を起こせる兵隊。後者であるハムートの魔甲騎兵団は加えて練度を積み上げている。そんな両軍勢が共に指揮官の手から離れた状態にて対峙すれば、結果なんぞ火を見るよりも明らかであった。
二つ目は、弾薬が尽きるまで最前線に留まり続けてしまったこと。
残弾数が乏しくなった時点で、彼女は補給のために一度後退すべきであったのだ。だがそれをみすみす許すイクロス王子ではない。
三つ目にしてもっとも犯してはいけないミス、それは剣の勝負に走ったこと。
イレーンは間違いなく剣の腕も一流だった。だが相手であるイクロス王子は、その更に上をいく。
メテオールの剣がエルドラードの機体胸部を貫く。
銀の刀身を赤い血が伝う。
イクロス王子が放った渾身の刺突は、敵機の外骨格を破り操縦席をも直撃する。
イレーンの蛇体は無残に引き裂かれ、血潮がとめどもなく溢れだす。
「すみません……、ルギウスさま。わたしは、ここまでのよう……です。コレをお受け取り下さい」
瀕死の重傷の中、血まみれの手でかざした黄色い宝珠が明滅を放ち、やがて輝きを失って白濁し、ごろりと彼女の手より落ちる。
いまにも消えそうな命の残火。このまま燃え尽きるは必定。
と思われた最期の最期にて、情念の炎がぱっとはじけた。
イレーンは感覚が失われた指先にチカラを込めて操縦桿を握る。
女は親愛なる男のためにすべてを捧げる。
剣を引き抜こうとしたメテオール。
その腕を突如として動いたエルドラードの腕がむんずと掴む。気がつけばもう一方の腕も同様にされていた。
途端に金色の機体を中心にして、みるみると膨れ上がっていく魔力。
意図的に誘発された魔導エンジンの暴走による自爆だと悟り、イクロス王子は戦慄する。
なんとか脱出を試みるも、女の執念がそうさせるのか、青い機体はガッチリと拘束されており動けない。もがいている間にもエルドラードが滅びへと至る輝きを放ちはじめる。
もはやこれまでかと王子が諦めかけたとき、横合いから飛び出したレプラが駆る赤い機体が剣を振り抜く。その手にあったのはメテオールの腰背部に装備されてあった短刀「蒼雷」。大量の魔力を注ぎ込むことで一時的にだが、あらゆるモノを切り裂く蒼光の刃と化す。
蒼刃が絡み合う四本の腕を一刀のもとに両断する。
すかさずメテオールとエルドラード両機の間に割り込んだのは、ジンの乗る黒銀の機体。
猛然とタックルを当てると、金色の機体をチカラのかぎりはじき飛ばす。
と、同時に反転し全速力でその場を離れる。
直後に閃光が満ち、周囲に破壊の嵐が吹き荒れた。
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