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158 ダロブリンの使者
しおりを挟むなんら前触れもなくダロブリンの使者がリスターナへと来訪する。
ふつう、国同士のやりとりならば、いかにモメている相手だとしても、事前に「これから行くよ」とひと声あってしかるべし。正式な使者を名乗るのならばなおさらであろう。
最低限の礼儀をも無視した突然の訪問。あのギャバナ国のメローナ姫と勇者アキラのバカップルですらもが駆け落ち騒動の際には、ぎりっぎり直前だけれども、いちおうは連絡を入れたというのに。
だからリスターナ側がこれを受け入れる義理はない。むしろ激怒して門前払いでもいいぐらい。
なのに、なぜだかシルト王がすんなりと招き入れた。
宰相のダイクさんやゴードン将軍も何も言わない。
それどころか先方とわたしとの会談の場まで、率先してセッティングする。
まるで両者の仲をとりもつかのような不可解な行動。
わたしは戸惑いを隠せない。
ダロブリンからの理不尽な要求は断固として突っぱねるって、美中年は言っていたはずなのだが……。
何か考えがあってのことなのかしらん。
わたしとルーシーは「なんだかヘンだぞ」と首をかしげつつも、指定された会談の席へと出向く。
リスターナ城内にいくつかある会議室の中でも、わりと重要案件が話し合われるための立派なお部屋。
ノックしてから入室すると、すでに二人の男が席についていた。
そのうちの一人は異世界渡りの勇者。七三分けの糸目の青年。首にチョーカーっぽいおしゃれアイテムを装備。
わたしは彼の顔に見覚えがあった。同じ世界の男子だ。つまり同窓生。もっとも彼は特進クラスに在籍しており、こちらとの直接的な繋がりはない。
たまたまわたしが知っていたのは、彼がいつも学年で上位の成績を誇り、高校生ながらに何かの論文が表彰されたとかで、全校朝礼のときに檀上で校長先生から称賛されていた姿を、おぼろげながらも記憶していたからである。
「やぁ、キミがリンネくんだね? 活躍は遠くダロブリンにまで届いているよ。会いたかった。ぼくはノブオ、よろしくね」
握手を求めて、親しげに手を差し出してくるノブオ。
わたしはその手を無視して、ノブオの額に左人差し指を突きつける。
予想外の行動に目を丸くしてきょとんとなるノブオ。
そんな彼にわたしは「よろしくじゃねえよ、バーカ」と言って、バン!
左人差し指マグナムの一撃を至近距離で喰らい、ノブオのカラダがおおきくのけ反る。英邁であろう脳髄をまき散らし血の花を咲かせて絶命。
ノブオくんの異世界物語はここで終了。
「なっ、なにを!」
あわててガタッと席を立とうとした、もう一人の役人風の男は、ルーシーが手にしていたショットガンでバン! こちらも全身を穴だらけにされて息絶えた。
主従によるいきなりの凶行。
だがこれにはちゃんと理由があるのだ。
「なんかゾワゾワと全身を撫でまわされたような、イヤな感覚があったよ。たぶん『鑑定』や『魅了』とはちがう類の魔眼だとおもう」
トカード国の勇者ヨシミのギフト「鑑定」
これは対象のレベルや能力についてかなり詳細に把握できるというモノ。
ハマナク国の勇者だったタロウのギフト「魅了」
こちらは異性を虜にして自在に操るというゲスなモノ。
どちらも瞳に宿るタイプの特殊なチカラ。
鑑定に関しては、対象とのレベル差があまりにもありすぎると機能せず、魅了に至っては、わたしの健康スキルのまえに手も足も出なかった。
で、問答無用にてぶっ飛ばしたノブオなのだけれども……。
死体を検分していたルーシーが「おそらくですが洗脳系かとおもわれます」と言った。
わたしたちは当初からダロブリンの使者たちのことを疑っていたのである。
でもシルト王たちに対しては微塵も疑心を抱かなかった。それはこれまでに積み上げてきた関係が根底にあったから。なによりリンネ組の内情をそこそこ知っているお三方が、今さら浅慮に走るとはどうしても考えられない。
となれば、おかしなのはだあれ?
二から一を引くと一残る。
そして使者の片割れが異世界渡りの勇者にて、出会い頭に友好的な雰囲気を装いつつ、何かを仕掛けてきたという時点で有罪が確定。即バン! とした次第。
「洗脳系かぁ。でもルーシー、みんな表面上はべつに操られている風でもなかったよね」
「ええ、あくまで推察の域を出ませんが、おそらく洗脳といっても、相手の意志を強引にねじ曲げたり抑え込んだりするタイプではなく、自然と術者にとって都合のいい方向へと誘導するタイプなのかもしれません。『思考ナビ』とでも言いましょうか。これはある意味、強制的な洗脳よりもよっぽどやっかいですよ」
「?」
「術をかけられた者に変化がほとんど見られないので、周囲に悟られる危険性が極めて低く、なにより自然な流れにて事が有利に運べますから。おそらく術中に落ちた者たちも、すべて自身の考えによる行動だと錯覚しているはず。これは潜在的な脅威ですよ。早々に始末できたのはむしろラッキーでした」
これが不躾な使者の横柄な態度に不平のひとつも言わず、リスターナが彼らをすんなり受け入れたからくり。
シルト王も宰相のダイクさんもゴードン将軍でさえも、初見時に術中にはめられていたらしい。
最低限の礼儀として挨拶だけは受けてやろうという、人の良さにつけ込まれたようだ。
それにしても人の心を誘導するナビゲーションか……。
うーん。とっても地味だね。
だけれども地味であるがゆえに、わたしはコレがものすごく怖いよ。
気づいたときには周囲がみんな敵になっているだなんて。しかもそれがみんなの自発的な行動にしか見えないとか、かなり陰湿なヤリ口だとおもう。
もしもギフト選択のおりに、意図的にこれを選んだのならば、ノブオは性格的にかなり問題がある人物であったといえよう。
もしもスキルだとしたら、それはそれでやっぱり性悪ということになる。なにせスキルは本来もっている才能やら願望が、異世界転移の際に発現するものなのだから。
わたしたちは死体を亜空間に回収して、研究所送りにしてから、その足でシルト王たちのところに顔を出す。
するとシルト王さま、いい笑顔にて「おや? もうダロブリンとの会合は終わったのかい」
この表情からも、当人はいいことをしたと思い込んでいるのは一目瞭然。
どうやら術者が死んでも思考ナビの影響は残ったままらしい。
のちのちにまで祟るとか、ちょっと性質が悪すぎ。まるで精神汚染じゃないか。魅了の瞳とはちがう意味でやっかいな能力。ルーシーが言ったとおり、迷わずぶっ殺しておいて正解だった。
そしてそんな危険な勇者をいきなり送り込んできた時点で、わたしたちはダロブリンを敵と認定。
目には目を歯には歯を。
無礼には無礼講のどんちゃん騒ぎにて応える。
泣いて詫びを入れて「お願いだから、もう帰って」と言われたって帰ってあげない。なおも居座り続けて踊る阿呆と化し、国の中心で地獄の盆踊り大会を催してやる。それはもう盛大に。
それがリンネ組の流儀なり、ケケケケ。
なおノブオの思考ナビを喰らって微妙におかしくなっていた美中年、ダイク、ゴードンの三名には、ルーシーが強烈な電気ショックをお見舞いして、半ば強引に正気に戻ってもらった。
「術のかかりが浅くて助かりました。最悪、薬物投与と洗脳再教育や切開手術も考えていたのですが」
青い目をしたお人形さんのこの言葉を聞いて、正気に戻った三人が震えあがったのは言うまでもない。
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