わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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162 空飛ぶ糸玉

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 騒ぎが収まるのを待ってから、ひょっこりと塹壕内から顔をだしたわたしたち。
 ダロブリンの王都があった場所には、それはそれは見事なキノコ雲がもこもこ生えていた。

「よもや自分の目で、これを直に拝む日がこようとは」

 あまりの光景にて、さすがのわたしもしんみりとなっちゃう。

「いわゆる水蒸気爆発というやつですね。威力は、まぁ、こんなものでしょう」とはルーシー。
 お人形さんはあまり興味なさげ。反応がやたらと淡白なのは、彼女の基準が富士丸やたまさぶろうをベースにしているから。
 そりゃあ、アレらと比べたら、たいていのモノがイマイチとなるよね。
 でもわたしは常識人の小市民なので、十分過ぎるほどにビビッているよ。

「ダロブリン、すっかり無くなっちゃったねえ。せっかくここまで来たのに。わたし、なんもしてねえ」ダロブリンでの旅の想い出、賊狩りオンリー。
「とんだ無駄骨に……。いえ、ごく一部とはいえ賊に攫われていた子どもたちを救えたのですから、今回はソレで良しとしておきましょう。あとは野となれ山となれ、です」

 がっくりと肩を落とす主人を気遣う青い目をしたお人形さん。
 するとそんな主従の頭上を、大きく飛び越える物体があった。
 ナゾの飛来物は離れたところに着地。ポーンポンとゴム鞠のごとく跳ねて、転がり遠ざかっていく。

「えっ! なになに今の? でっかいボール、というよりかは毛糸玉っぽく見えたような」
「どうやら王都があった方角から飛んできたようですね」

 爆発によって何かが飛ばされてきたらしい。
 野次馬根性にて行ってみたら、そこには大きな玉の姿があった。
 運動会の玉転がしに使われるぐらいの大きさ。でも見た目は糸玉というかゴム紐をごちゃごちゃに巻き込んだような姿をしている。

「皮をむいたムキ出しのゴルフボールが、たしかこんなだったよ」
「おや? リンネさまにそのような高尚な趣味があったとは初耳です」
「あぁ、ちがうちがう」あわてて手をふるわたし。「小さい頃にお父さんのヤツをイタズラしたんだよ。ふと中身が妙に気になっちゃって。それでハサミでざくざくと。もっとも高価なボールだったらしくって、あとでめちゃくちゃ怒られたけどね」

 鮮明に脳裏に蘇るのは幼い日の想い出。あれは拙い知的好奇心の発露。
 あのとき、もしもお父さんがしみったれたことを言わずに「えらいぞ、リンネ。その調子でずんずん好奇心を育てるのだ」と頭をやさしく撫でて「そうだ! えらいリンネちゃんには、ごほうびにお小遣いをあげよう」とか言って札をヒラヒラしていれば、きっと未来はちがっていたはず。末は博士か大臣か……。
 あと玉の良し悪し以前に、まずは真っ直ぐに飛ばすことが先決だと、わたしは思います。お父さん。

「いえ、カエルの子はおたまじゃくし。トンビがタカを産むとかありえませんから」

 身も蓋もないお人形さんのご意見にて、話にオチがついたところで、巨大糸玉がほろほろと崩れていき、中から姿をあらわしたのは何やら見覚えのある女の人。

「ったく、あのバカガキどもが。後先考えずになんてことしやがる。あやうくこっちまで消し飛んでしまうところだったじゃないの」

 よろよろしながら悪態をついていたのは、ブルネット髪の美女。
 かつてラグマタイトで殺り合った、第九の聖騎士グリューネであった。

「やぁ」「よっ」すちゃっと手をあげてわたしとルーシーが挨拶したら、「あーっ! あんたはあの時の小娘。なにが『ギャバナの光の勇者アキラ』だ。デタラメ言いやがって。おかげでとんだ恥をかいちまったじゃないかっ」

 いきなり激昂するグリューネ。
 ここで会ったが百年目とばかりに威勢よく臨戦態勢をとろうとするも、その身がよろけて突っ伏し、そしてオロロロと吐く。
 美女のお小水を聖水とか称して珍重する文化が、大人のただれたアンダーグラウンドにはあるらしいのだが、コレはどうだろう? コレはコレで需要があるのか?
 少なくともわたしの目にはゲロはゲロにしかみえない。
 ルーシーにもたずねてみたが「そりゃあ、そうでしょうとも」とあっさり肯定。それから「たぶん酔ったんでしょうね。あの糸玉、かなり激しく飛び跳ねて揺れていましたから」とも言った。

「うぅ、気持わるい。うぷっ」

 すっかり玉酔いのグリューネ。当人のやる気とは裏腹にカラダがいうことを聞いてくれない。
 醜態をさらす美女からツツツと距離をとるわたしたち。
 だって風下にいると、なにやら酸っぱいニオイが漂ってくるんだもの。もらいゲロとかは、きっぱりノーサンキュー。
 そんなわたしたちの態度に「ぢぐしょう」とグリューネ。涙目にてとっても悔しそう。

「で、何があって、いったいどうしたら、あんなことになっちゃうのよ?」

 あまりにも残念な美女の姿にすっかり毒気が抜かれたわたしたち。
 武士の情けならぬノラ勇者の情けにて、亜空間より取り寄せた冷たい水の入ったコップを差し出し、事情を問う。
 はじめは躊躇していたグリューネもコップをしぶしぶ受け取る。どうやら警戒と気持ち悪さを天秤にかけた結果、後者が勝ったらしい。
 ガラガラぺっぺっとうがいをしてから、冷水をグビグビあおる。ぷはぁとひと息、「じつは……」と見目麗しき女がことの経緯をぽつぽつ語り出す。


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