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197 帝国の闇
しおりを挟むとってもとっても長くて深い落とし穴。
これを作ったやつ、阿呆だろ? 暇人にもほどがある。
それぐらいに執拗なまでに深い。
落ちた先に待っていたのは、まるでウォータースライダーのような水路。
水流は激アツにて過激。遊ぶまえに受付で「いかなることがあってもすべて自己責任です。当方は一切責任をとりませんのであしからず」という書類にサインをさせられるレベル。
右に左にグネグネはげしく曲がる水のすべり台。
その先はジャンプ台となっており、勢いよくぽーんと放り出される。
でもって、ザブンと落水した先はこれまた激流の水路。太さが先ほどまでとは比べものにもならないほどに大きく、水量もまたそれに比例している。
激流にて翻弄されるばかりの我が身になす術ナシ。
抵抗するだけムダだと早々に諦めたわたしは、脱力して流れに身を任せることにした。
がぼがぼ息が苦しいけれども、溺れることはないらしい。ふつうならば落水直後に全身バキバキ溺死確定コース。健康スキルの万能変態っぷりに救われたよ。
いい加減に状況にも慣れてきて、「まだ終わんないのかぁ」と気を抜いていたところで、今度はグルグルと大きな渦に巻き込まれた。あーれー。
天地が目まぐるしく入れ替わる水の中の大冒険。
わたしが現実逃避して考えていたのは「洗濯機の中ってこんな感じなのかなぁ。もしくは便器の中」といったこと。
で、トドメに滝が待ってたよ。直下型にて、落差に容赦のないのが。
落とし穴から延々と続いていた水の旅。
その終着点は、巨大なドーム型の地底湖だった。
滝つぼに叩き落とされ、上から落ちてくる水にじゃぶじゃぶされ、底にて暴れる水流にしばし揉みくちゃにされる。
その最中に地底湖の底に見えたのは一面の白い景色。
これ、すべてが骨が積もったもの。
どうやらここは帝国の闇の吹き溜まりらしい。不都合なことは、こうやって流してポイッしちゃっていたようだ。
「そんなところにうら若き乙女を送り込むなんて!」
プリプリしながら浮上するも、すぐさまわたしは潜りなおす。
水底の白骨らに紛れて、そこかしこにてキラリと光る何かを発見していたから。
それを確認するための再潜水。手近な光に手を伸ばすとコレを持って水上へと向かう。
水面にてぷはっと息を吐き、立ち泳ぎ。
手の中にあったのは金色に輝くネックレス。おそらくはここで果てた者たちが身に着けていた上等そうな装飾品の類。
水底にはけっこうな数のキラキラがあった。
こいつは漁り甲斐がありそうだと、おもわず舌なめずり。
とはいえ、まずはここから抜け出さないことには話しにならぬ。
冷たい水の中をスイーっと平泳ぎにて移動しながら、キョロキョロと周囲を見渡してみたけれども、地底湖に陸地らしき場所は見当たらない。
かなりの地下深くっぽいので、いかに魔法を使おうとて地上にはきっと戻れまい。
流れてきたところを逆戻りするのが一番確実だけれども、あの水量と水圧ではこれも困難。
じゃんじゃん流れ込んでくる水で地底湖が満杯になっていないことからして、どこぞに搬出経路があるのだろうけれども、それを見つけ出す前にチカラ尽きてぶくぶく。
というか、ここに流れついた時点でとっくにズタボロになって溺れ死んじゃっているか。
陸地はないけど漂流物はちらほら。
タンスみたいなのが浮かんでいたので、こいつにヨチヨチ這い上がる。
「さてと、ふつうならばこのまま溺れ死んで朽ち果てるんだろうけど、わたしの場合はちょいとご期待にそえないかなぁ。ってなわけで、カモン! 富士丸くん」
指パッチンにて合図を送れば、人形召喚によって亜空間より異形の巨人が即参上。
地底湖にザブンと降り立って、大波小波が発生しどんぶらこ。
わたしの乗っていたタンスっぽいのはあっさり転覆するも、すかさず富士丸くんが手ですくいあげてくれた。
「ありがとう」と礼を言ってから「それじゃあ、ロケットパンチで一発ドカンとお願い」と命じる。
女主人の命令を受けて富士丸が「ウンガー」と吠えた。
空いている方の腕を地底湖の天井に五十度ほどの角度をつけて向ける。
肘から先の部分がゆっくりと回転をはじめたとおもったら、すぐさまトップスピードに突入。暴風をまといて轟々とうなりをあげる。
気圧も影響を受けたのか耳がキーンとなる。
湖面の水をも巻き込むほどの脅威の回転力。そいつが一気に爆ぜ、ロケットパンチが発射された。
固いはずの岩盤もなんのその。星砕きの拳を遮れるものなし。あっさりざっくり掘削しながら突き進み、あっという間に巨大トンネルを開通。
背中のロケットが点火して、ゴゴゴと富士丸が飛び立ち、そこから外へと脱出開始。
飛び出た先は、帝都より南へとずいぶん離れた岩だらけの丘陵地帯。
幸いなことに付近に人家はなく、街道からも遠い。
「やっべー、上に誰かがいる可能性をスルっと忘れていたよ。もしも帝都内だったら大惨事だったね。今後は気をつけないと」
無事に地上へと戻ったわたしと富士丸くんは、降り注ぐ日差しに目を細めている。
再会した空は青く、とても澄んでいた。うーん、と伸びをして深呼吸。空気がうまい。
ひとしきり感慨に浸ったところで、富士丸くんの亜空間経由にてルーシーが登場。
「ご無事のようですね、リンネさま。それにしてもまた派手なご帰還をなされたものです」
派手とか言われて、意味がわからず首をかしげたわたしと富士丸。
お人形さんが言ってたのは、地面にロケットパンチで大穴を開けたこと。
ガリゴリ地殻を削る作業。その振動にて地表では疑似的な地震っぽいのが発生。
帝都では建国以来、初めての震度を計測とかで、先のナゾの迎賓館爆破炎上事件と合わせてけっこうな騒ぎになっているそうな。「すわ、天変地異の前触れか」なんて感じで。
そいつは知らぬこととはいえ、悪いことをしてしまった。なんかゴメン。
あとルーシーから「わざわざ大穴を開けなくても、富士丸の亜空間経由で戻ればすむのに」とちょっと呆れられて、わたしと富士丸くん「あっ!」「ウゴッ!」
「ところでわたしはどれくらい地下に潜ってたの? ずっと暗くて水に紛れていたから、時間の感覚がなくって」
「リンネさまが落とし穴にはまってから、約半日といったところですね」
「そんなに……、それでノノアちゃんとベルさんは」
「マーキングによる追跡では、西へと向かっているようです。おそらく目的地は例の廃坑かと」
「やっぱりそっちが聖騎士どもの本命だったか。それにしてもいきなり帝都のど真ん中で爆破とか、連中もムチャクチャしやがる」
「一切の証拠ごとわれわれを亡き者にする算段だったのでしょう。ですが好機到来です。なにせ向こうはすっかりこちらを片づけたつもりになっているのですから。巻き返しをはかるのならば敵が油断しているいまかと」
「よし! それならこれから殴り込みをかけよう。そして連中の企みをぐちゃぐちゃにしてやる。挙句に『どうしてお前がここに!』とかいう台詞を吐かせてやるのだ」
こちらがわりと穏便に済まそうと考えていたのに、先に殴りかかってきたのは向こうなんだから、こっから先はもう遠慮しない。
なおその他の星読みの人たちに関しては、例の小者臭プンスカの評議員の情報ともども、しかるべきところにリークしておくことにした。
なにせ地下にあれだけの闇を抱える帝国なんだもの。きっとうまいことやってくれるにちがいあるまい。
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