わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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283 モナズセキ平原の戦い

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 巨大な黒銀のカニを相手に奮戦していたのは、魔族と連合軍の精鋭たち。

「よもや我らが肩を並べて戦う日が来ようとはなぁ」魔族の戦士がしみじみとつぶやけば、「まったくだな。つい少し前までは剣を交えては、命のやりとりをしていたというのに」と連合の戦士が笑みを浮かべる。

 ウインザム帝国の新皇帝の呼びかけに応じて、この地に馳せ参じたツワモノたち。
 近隣諸国、種族を問わず、名立たる猛者や勇者らを片っ端に招集。
 声をかけられた連合側は戸惑い、魔族側も当初は「何らかの計略か?」と疑う。
 しかし帝国が保有している高名な星読みの一族より、世界の命運を左右する不吉な予言がもたらされたと聞かされ、その情報が開示、なおかつ高額な報酬にも惹かれたことにより、多くの者が求めに応じた。

『四つの災厄が降臨す。うち一つがモナズセキ平原に流れ堕つ。これを見過ごせばノットガルドに未来はない。集え、英傑らよ。邪悪を討ち滅ぼし、我らが大地を守るのだ』

 予言を発したのはノノア・ルミエール。
 まだ幼いながらも歴代の誰も成し得なかった、第四の目を発現させた巫女。
 前皇帝であるダンガーの要請に応じて、能力を使ったところ世界各地にて災厄が出現することが判明。そのおおまかな時期と場所を、ある程度まで絞り込み、特定することに成功する。
 予言に「英傑」うんぬんの単語を盛り込み、ややオーバーな檄文に仕上げたのは母ベル・ルミエールの入れ知恵。
 対女神戦線の協力者としてこの災厄に対処するべく、ダンガーはルーシーと連絡を密にしつつ、老骨にムチ打ち暗躍。関係各所に情報を伝達し働きかけては、事前に入念な準備を進めていたのである。
 とはいえ、予想よりも集まりが良かったことには、ダンガー自身も驚いていたが……。

 リスターナの戦場と同様にこちらでも巨大カニを中心にして、異形の群れが出没。
 津波のごとく押し寄せる異形どもを前にして、一歩も引かない戦士たち。意気揚々と戦線を押し返してさえみせる。

「なんだぁ? お前たち。ちょっと見ないうちに、やたらと腕があがってないか」
「そっちこそ。いったいどうなっていやがる? ずいぶんと槍さばきが鋭くなっているじゃねえか」

 魔族と連合、双方の戦士らが互いの働きに目を見張る。
 聖魔戦線で対峙していたころよりも、あきらかに動きが良くなっていたから。

「何でと言われても……。戦が終わって家に帰ったものの、どうにも居場所がなくて肩身が狭くてなぁ。急にお役御免となって暇を持て余していたら、カミさんに『掃除の邪魔だからダンジョンにでも行って稼いで来い』ってドヤされて、そのせいかも」
「あー、ウチも似たようなもんだわ。せいぜい三日ぐらいだったよ。かいがいしく扱われていたのは」
「ワシのところも同じだな。久しぶりに子どもに会ったら、めちゃくちゃ警戒されてよ。『誰だ、コイツ?』みたいな目で見られて。アレはキツイ。いたたまれなかったわい」
「お前ら贅沢いうなよ! 家で帰りを待ってくれているだけマシだ。オレなんてなぁ、帰ったらもぬけの殻だったんだぞ!」
「うわー」「そいつはお気の毒」「とても他人ごととは思えねえ」

 激しい戦闘の連続。
 緊迫した局面が続く中にあって、剣戟や怒号に混じり、そこかしこで交わされている闘う者たちの会話は、場違いなほどにのんびりしており、どこか楽しげですらもあった。
 長らく続いた第七十九次聖魔戦線。
 それが急遽停戦となったことで、巷にあふれた帰還兵たち。
 大部分が戦場しか知らぬ者らにて、せっかく無事に生きて家に帰ったとて、することがない。というか出来ることがほとんどない。
 もちろん早々に気持ちを切り替えて、新しい生き方を模索する逞しい者たちもいたが、ほとんどは身も心も宙ぶらりんのまま。
 結果としてダンジョンに潜ったり、一心不乱に稽古に明け暮れるしかなかった。
 実戦に勝る訓練はないという。
 しかし実戦では命のやり取りが主体となるので、どうしたって技や動作が荒くなりがち。
 では散々に実戦と経験を積み重ねた者らが、いま一度、原点に立ち返って己を鍛え直したらどうなるのか?
 答えは「あっさりと壁を超える」である。
 終戦によって訪れた平和が、皮肉なことに闘う者たちを更なる高みへと誘う。
 彼らにとっては戦こそが日常、戦場こそが住処。
 味方どころか、たった一つの命を奪い合う敵ですらもが、遠く離れた故郷にて待つ家族よりもずっと近しく心通わせる存在。
 そんな生き方しか知らない彼らの胸には、ある想い去来していた。いや、それは予感よりも確信めいたもの。
 闘う者たちの本能が告げている。

「この先、大きな戦は確実に減っていく」と。

 戦場でしか息が出来ない生き物だからこそ、イヤでも戦いの気配がどんどんと薄まっていくのがわかってしまう。
 だからこそツワモノたちはこぞって招集に応じた。
 去りゆく争乱の時代を惜しみ、別れを告げるために。


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