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「……寒い……」
フロティナは夜中、寒さに目を覚ます。
バルカンは無意識でかフロティナと握った手を引き寄せると彼女を抱きしめる。
フロティナはバルカンの背中にそっと手を回した。
彼の腕の中は温かく……とても落ち着く香りがする――――
「まだ着きませんか?」
「うるさい女だ!後少しで着くと言っておる!」
次の日、フロティナの分の荷物を担いだバルカンはイライラした様子で振り返る。フロティナは道端に咲いていた花を摘みながらバルカンにニッコリ笑い掛けた。
「バルカン様、ここら一帯はお花がたくさん咲いていますね。もう花束ができました」
あっけらかんとした様子でそう言うフロティナを一瞥するとバルカンは背中を向けた。
「バルカン様にはわからないか……意味が」
「無礼な女め!俺だって花束くらいわかる!あまり話しかけるな!正気を失うだろうが!」
バルカンが肩を怒らせている背後をフロティナはご機嫌で着いて行った。
ここはかなり高い場所だろうけれど、身体が慣れてきたからか当初感じていた息苦しさをあまり感じなくなった。身体もすっかり透明感はなくなったので、もしかするとあのおかげで疲れが取れたのかも……「ヴォエ」フロティナは例の素材を思い出して口元を押える。
「だ、大丈夫か!」
気が付くと随分先を行っていたバルカンがフロティナのヴォエを聞いて慌てて戻ってきた。
「……だ、大丈夫です」
バルカンに背中をさすられながらフロティナは涙目で言う。
(考えない考えない……)
「まだゆっくり来た方がよかったか?今日も一泊するか……すまんな、気付かなくて」バルカンはフロティナの額に手を当てながらそう呟いたので「大丈夫です。先を急ぎましょう」とフロティナは言った。
これ以上一緒にいるのも良くないような気がした。
フロティナにとってもバルカンにとっても……そして彼の想い人にとっても。
痣がいけないのだ。
今の気持ちも全て偽物で、この痣が自分たちを正常じゃない者にしているとフロティナは思っていた。
顔を上げると、木々の隙間から雲海が見えた。
雲の海の中の島に自分がいるような錯覚にフロティナは少し……寂しい気分になる。
「もう少しでこの旅も終わりですね」フロティナは再び歩き出したバルカンの背中にそう言った。
「……そうだな」
バルカンはどんな顔をしているだろうか。
「もう少しで自由ですね。これからどうしますか?」
「……俺は自分の故郷に一度帰る。お前は……」
「私も自分の街に帰ります。みんなが待っているので」フロティナはそう言うと職場の事を思い浮かべた。随分と長い休暇を貰ってしまった。
「……そうか」
「はい」今の自分には居場所があるのだ、とフロティナは思う。身寄りのない自分に街一番の豪商が仕事を与えてくれた。(あれ……?)フロティナはなんだかその時――違和感を感じた気がして思いを巡らせた。父が死んだのが13歳の時、仕事を始めたのは14歳の時――その間自分はどうしていたんだっけ……
「おい、大丈夫か?」
バルカンに腕を支えられてフロティナは我に返った。
「バルカン様……」
「クソ、ちゃんと下を見て歩け!世話のかかる女だ!」
大きな石に躓いたフロティナを立たせると、バルカンは彼女の隣に立つ。「ここはデカイ岩がゴロゴロ落ちてるぞ……」バルカンは呆れた顔をしながらフロティナを一瞥し、ゆっくり歩幅を合わせて歩く。
道幅はある程度あるが、数歩躓けば下に落ちてしまうだろう。フロティナにはゾッとしてバルカンの背負った荷物の紐を握った。
「これでフロティナとバルカン様は一心同体……」
「は?お、おい!お前絶対に落ちるなよ!」
「それはわかりません……フロティナがぼんやりしないように面白い話をしてくださいまし」フロティナが歌うようにそう言うとバルカンは「…………近所に真っ白な犬がいてな」と語り始めたので「尾も白いってことですか?最高につまらないです」と足を滑らせるふりをした。
「ほら、見えるか?」
それから少しするとバルカンが指差す先に、光が見えた。まだ辺りは明るいのに……その光は暗闇にさす、一筋の光のように見える。
「光が……」
「あそこを目指すぞ。目を離してはたどり着けない」
「え……?」
バルカンはそう言うとフロティナの手をギュッと握る。
「…………」
「……あ、危ないからだ、我慢しろ」無言でバルカンを見つめるフロティナに彼はしどろもどろな様子でそう説明をした。バルカンの手は大きくて、ゴツゴツしていて……とても温かい。
フロティナもその手をキュッと握り返す。
バルカンに言われた通り、光を見つめ足をゆっくりと前に進めた。ザリザリとした地面の感触が靴の裏から伝わりフロティナは思わず下を確認しそうになる。
「よそ見をするな、置いてかれるぞ」
バルカンの声がして、気を取り直す。
光はだんだんと近付いて来て――目が眩みそうだ。
でもフロティナは言われた通り、それを見つめ続けた。
ついに光はフロティナの視界いっぱいに広がり眩しくて目が開けられない……と思った瞬間――――――
「バルカン、遅かったではないか」と何者かの声がして、パチンの光が弾けて――消えた。
フロティナは夜中、寒さに目を覚ます。
バルカンは無意識でかフロティナと握った手を引き寄せると彼女を抱きしめる。
フロティナはバルカンの背中にそっと手を回した。
彼の腕の中は温かく……とても落ち着く香りがする――――
「まだ着きませんか?」
「うるさい女だ!後少しで着くと言っておる!」
次の日、フロティナの分の荷物を担いだバルカンはイライラした様子で振り返る。フロティナは道端に咲いていた花を摘みながらバルカンにニッコリ笑い掛けた。
「バルカン様、ここら一帯はお花がたくさん咲いていますね。もう花束ができました」
あっけらかんとした様子でそう言うフロティナを一瞥するとバルカンは背中を向けた。
「バルカン様にはわからないか……意味が」
「無礼な女め!俺だって花束くらいわかる!あまり話しかけるな!正気を失うだろうが!」
バルカンが肩を怒らせている背後をフロティナはご機嫌で着いて行った。
ここはかなり高い場所だろうけれど、身体が慣れてきたからか当初感じていた息苦しさをあまり感じなくなった。身体もすっかり透明感はなくなったので、もしかするとあのおかげで疲れが取れたのかも……「ヴォエ」フロティナは例の素材を思い出して口元を押える。
「だ、大丈夫か!」
気が付くと随分先を行っていたバルカンがフロティナのヴォエを聞いて慌てて戻ってきた。
「……だ、大丈夫です」
バルカンに背中をさすられながらフロティナは涙目で言う。
(考えない考えない……)
「まだゆっくり来た方がよかったか?今日も一泊するか……すまんな、気付かなくて」バルカンはフロティナの額に手を当てながらそう呟いたので「大丈夫です。先を急ぎましょう」とフロティナは言った。
これ以上一緒にいるのも良くないような気がした。
フロティナにとってもバルカンにとっても……そして彼の想い人にとっても。
痣がいけないのだ。
今の気持ちも全て偽物で、この痣が自分たちを正常じゃない者にしているとフロティナは思っていた。
顔を上げると、木々の隙間から雲海が見えた。
雲の海の中の島に自分がいるような錯覚にフロティナは少し……寂しい気分になる。
「もう少しでこの旅も終わりですね」フロティナは再び歩き出したバルカンの背中にそう言った。
「……そうだな」
バルカンはどんな顔をしているだろうか。
「もう少しで自由ですね。これからどうしますか?」
「……俺は自分の故郷に一度帰る。お前は……」
「私も自分の街に帰ります。みんなが待っているので」フロティナはそう言うと職場の事を思い浮かべた。随分と長い休暇を貰ってしまった。
「……そうか」
「はい」今の自分には居場所があるのだ、とフロティナは思う。身寄りのない自分に街一番の豪商が仕事を与えてくれた。(あれ……?)フロティナはなんだかその時――違和感を感じた気がして思いを巡らせた。父が死んだのが13歳の時、仕事を始めたのは14歳の時――その間自分はどうしていたんだっけ……
「おい、大丈夫か?」
バルカンに腕を支えられてフロティナは我に返った。
「バルカン様……」
「クソ、ちゃんと下を見て歩け!世話のかかる女だ!」
大きな石に躓いたフロティナを立たせると、バルカンは彼女の隣に立つ。「ここはデカイ岩がゴロゴロ落ちてるぞ……」バルカンは呆れた顔をしながらフロティナを一瞥し、ゆっくり歩幅を合わせて歩く。
道幅はある程度あるが、数歩躓けば下に落ちてしまうだろう。フロティナにはゾッとしてバルカンの背負った荷物の紐を握った。
「これでフロティナとバルカン様は一心同体……」
「は?お、おい!お前絶対に落ちるなよ!」
「それはわかりません……フロティナがぼんやりしないように面白い話をしてくださいまし」フロティナが歌うようにそう言うとバルカンは「…………近所に真っ白な犬がいてな」と語り始めたので「尾も白いってことですか?最高につまらないです」と足を滑らせるふりをした。
「ほら、見えるか?」
それから少しするとバルカンが指差す先に、光が見えた。まだ辺りは明るいのに……その光は暗闇にさす、一筋の光のように見える。
「光が……」
「あそこを目指すぞ。目を離してはたどり着けない」
「え……?」
バルカンはそう言うとフロティナの手をギュッと握る。
「…………」
「……あ、危ないからだ、我慢しろ」無言でバルカンを見つめるフロティナに彼はしどろもどろな様子でそう説明をした。バルカンの手は大きくて、ゴツゴツしていて……とても温かい。
フロティナもその手をキュッと握り返す。
バルカンに言われた通り、光を見つめ足をゆっくりと前に進めた。ザリザリとした地面の感触が靴の裏から伝わりフロティナは思わず下を確認しそうになる。
「よそ見をするな、置いてかれるぞ」
バルカンの声がして、気を取り直す。
光はだんだんと近付いて来て――目が眩みそうだ。
でもフロティナは言われた通り、それを見つめ続けた。
ついに光はフロティナの視界いっぱいに広がり眩しくて目が開けられない……と思った瞬間――――――
「バルカン、遅かったではないか」と何者かの声がして、パチンの光が弾けて――消えた。
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