【R18】夫には想い人がいるので

mokumoku

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「先輩聞きました?今日の緊急放送」

ある日――――フロティナが汚れた仕事着を脱ぎながら休憩室に入ると、顔を合わせた瞬間マリエルが興奮した様子で言ってきた。

「見てないわ。今まで掃除をしていたから……どうしたの?事件?」フロティナはドロドロに汚れた顔を拭きながら給水ボトルからコップに水を注ぐ。
非常に疲れた……長期休みはワクワクするけれど、終わってから溜まっていた仕事を処理するのが大変だ。もう何日も自宅に帰っていない。レッドゾーンのモンスターのお世話はフロティナにしかできないので尚更だ。

(年をとったらどうなるんだろう……)
フロティナは今よりも確実に体力がなくなるであろう未来に思いを馳せて……若干うんざりした気分になった。

「先輩ったら!玉の輿のチャンスですよう!」
「え!?玉の輿?見せてください見せてください!」

マリエルは異常にその話題に食いついてきたフロティナに画像を見せた。

(玉の輿のチャンス……仕事を辞められるかも!)


彼女の記録装置に映し出された画像は、空中に像を形成していく。
「ああ、古いから読み込みが遅い……すみません」
「全然問題ないですよ?……あら?」
そこに映し出された人物は……バルカンだった。

バルカンはゆったりと立派な椅子に座り、少し顎を上に向ける様にこちらを見つめている。
しかし今までフロティナが接していた彼より大きく……腕に鱗が生えていた。胸がギューッと掴まれたような心地になり、フロティナは動揺する。
(バルカン様……)

「第432王のバルカン・ドラゴンイエーガーだ」
フロティナはジジ……と時折歪むバルカンを目を丸くして見つめた。

(王……?それにドラゴンイエーガーと名乗っていなかった?)

ドラゴンイエーガーはモンスターを統治する竜族の王のみが名乗ることが出来る苗字だ。
今まで……人間界にまで名前が聞こえてきたことはあまりなかったけれど……

「今年、竜族の王が結婚相手を募集するらしいのです」
マリエルは目をキラキラさせてフロティナを見た。

「歴代、今まで様々な種族と婚姻を続けてきた我が竜族だが、人間との友好の証として……今回は人間との婚姻が決まった」
竜族は非常に血が強いため、他の種族と血が混ざっても彼らの血が薄まることはない。なので歴史上彼らは様々な種族と友好の証として婚姻をしてきた。
そうして世界のバランスを保っていたのだといわれている。
(かなり前――人間と婚姻した記録もあったような気がするけど、このタイミングは……バルカン様は国で想い人に会えなかったんだわ)
フロティナはそう思った。

彼は探しているのだ。
人間の想い人を――――――


「先輩、条件としては20~30歳の人間の女性だそうですよ。それともう一つ条件が」
マリエルはそんなことは知らないので、希望に満ちた様子でまた記録装置に注目するようにそれを指差した。

「この靴に……ピッタリと足がハマる女性、それが二つ目の条件だ。この靴は我が運命の女性の足にピッタリとはまるはずだ」
バルカンは顔の前にその靴を掲げると二ヤリと笑う。

クリスタルでできた……美しい靴だ。

「結婚相手には望むもの全てを与えよう。そう……例えば家族が永久に安全に住める居住地や富……それに仕事の心配だっていらない。全て解決してみせよう」バルカンは腕を組むとそう言った。
「本人と家族さえよければ婚姻歴の有無は問わない。そう、例えばいま新婚だったとしてもよい」

バルカンはそう淡々と言って「俺の下に嫁ぎ、人間界と竜族の架け橋となってくれる女性ならば」そう言うと再びニヤリと笑い、背もたれに寄りかかる。と、ブツリと映像が途切れた。

「この条件はなんか軟派ですよね。王の好み次第ということでしょうかね、あーあ……やっぱりルッキズムなんて言っても綺麗ごとですよね~私もイケメンと結婚したいもんなあ。結婚してる人ってもうすでに選ばれてるから……美人が多いですもんね」
マリエルは少し眉を寄せながら言ったが、フロティナにだけはこの条件の意味が分かっていた。

(想い人が既婚者だった場合を考慮しているんだわ……)

「北側から順に訪問が始まるみたいですよ~!ああ、どうしよう!家に来るまでに運命の人が見つかっちゃたら~!」そう言って身をクネクネと揺らすマリエルを見て……フロティナは思っていた。
(残念ながら……これは出来レースなのよ……)と――――


「どうせ選ばれないわ、私なんて」フロティナは気まずそうに笑うとそう言って、コップを使用済みのトレイに置いた。
「え?そんなあ!先輩ワンチャンありますって!先輩はとても魅力的です!」マリエルはひな鳥のようにちょこちょことフロティナの後ろを付いて回る。
(マリエルさん!絶対ないの……私もあなたも絶対に選ばれないのよ~!)フロティナは喉まで出かかった言葉を無理やり飲み込む。

「魅力的?嬉しいわ。でも玉の輿だなんて夢があるわね」
「あー、夢が広がりますよねえ」
純粋に目をキラキラと輝かせている……そんな彼女にそんなことをいう事ができなかったのだ。
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