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「先輩!来ます!うちにも!」
数日後、泊まり込んだ職場のロッカーであくびをかみ殺しているとマリエルがバタバタと駆け寄ってきた。
「え?何々!?」
フロティナはそんなマリエルに驚きながら作業着を羽織る。
「来ます!今日職場に!バルカン・ドラゴンイエーガー様が!」
「え?」
マリエルは鏡の前でルンルンと髪型を整えている。
「ま、待ってマリエルさん……自宅に訪ねてくるんじゃないの?」
「職場にも来るみたいですね。仕事で不在の人もいるだろうし……ほら、先輩なんか何日も帰ってないじゃないですか」マリエルはポケットからリップを取り出して唇に塗っている。
(バルカン様……!ここにはお探しの人物はいらっしゃらないです!)
フロティナはバルカンの効率の悪さに慄いた。そして……今日会ったらアドバイスをしてあげようと思う。
(想い人は足のサイズが特殊なのかしら……街の靴屋に足型を確認させてもらえばもしかするとすぐ巡り会えるかもしれません)
フロティナはそこまで考えて……胸がチクりと痛んだ気がしたけれど咳払いをして誤魔化した。
「え……大型獣が?」
バルカンの来訪を待っていると、オーナーがフロティナに声を掛けてきた。
大型獣が誤飲をしたのか、顔色を悪くしてえずいているようなのだ。
「た、大変!今すぐ向かいます」フロティナが慌てて飼育棟に向かおうとすると……マリエルが話しかけてきた。
「先輩!?玉の輿は!?」
「だ、大丈夫!私は選ばれないから……!」
マリエルの言葉にフロティナはそう答えて走る。
そもそもバルカンの婚姻者探しに参加するかどうかは自由で強制ではない。
(探しているのが私ではないのはハッキリしているんだし……)
フロティナは少し残念な気分になっている自分が不思議でならなかった。
会ってもなんの意味もない。
それにバルカンの周りにいる部下は優秀だろうし、フロティナが思いつくようなことは全て試しているかもしれない。それでも出会えなかったから今回のような最終手段なのかもしれないのだ。
「ああ!」
フロティナが息を乱しながら大型獣の下に駆け付けると、彼は横に倒れ顔はチアノーゼ症状がみられた。フロティナは服を脱ぎ捨てて大型獣のだらりと垂れた舌の上をすべるように口の中に入り込んだ。嘔吐反応すら見られない。
(何を飲んだの……?気管が塞がれているんだわ!)
フロティナは精一杯腕を伸ばすと手の先に何かが触れた。
(ツルツルしてる……これはボール?)
フロティナはこの空間に存在しているはずのない物だ……と考えを巡らせた。
この大型獣は非常に温厚な性格をしているが、知能は人間の子どもで言えば二歳児程度だ。
口に入るものならばなんでも口にしてしまう。
特にボールは、彼らの数少ない飼育下の記録においても、傍に置いてはいけないものとして有名なのだ。
野生下においても、人間が持ち込んだ球体状の物体で窒息死してしまった事例が社会問題になったこともある。
(そんなこと今はどうでもいい……どうしよう!息が止まってどれくらい経過しているの!?)
フロティナは一度彼の口から抜け出すと、掃除用具まで駆けた。
全身がドロドロだが……今はそんな事を気にしている場合ではない。
「駆虫用のトリモチが……確かここに」
フロティナはゴソゴソと手探りで中をまさぐりながら、だから整理整頓をしておけと日頃から行っていたのだ。と自分自身に悪態をついた。ここはフロティナの職場なので全て彼女の責任だ。
整理整頓していないのも、全身がドロドロなのも――――それでもフロティナは過去の自分を呪う。
これで彼が死んでしまったらどうしよう!
もうチアノーゼが出てる。
「あった!」
フロティナはトリモチの包みを見つけ、モップの先に素早くつける。
手が震えて上手くいかない。
(落ち着いて……)フロティナは最悪の事態の可能性から今は敢えて目を逸らすことにした。
「………………大丈夫、絶対助かる……!」
フロティナはそう呟いてトリモチを大型獣の喉に差し込んだ。
「……だ、大丈夫!?ああ……よ、よかった!」
フロティナの何度目かの人工呼吸で大型獣がケンケンと咳を繰り返す。
フロティナはドロドロの身体で大型獣に抱きつくと、彼は一つだけ付いた目を丸くしてパチパチと不思議そうに瞬きをしている。
「よかった……もう死んでしまうかと思った」
フロティナはポロポロと涙を流して彼の鼻先を撫でる様に抱き着くと、まだ弱弱しくはあるけれど大型獣はそっと彼女を舐めてくれた。
「先輩、あれは普通の女性は対象外ですね」
シャワールームから戻ってきたフロティナをマリエルが仏頂面で迎える。
「え?なにが?どうだったの?」
フロティナは頭をタオルで拭きながら彼女と一緒に席に着く。
「どうしてもこうしても……あの条件の中の一つに靴があったじゃないですか」
「ええ、クリスタルの。素敵な靴ですよね」
「そう!それなんですけど………………めちゃくちゃデカいんですよ」
マリエルは手を30センチ位の幅に広げて言った。
「え?そんなに?」
「竜王のガタイが良すぎて、お持ちになられているときは違和感がなかったんですが……はいてビックリ!ブカブカなんです!」マリエルはワナワナしながら言った。
それを聞いたフロティナは(想い人のあの女性……そんなに足が大きかったんだわ!)と驚愕したのだった。普通の小柄な女性に見えていたからだ。
数日後、泊まり込んだ職場のロッカーであくびをかみ殺しているとマリエルがバタバタと駆け寄ってきた。
「え?何々!?」
フロティナはそんなマリエルに驚きながら作業着を羽織る。
「来ます!今日職場に!バルカン・ドラゴンイエーガー様が!」
「え?」
マリエルは鏡の前でルンルンと髪型を整えている。
「ま、待ってマリエルさん……自宅に訪ねてくるんじゃないの?」
「職場にも来るみたいですね。仕事で不在の人もいるだろうし……ほら、先輩なんか何日も帰ってないじゃないですか」マリエルはポケットからリップを取り出して唇に塗っている。
(バルカン様……!ここにはお探しの人物はいらっしゃらないです!)
フロティナはバルカンの効率の悪さに慄いた。そして……今日会ったらアドバイスをしてあげようと思う。
(想い人は足のサイズが特殊なのかしら……街の靴屋に足型を確認させてもらえばもしかするとすぐ巡り会えるかもしれません)
フロティナはそこまで考えて……胸がチクりと痛んだ気がしたけれど咳払いをして誤魔化した。
「え……大型獣が?」
バルカンの来訪を待っていると、オーナーがフロティナに声を掛けてきた。
大型獣が誤飲をしたのか、顔色を悪くしてえずいているようなのだ。
「た、大変!今すぐ向かいます」フロティナが慌てて飼育棟に向かおうとすると……マリエルが話しかけてきた。
「先輩!?玉の輿は!?」
「だ、大丈夫!私は選ばれないから……!」
マリエルの言葉にフロティナはそう答えて走る。
そもそもバルカンの婚姻者探しに参加するかどうかは自由で強制ではない。
(探しているのが私ではないのはハッキリしているんだし……)
フロティナは少し残念な気分になっている自分が不思議でならなかった。
会ってもなんの意味もない。
それにバルカンの周りにいる部下は優秀だろうし、フロティナが思いつくようなことは全て試しているかもしれない。それでも出会えなかったから今回のような最終手段なのかもしれないのだ。
「ああ!」
フロティナが息を乱しながら大型獣の下に駆け付けると、彼は横に倒れ顔はチアノーゼ症状がみられた。フロティナは服を脱ぎ捨てて大型獣のだらりと垂れた舌の上をすべるように口の中に入り込んだ。嘔吐反応すら見られない。
(何を飲んだの……?気管が塞がれているんだわ!)
フロティナは精一杯腕を伸ばすと手の先に何かが触れた。
(ツルツルしてる……これはボール?)
フロティナはこの空間に存在しているはずのない物だ……と考えを巡らせた。
この大型獣は非常に温厚な性格をしているが、知能は人間の子どもで言えば二歳児程度だ。
口に入るものならばなんでも口にしてしまう。
特にボールは、彼らの数少ない飼育下の記録においても、傍に置いてはいけないものとして有名なのだ。
野生下においても、人間が持ち込んだ球体状の物体で窒息死してしまった事例が社会問題になったこともある。
(そんなこと今はどうでもいい……どうしよう!息が止まってどれくらい経過しているの!?)
フロティナは一度彼の口から抜け出すと、掃除用具まで駆けた。
全身がドロドロだが……今はそんな事を気にしている場合ではない。
「駆虫用のトリモチが……確かここに」
フロティナはゴソゴソと手探りで中をまさぐりながら、だから整理整頓をしておけと日頃から行っていたのだ。と自分自身に悪態をついた。ここはフロティナの職場なので全て彼女の責任だ。
整理整頓していないのも、全身がドロドロなのも――――それでもフロティナは過去の自分を呪う。
これで彼が死んでしまったらどうしよう!
もうチアノーゼが出てる。
「あった!」
フロティナはトリモチの包みを見つけ、モップの先に素早くつける。
手が震えて上手くいかない。
(落ち着いて……)フロティナは最悪の事態の可能性から今は敢えて目を逸らすことにした。
「………………大丈夫、絶対助かる……!」
フロティナはそう呟いてトリモチを大型獣の喉に差し込んだ。
「……だ、大丈夫!?ああ……よ、よかった!」
フロティナの何度目かの人工呼吸で大型獣がケンケンと咳を繰り返す。
フロティナはドロドロの身体で大型獣に抱きつくと、彼は一つだけ付いた目を丸くしてパチパチと不思議そうに瞬きをしている。
「よかった……もう死んでしまうかと思った」
フロティナはポロポロと涙を流して彼の鼻先を撫でる様に抱き着くと、まだ弱弱しくはあるけれど大型獣はそっと彼女を舐めてくれた。
「先輩、あれは普通の女性は対象外ですね」
シャワールームから戻ってきたフロティナをマリエルが仏頂面で迎える。
「え?なにが?どうだったの?」
フロティナは頭をタオルで拭きながら彼女と一緒に席に着く。
「どうしてもこうしても……あの条件の中の一つに靴があったじゃないですか」
「ええ、クリスタルの。素敵な靴ですよね」
「そう!それなんですけど………………めちゃくちゃデカいんですよ」
マリエルは手を30センチ位の幅に広げて言った。
「え?そんなに?」
「竜王のガタイが良すぎて、お持ちになられているときは違和感がなかったんですが……はいてビックリ!ブカブカなんです!」マリエルはワナワナしながら言った。
それを聞いたフロティナは(想い人のあの女性……そんなに足が大きかったんだわ!)と驚愕したのだった。普通の小柄な女性に見えていたからだ。
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