【R18】夫には想い人がいるので

mokumoku

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「先輩、私たちいい年じゃないですか?」
「突然なんて無礼なの?マリエルさん、そんなハッキリ言わないの♡」フロティナは彼女のあまりにも突然な無礼にニコニコ笑った。
「ダメダメ!いいですか先輩!いくら見た目がよくて性格が良くても……私たちには出会いがないのがいけません!」マリエルは全然気にしていない様子で椅子から立ち上がり、拳を握っている。
「あらー……」
「そ、こ、で!ほら!パーティーの招待状です!」
マリエルはそう言いながら一通の封筒をフロティナの前に突き付けた。

「パーティー?」
フロティナはより目になりながらそれを読む。
そうやら今月末、国が開催する独身者に向けての婚活パーティーがあるらしい。
(あら……?なぜ私には招待状が来ないのかしら……独身なのに、税金も払っているのに…!)
国にまでつまはじきにされた気分になったフロティナは少し影を背負う。
飲食店でいくら待っても……自分だけ水が来ない……
商品を購入した店舗に質問メールを送ったのに既読スルーされる……
自分が買ったコンビニのおにぎりには具が入っていない……
なぜか自分の前でお目当ての物が売り切れる……

「あああああああ」
フロティナは今までの不憫を思い出し頭を搔きむしった。
「先輩!わかりますわかります……将来への不安で頭が痛いですよね」
「……不安……」
マリエルはウンウン、と慈悲深く頷きフロティナの肩に優しく手を置いた。
「行きましょう、婚活パーティー!」
マリエルはそう言った。

その時、休憩室にいたオーナーがコーヒーに口をつけながら「なんだ、君たちは結婚願望があるのか」と笑う。マリエルは口先を尖らせながら「オーナーはいいですよね、結婚してお子さんもいるから」と恨めしそうに言った。
オーナーは街一番の豪商の御曹司で、フロティナとそう年齢は変わらないがもう妻子持ちだ。

「結婚は人生の墓場だからな~」
「そんなことありませんよ!あんな美人な奥様じゃありませんか……」マリエルはオーナーの言葉に呆れたような視線を返すとそう言った。

(婚活パーティーかあ……)
フロティナはまんざらでもない気分で仕事に戻ると、檻の前の通路をぼんやりとほうきで掃いた。その時

――――――――――――――――



「ねえ、ねえ、フロティナ」と声がしてフロティナは驚いた。



――――――――――――――――

「なーにを着ていこうかな~♡」
フロティナは自宅でウッキウキだった。
クローゼットからドレスを引っ張り出して鏡の前で合わせる。
「やっぱりこっちかな~」
そう言って好みの色のドレスを引っ張り出したのだが……それがバルカンと初めて会った時に来ていたものだと気づいて――――フロティナは真顔になった。
「……バルカン様の想い人、見つかったのかしら」
フロティナはそう呟くとドレスを抱きしめ、首元から腹部を覗き込んだ。
自分の腹部には当然シミ一つなく――――とても滑らかだった。




「先輩!こっちですこっち!」
パーティー当日、フロティナが会場のホールでキョドキョドしているとマリエルが声を掛けてくれた。
「あらーマリエルさん。こっちが北側です?」
「もー!先輩!先輩の居た方は東です!なんで南ですらないんですかあ」マリエルは呆れたようにフロティナを見た。フロティナは壊れてしまったのか、北を指さない方位磁石をマリエルに見せて笑う。

「ふふふ、お茶目♡」
「もー!会えたからよかったものの~」マリエルは小首をかしげるフロティナにじっとりとした視線を送ると「招待状がないと入れないんですからね」とフロティナに言った。

どうやらこのパーティーは招待状を貰った本人以外一名の帯同が許されているようだ。
本来だとお目付け役のような人を連れてくる目的で設定されているらしいけれど、身分の証明などを提出する必要はない。完全に性善説に頼ったものだ。

「だから――既婚者もいたりするらしいんです」
マリエルはうんざりしたような顔で言った。
なにか嫌な思い出があるのだろうか…………

「あら……」
「既婚者じゃなくても婚約者や恋人がいたりすることがあるので、まず確認するのが大事みたいですよ!お姉ちゃんが言ってました」マリエルはエッヘンと胸を張った。
「恐ろしいわ……」
「ね、本当に何考えているんでしょうかね?先輩って浮気許せます?」マリエルは入り口でドリンクのチケットを受け取ると一枚をフロティナに渡す。

フロティナは少し考えたあと――――「好きな男性の……子種だけをもらう人生もありだったのかもしれない……」となんだか遠い目をして言ったのでマリエルは慌てた。
「いいですか先輩!我々は幸せになるに相応しい女性なんです!自分を大切にしない人物は他人からも大切にされませんよ!」マリエルはチケットと引き換えに受け取ったドリンクを掲げてフロティナのグラスに合わせる。

「幸せに…………」
「そうです先輩、それに先輩は見た目が美しいのできっと男が群がるでしょう。それのおこぼれを私にください!ほら胸を張ってください!」

マリエルに背中を押されてフロティナは胸を張った。
彼女の豊かな胸がさらに強調される。
(そうね!せっかくだもの!前向きに婚活を楽しもう!)


――――――――――――――――


「あ……ありがとうございます。はい、それはもう……」
フロティナは次々に来る男性から自己紹介を兼ねた名刺を手渡されてペコペコと頭を下げる。
「フロティナさんがここに参加してらっしゃるなんて…今特定のお相手はいらっしゃらないんですか?」
みんなそう言って優しくフロティナに接してくれる。

いつものパーティーと違い、自分を見る目が爽やかなのも……フロティナはなんだか居心地がよかった。そうしてニコニコしていると……「フロティナ」と誰かに呼ばれたので振り返る。

「……オーナー……」

そこにはモンスター飼育施設のオーナーが立っていた。
今まで列を成していた男性たちは、豪商の御曹司の登場にパラパラといなくなる。
彼とトラブルになるのは決していいことではないからだ。

「本当に参加しているとはなあ」オーナーは、ニヤニヤ笑いながらフロティナの肩を抱く。
その親し気な二人の様子に、周りの男性は「やっぱりな」とでも言いたげな表情で苦笑いをしている。
「あの、オーナーはどちら様かの付き添いで?」
「いとこが適齢期だからな」オーナーはそう言ってネクタイを触ると、フロティナにコッソリ耳打ちをした。
「君、俺の愛人になれよ」
フロティナは頭を殴られたような気がした。
遂に言われてしまった――――――

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