【R18】夫には想い人がいるので

mokumoku

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フロティナは檻の前で呼び止められた時の事を思い出していた。

――――――――――

「フロティナってば」
フロティナは恐る恐る声のする方へ進む。
なぜならここには……会話でコミュニケーションをとれるモンスターなどいないはずなのだが……

「こっち、こっち」
「え……?」

声の主は……小さな鳥かごに住むフェアリーだった。
彼女は彼女の身体のサイズに合わせて作られた小さなソファに脚を組み座ると、うんざりした様子で「なかなか気づかないんだもの」と目を丸くするフロティナを軽く見上げている。

「あなた……話せたの?」
「そう、バレてないだけ」

基本的に通常フェアリーは非常に知能が高く、人間と器官の形状が似ているので言語さえ学べば会話でのコミュニケーションが可能だ。
しかし――――――

「あなたは会話が出来ないと聞いているわ。声が出ないと」フロティナは胸ポケットから情報保管機を取り出すと彼女の情報を検索した……やはり会話の項目に「不可」と表記がある。
「大変だったわ。捕獲された時――声を出さないように失声の効果がある実を飲み込んでいたんだもの」フェアリーはうえっと顔を顰めて言った。

「失声の効果のある実?」
「まあ、効果はそれだけじゃないけど……人間は知らないし知らせない。あなたたち根こそぎ取っていくもの。それに悪いことに使うかも。私たちの神はそんなことを望んでいないわ」

フェアリーの言葉にフロティナはやんわり反論しようとしたけれど……その言葉は「自分なら根こそぎはとらない」程度の言葉であって…………人によっては全て自分の物にする人間もいるだろうな、と口を噤んだ。

「…………見て?綺麗でしょ?」
フェアリーはフロティナをじっと見つめながら自身の羽をパタパタと動かした。
美しく煌めく星屑のような鱗粉が、羽を動かすたびにキラキラと舞う。
「ええ、とっても。…………でもそのせいであなたちは絶滅の危機だわ」
フロティナは眉を下げて言った。
彼女たちの美しい羽根は高価な宝石と同じくらい価値があるのだ。それに……フェアリーの伝説がその鱗粉にすら値段をつける。

はじめは言葉を交わし合える人間とフェアリーは仲良くやっていたと思う。
しかし人間が、そんな彼らを欲の為に捕まえ羽根を奪うようになった。
羽根を失ったフェアリーは死んでしまう。捕まった人間たちは口々に言った。「死ぬなんて思わなかった」と

「フロティナ、あなたのこと逃がさないってあの男が言ってた。この前」
フェアリーは柵を掴み、顔を寄せて言った。
「あの男?」
フロティナの脳裏にバルカンの姿がよぎるが……彼をフェアリーが知っているわけがない、と首を振る。フェアリーはオーナーにそっくりな特徴をフロティナに告げ「あなたがここの施設には必須だから……逃げられないように手籠めにするって」心底嫌そうに顔を歪めて言う。

「…………」
「確かにあなたが居なければこの施設は回らない。レッドゾーンのモンスターを従えることができる人間なんて……あなた以外にいないもの」フェアリーはそう言って籠のなかをゆっくり歩いた。
人間にとっては小さな空間だが……フェアリーの彼女にとってはかなり広い空間だ。それほどまでに彼女は小さい。

「……なぜその情報を私に?こんな……危険を冒して」
フロティナは自分が話せる事を告白してまで、フロティナに危険を知らせてくれたのは何か理由があるはずだと考える。
「……あなたが優しいからよ」
「ふふ、嬉しい。他には?」ツンとすました様子でそう答えるフェアリーにフロティナはニッコリ笑って先を促した。

「……私がなぜここにいるか知ってる?」
「……ケガをしたからよね?足の骨が折れていて……」フロティナはフェアリーがここに連れてこられた当時を思い出してっそう言った。彼女の骨折は酷く、骨が見えていて……あちこちに切り傷があったのだ。

「ここまで良くなってよかった」
「これも全部あの男たちがやったのよ」フェアリーはフロティナをじっと見つめて言った。
「え?」
「あいつら……うちらの仲間を乱獲して、羽根を奪ってる。私はたまたまポケットに失声の実が入っていたから…………痛めつけても悲鳴を上げない私を見て話せないと誤解して、都合がいいから研究のために生かされたのよ」フェアリーは悔しそうに顔を歪めて言った。





フロティナはあの時のことを思い出し、オーナーに甘い言葉を囁かれ背筋にゾクゾクと寒気が走る。

「……妻のことは愛していない。政略結婚なんだ。君にはなんでも好きな物を買ってやれるし家も建ててやる」
「オーナー……」フロティナはゆっくり顔を上げるとオーナーの目をじっと見つめた。

なんて美しい瞳なんだろう。

――――絶対にあの男の物になってはダメよフロティナ――――――

フェアリーの言葉を思い出す。

――――大型獣にあの男が何をしたか……私全部見ていたわ!あの男は悪魔なの!甘いマスクに騙されないで――――

オーナーは人好きのする顔をふ……と綻ばせながら「本当に愛した女と……最期は共に過ごしたいんだ」と言ったのでフロティナは「わかりました、それでは今後どうぞよろしくお願いいたします」あっさりと頭を下げた。


(おい!?フロティナ!騙されるなって言ってんだろ!)
心の中のフェアリーが悲鳴のような声を上げている。

果たしてフロティナは――――――金に目が眩んでしまったのだろうか……
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