【R18】夫には想い人がいるので

mokumoku

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「まずはバルカン様のことを調べましょう」
「竜王を?知らないのかよ」フェアリーは呆れたようにフロティナを見ている。
この国の王立図書館は森の深くにあるようで、フロティナとフェアリーは大型獣の背中にゆられながら、のんびりとそこを目指した。

「何も知らない……私たち会ったばかりだもの」

大型獣がフンフンと時折道端に生えた草を嗅ぎながら進むので、王立図書館に到着したころにはすっかり暗くなっていた。

「コイツはもう~ニオイを嗅ぎすぎなんだよ」
「久しぶりの自然だもの……許してあげましょう?」不機嫌そうなフェアリーに、申し訳なさそうに伏せる大型獣を見て……フロティナは気の毒になってしまった。彼の背中を優しくなだめるように撫でる。

しかし緑の木々に囲まれたこの図書館は、青い空の下ならば大層美しいだろう。
全体をガラスで覆ったような外観はまるで映画のセットのように幻想的だ。
その周りを流れる美しい小川は、まさにこの国の王家の清らかさを象徴するもののはずなのだが……フロティナの頬はなぜだかピクピクと引きつるのが止められなかった。

(全然過去の女性ではないじゃない……ふふふ、一夫多妻制かしら?調べましょうね。ちゃんと土台をしっかり固めてから……責めて責めて責めましょうね♡あら……なにかしら……心が落ち着いてきたわ……)

フェアリーは明らかによくない事を考えているであろうフロティナの周りを飛び回り、少しでも心が平安になるようにフェアリーの粉を彼女に掛けた。

大型獣を傍の大木にくくりつけ、フロティナとフェアリーは王宮図書館の前に立つ。
外堀と図書館の間には大きな架け橋があって、そこを歩きながらフェアリーはフロティナに語り掛けた。

「おい、まだ決定的な証拠を見たわけじゃないじゃないか。ただ上裸になっていただけだ」
「私……悪い方に考えておくタイプなんです。その方が違ったら『よかった』と思うし、想像の通りだったら『やっぱり』ですむではありませんか。心のダメージが少なくてすみます」


フロティナは真っすぐ前を向いたままそう答えた。
「…………でも全てを知ってどうするんだ」
「わかりません……でも知りたいの」フロティナはなんだかチクチク痛む胸を無視しながらそう言った。


小さなフロティナが袖を引っ張ってくる。

「ショックだね、でもバルカンはそんな人じゃないよ」
でもフロティナは心の中で返すのだ。
「大人になると変わるのよ、あの女性に会っていたことバルカン様隠していたじゃない」と――――――



王立図書館の扉の前に立つと、木の扉の表面を伝う様に水がチョロチョロと流れ落ちている。
フロティナは少し戸惑い気味にその扉に手を近づけると、水はピタリと止まったので押して開ける。
床も全てクリスタルでできているのか、透明な床に丸く囲われた壁にはびっしりと本棚が並べられている。それぞれの階が回廊のようになっていて、下から見上げると吹き抜けのように高さがある。その周りが全て本でできているようだ。

バッサバッサと大きな音を立てて、フクロウがフロティナの肩に止まる。
そうやら彼はここの図書館の案内役のようだ。

「王家の資料が見たいんです。今の王の資料を」

フロティナがそう語りかけると、大きく縦に首を振りフクロウは飛び立った。
グルリと旋回しながら上に上にのぼり、またゆっくりと下に降りてくる。
一連の流れはとても美しくまるでショーをみているかのような錯覚にとらわれた。

「JMの6」

フクロウはそうひと言フロティナに告げ、またバッサバッサと羽音を立てて去って行った。








「ハアハア……どんだけ上がれば着くんだよ……」フェアリーがヒョロヒョロと飛びながらフロティナの肩で休憩をする。
「なかなか着きませんねえ……」フロティナも少し疲れてきた。
もしかすると古い物から下に、新しいものほど上にあるのかもしれない。

「一休みしましょう」フロティナはフェアリーに声を掛けてフロアに座り込む。
そしてそこにあった本をなんとなく手にとり、パラパラとページをめくる。

そこは人間界においての生贄文化の解説と、竜族の「我々に自然災害をコントロールする権限はない、非常に迷惑である」との一言で締められていて思わず笑う。そしてふと――――じゃあ今まで生贄になった人間はどこにいったのか?とフロティナは思った。

どうやら人間界で竜の怒りとして扱われていた自然災害は竜の怒りのせいではなく、生贄も彼らにとっては迷惑だと感じていたようだ。

フロティナが傍にある文献の表紙をかたっぱしから目で追う。


『生贄文化』
『生贄と災害の発生頻度』
『生贄の取り扱い方法と法』
フロティナは本を一冊取り、目次に目を通す。
生贄としてこちらにやってきた人間の取り扱い方法の各項目の後に『生贄一覧』と書かれた項目を見つけ――フロティナの胸ははちきれんばかりに鳴り始めた。

なぜだかこれを見てはいけないような気がする。

『生贄と婚姻』
『生贄の自由と尊重』
『生贄の解放』
『生贄の永住権について』

様々な項目にフロティナの目が滑る。
もともと生贄は竜への花嫁という形で献上されるものだ。

バルカンは生贄と婚姻を考えただろうか。
『生贄一覧』
フロティナがそこを捲ると――――バルカンの幼馴染の写真がそこにはあった。
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