【R18】夫には想い人がいるので

mokumoku

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「バルカン様、こちらのお茶はとても苦くてらっしゃるわ」
1年後、ヴェルティナは教育のかいもあり王妃らしい言葉使いや所作を身に着けていた。
が――――
「そうか?苦いか?」
「少し苦くございます。バルカン様の舌はなにかでコーティングされているのでは?」

ヴェルティナはそう言ってニッコリ笑う。
「ふん、相変わらず……無礼な女だ」バルカンは中身は相変わらずな様子の彼女に、憎まれ口を叩きつつも愛おしく思っていた。ずっとそれが続くと思っていた。


――――――しかしバルカンに少し気になることがあった。


ヴェルティナは時折人間界から手紙を受け取ったりしていたようだけれど――身寄りもないと言っていたので知人か友人だろうか?
しかしバルカンはその手紙に目を通すティナの様子に……少し不安を覚えてもいた。
なんとなく、彼女がふといなくなってしまう気がしたのだ。
(男の嫉妬は醜いぞ、ティナが俺を裏切るはずなどないではないか)


「――――ティナ」

バルカンはそっと彼女の名前を呼んだ。
「……え?ど、どういたしました?」
ヴェルティナが少し気まずそうにこちらを見る。


「首元から何か出てるぞ」


バルカンはそう言って彼女の背中に首筋から手を入れると、肩甲骨の上あたりに自分の鱗を忍ばせた。彼女は自分のものだと――――印をつけたのだ。

「そろそろ手紙は検閲する必要がありそうだな」

バルカンはヴェルティナの肩を抱きながらほの暗い声色でそう言った。
バルカンはそれを一生後悔することになる。
口に出さなければよかったと。




「ティナ?」


ある日、彼女の部屋に行くとそこはもぬけの殻だった。
番を失ったバルカンは必死になってヴェルティナを探したけれど――彼女は見つかりはしなかった。



――――――――――――――――――


「もう待つことはできないよ、残念だけどね」

ヴェルティナがいなくなってからしばらく経ったある日――祖母に呼び出されてそう言われた時、バルカンは最後の頼みだと彼女に告げ人間界にやって来た。
これで見つからなければ、自分は王座に就くために誰かを王妃に選出しなければならない。
愛していない番でもない女だ。
それは互いの不幸を意味している。
(それだけは避けなければならん)バルカンは悩みに悩んだ結果……人間界に暫く居住することにした。

人間界は勿論何度か捜索に行ったが、短期間では波長が合わなかったのかもしれない。
バルカンは人間界のどこかにいるであろう番を見つけるために暫く人間として生きる事にしたのだ。
これが最後のチャンスだ。


それなのに――――



職場の上司に誘われて参加したパーティーで、豪商の会長だという男に新商品だとすすめられた酒を飲んだ途端心臓の鼓動が早まる気がした。
少し酔いが回りすぎたような様子を見せたバルカンに、上司が「気分が高揚するエキスが入った酒らしいぞ」と耳打ちをしてきた。
確かにそう言う上司も上機嫌な様子だった。

バルカンは(人間ごときが飲む量なら平気だろう)とタカをくくっていたのだが――――

(なんだ……?これはまるで媚薬のようだ)

バルカンが毒の教育の時に少しだけ体験した媚薬への反応に身体の症状が似ていると思った。
竜の身体には炎が宿っているため、他の生物に比べて媚薬に効き目が強く出る――――そう講義のときに言われたことを思い出す。だから気をつけねばなりませんよ、と――――
(クソ、そうと分かっていれば……)頭がクラクラする…………バルカンはヴェルティナの記憶の香りに股間を硬くした。このままではいけない……(ひ、人の少ない所に行こう)そこで代謝されるのを待つのだ。

そうしてバルカンがふらふらと庭に出た時に、フロティナに会ってしまったのだ。
バルカンは媚薬のせいか番ではないはずの彼女に心のときめきが止まらなかった。
なぜ番でないと感じたのか?それは彼女からは、自分がつけた印が見えなかったからだ。
彼女は鱗を持っていない、自分の番ではない。

(落ち着け、この女は俺の番じゃないヴェルティナじゃない。全て媚薬のせいだ)

バルカンはズキズキと痛むこめかみに気をとられながら必死でそう自分を制した。
「大丈夫ですか?」
彼女の声が甘くバルカンの耳に届く。
それは彼の背筋をゾクゾクと震わせるほど熱かった。
バルカンは彼女にヴェルティナの香りを感じた気がして気がくるってしまいそうだった。
愛しくて愛しくて……堪らない俺のヴェルティナ。


バルカンはヴェルティナを想いながら、この得体のしれない女の手で何度も射精をした。
なんという屈辱だろうか――――


その日、フラフラと軍の寮に戻ったバルカンは自分の腹部に浮かび上がった文様を見て絶望した。
この時、バルカンはフロティナと結婚しなければならない運命を背負ってしまったのだ。
結婚相手が見つかったことを報告した時、祖母は大層喜んで側近を仲人として寄こした。
本当は祖母が行くと騒いだのだが……バルカンがまだ正体を隠しておきたいと説得したのだ。

(あの女、もしかすると俺が竜族の王位継承者だと気づいて近寄って来たのかもしれん。もしかして媚薬を盛ったのもあの女では?)バルカンはフロティナの落ち度を探すのに必死だった。
そして結婚の逃げ道はないものかと模索していたけれど――――遂に婚約の申し込みの顔合わせの日が来てしまう。

バルカンは頭を抱えた。
しかしこの結婚を回避する方法は思いつかないままだった。
もうこの結婚の解決法は「一度は結婚して後継者を作った後、ヴェルティナを第二婦人にする」位しかなかった。
(ク……いや、そんな不義理な……どうしたらいいのだ)


「はじめまして、私はフロティナ・ヴィエントです。お会いできて光栄でございます」
ニッコリ笑うフロティナを見て――バルカンの胸は熱くなった。あの夜の事を思い出す。
(落ち着け、性欲だ。騙されるなこんなものに!ただ少しばかり可愛らしいだけではないか!この女はヴェルティナではないんだぞ!)バルカンはフロティナに冷たい視線を送る。
見れば見る程――――なんだか顔が熱くなる気がしてバルカンはフロティナから目を逸らす。

――――――ん?

バルカンはフロティナの仲人を見た。


(……どこかで見たことがあるぞ)


バルカンがその人物を見つめていると彼はニカっと人好きのする笑顔を見せて「若いお二人で庭の散策でもいかがですか?ここの庭はとても立派でございまして」と言った。





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