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しおりを挟む「わあ可愛い鳥」
自身の肩に止まった青い鳥に指を啄まれるフロティナを見て、バルカンは息が止まってしまうような心地がした。
「……なんということだ」この鳥は警戒心がかなり強いだけではなく、プライドも非常に高い。
自分より下だと判断した生き物の肩に止まるのはあり得ない。
まして人間など――――
(やはりあれは竜の鱗だ)バルカンはそう確信した。
竜の鱗はこの世界の王者のオーラを放つ。
野性味に強い生き物にはその気配がわかるのだ。
バルカンは鳥が逃げたことで、今の人型に擬態した鱗のない自分ではその効果はないことを知る。ではやはりフロティナは…………少なくとも竜族と接触したことがある人間ということだ。
「あ、危ないですよ」フロティナがそう声を掛けるとよそ見をしていたバルカンは、木の枝に頭を打ち付けた。
(ク……クソ!何だって言うんだ!フロティナ…………お前は)
バルカンは居酒屋で手洗い場から戻ると……フロティナが果実を口にしているのを見た。
(それは……)
バルカンはかつて王位教育の時にスライドで見せられた覚えのある果実に気付いてしまっていた。
バルカンはその果実の効果を知っている。
それは特定のモンスター以外の生き物が摂取すると感情をコントロールすることが出来なくなる、サイコプスベリーだ。
バルカンは「サービスだそうで、甘くておいしいですよ」と潤んだ瞳でこちらを見るフロティナを見て――――思わずそれを口にした。
(これを手に入れられるのは……竜王だけだ)
サイコプスベリーを好んで食べるモンスターたちは、他の生き物にこのベリーを渡すことは絶対にない。しかし竜王の圧倒的な力には彼らも目をつぶる。
しかし竜王の中でもこのベリーは滅多に使用されることはない。
あるとしたら、国の存続危機の場合なのだ。
(おばあ様……?どういうことだ?)
バルカンはそれを咀嚼し、飲み込むと途端に理性がガラガラと音を立てて崩れていくような気分に溺れてしまいそうになった。
「小さい顔だな……」フロティナの全てがバルカンの視覚や触感から入り込んでくる。
触れてはいけないのだ、自分の番はヴェルティナだけなのだから――――わかってはいるが押えが効かない。
「バルカン様の手が大きいのです」
(試練か?)
バルカンは祖母が贈ったこの果実のそして頭を巡らせ――――抗った。
が、
「……一緒に入りますか?」
フロティナの甘い声にバルカンは喉を鳴らすと「その方がいいか……」と欲望に飲み込まれていった。ああ――――竜が一途だというのは噓だったのだ。
バルカンはフロティナの肌に触れながらそう思った。
彼女が愛おしくて愛おしくて堪らない。
きっとこれは祖母がその真実を自分に教えるために届けた甘い果実だ。
ヴェルティナに感じたあの恋しさを今確かにフロティナに感じている。
「……滑るぞ」
バルカンがそうしてフロティナの肩に触れた時――――――彼女の肩に張り付いた鱗が光を帯びた。(…………なんだ?)バルカンは欲望に巻き込まれながら、これは自分の鱗だと確信した。
でもなぜ?彼女は名を「フロティナ」と名乗った。
しかし今のバルカンにはそんなことは関係ない。
やはりフロティナは自分の番だったのだという確信で「今すぐ結婚しよう」バルカンは彼女に全裸でバッキバキプロポーズをした。そしてこれがこの問題の最適解な気がしていた。
(可愛い妻、そして彼女には富も権力も手に入るではないか……例え俺のことを好いてはいなくとも)
(しかし落ち着け)
バルカンは痛む首元を抑えながら考えた。
ティナはなぜ自分のもとから逃げ出したのか、と――――
(名まで変えて……俺との結婚が嫌だったからじゃないのか?)ヴェルティナは自分に好感を持っていたようにバルカンは感じていた。
しかし――――
バルカンは自分の正体に気付いたティナが、再び自分の前から居なくなることを想像してゾッとした。(黙っておこう)バルカンはそう心に決めた。
自分が竜王だとティナが気付いたら、彼女は自分を憎むだろうか…………バルカンの中に膨らんだ疑問は目の前の女性を逃したくない気持ちにかき消されていった。
「ティナ!?」
祖母に痣を消してもらい……眩い光に目が慣れてきた頃、バルカンはフロティナがいないことに気付いた。
「人間界に返した。そうか……お前は彼女を解放することを選んだんだな。しかしそれなら痣を付けんくても良かったろうに。いい思い出はできたか」
祖母は少ししみじみした様子で言う。
――――――バルカンにそんな気分は毛頭もない。
「おばあ様……!今すぐ彼女を連れ戻してください!」
「なにを言っておるんだ。……いい、お前は人間の幸せを選んだのだな。己の欲望だけではなく。人間は人間同士の結婚が一番だ」祖母はうんうんと頷きながら感慨深そうに言った。
「な、なんですって!?フロティナは人間の女性なのでもう一度しっかりと告白したかったのです。こんな無理やりではなく……彼女は俺の物だ!ちゃんと説得したかったのです……!」
「…………なんだと?」
バルカンはそう言うと王の間から飛び出した。
ティナ、ティナ、ヴェルティナ――――いや、フロティナ!俺のティナ……!
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