【R18】夫には想い人がいるので

mokumoku

文字の大きさ
46 / 48

46

しおりを挟む



「――――というわけだ」
「え?」フロティナはバルカンの話を聞いて、不思議な気持ちだけがただただ残った。
そんな記憶はなかったからだ。

「私はフロティナです……生まれてからずっと……あら……?」
「俺にもそれは分からん、でも間違いなくお前の背中にある鱗はおれがヴェルティナにつけたものだ」

戸惑うフロティナをなだめる様にバルカンはその背を抱く。

「……じゃ、じゃあ!この女性はなんですか?」
フロティナはバルカンから離れると、この診療所にいた女性を手で指し示して尋ねた。
この女性とはどんな関係なのだ。女性が肩をびくつかせている。

(怪しい!)
「……ははは、あーそれは……」

バルカンが非常に言いにくそうにしているのを見て、フロティナは記録機の動画を見せることにした。「なんだなんだ?」バルカンは呑気にそれに顔を寄せ、どさくさに紛れてフロティナの肩を抱いている。

(呑気にしているのも今のうちですよ!)
「バルカン様……あなたはこれから地獄に落ちますよ」

フロティナはそんな様子が非常に腹立たしかったのでじっとりとした視線を送る。
「おい!恐ろしいことを言うな!」

バルカンはこれから見せられる映像のことも知らずにいつもの調子で言った。「ふふふ……いーち、にー……」「ははは、どうした?アンガーマネジメントか?」



動画を見終えたバルカンはガックリと肩を落とした。
(もう言い逃れはできないわ)フロティナはポロポロ涙を流しながら「バ」ルカン様、と言う前に女性が「ど……どうか!罰するのは私だけにしてくださいませ!」と額を地面につける。
フロティナの頰に手を付けて涙を拭うバルカンは、それを聞いてギョッとしたような顔をした。
「……な、なぜだ?お主を罰するはずがなかろう!待てフロティナ!彼女は貧血でよろめいただけだ!」
バルカンは慌てた様子でその場で土下座をすると「す……すまんティナ!俺はお前が鱗を痛がるので脱鱗しようとしておったのだ!」と顔を真っ赤にしながら言った。

「「え?」」

「……なんとも男らしくない悩みだと……すまん、軟弱な……この町医者がここで唯一の人間医師なもんでな……相談しに来たのだ。こんなことで悩んでいるのが恥ずかしく……王宮医師には言えんかったのだ……」

バルカンは顔を真っ赤にしてそう言った。
「……え?そんな……この女性はあなたの想い人ではないのですか?幼なじみでは……」
「……?なに?俺は竜だ。お前しか番はおらん。彼女はもと生贄だ、幼なじみのわけなかろう」

バルカンは立ち上がるとフロティナを抱き寄せた。
バルカンがとても嘘をついているようには見えなくてフロティナは……目を丸くする。

「申し訳ございません……私が、私が全て悪いのでございます」町医者がそう言うと、傍に駆け寄る子を抱きながら顔を上げた。
「どういうことだ」
「私は……生贄としてこちらにやってまいりましたが……同時にこの子を身籠っておりました。その時に出産いたしましたが……竜国の力か成長が遅く、息子は今年15の年でございます」町医者がポツリポツリと話す。

彼女は一度、子どもを連れて人間界に戻ったが……その子の父親は既に他の女性と結婚していたようだ。


途方に暮れた女性は一人の男に声を掛けられた。
「どうしたんですか?」と。
その男はニカっと人好きのする笑顔を見せて、女性を見ると「おや?あなたはどこかで見たことがあるなあ」と顔を寄せた。

「私の子どもには生まれつき病気がありまして……その薬を人間界から安全に送る代わりに条件を結びました」その男は彼女の子どもを一目見て病気を言い当てると「生贄がここに来るのは…………よく思わない人もいるでしょうなあ」と顎に手をやって言った。

「……はい、それはもう」女性は生贄が生きて帰ってくるのは縁起が悪いとされていることも知識として知っていたので俯く。

あちらの世界でも薬はある。
が――――人間の薬はやはり人間が作るものが一番だ。

「私の会社の益になってくれるならば――協力いたしましょう」男はそう言ってニカっと笑った。


「私は駒になりました……」
女性はそう言って涙を流すと俯いた。
子どもは意味がよくわかっていないのか「ママ?」と不安げに指をしゃぶっている。
バルカンは「……つまりどういうことだ?お前……まさか妻になにかしたのか?」と訝し気に呟く。


今にも女性を罰してしまいそうな雰囲気を感じたフロティナは「何も……私には何もしていません、彼女は」と言った。
そして先ほどの動画を手のひらにのせて「私が勘違いをしただけです」とニッコリ笑う。

バルカンは「……本当か?」と訝し気に眉を寄せたけれどフロティナはニッコリ笑って「はい」と返事をした。「……でも、少しお話の中で気になる所があったのでこちらの女性には複数聞きたいことがあります」

フロティナはそう言って笑うとバルカンを見た。
女性はそのフロティナの様子を見て……ワッと顔を覆って泣き出してしまった。

「私は人間界から薬を手に入れるなんて容易いわ。だって王妃ですから……あなたは今後私への忠誠を誓ってくれますね?」
「……な、なんなりと……王妃様」

フロティナは涙声でそう答える女性に満足そうな笑顔を向ける。
「ただ……私、気になったことは最後まで知りたいの。協力してくれる?私はフロティナ・ドラゴンイエーガーです。あなたは?」
「私はセリナ……セリナ・マーセリンでございます」

女性はそう言うと、床に片膝をつき胸に手を当てた。王族に忠誠を誓うポーズである。

「一見不思議なことも…………知ってしまえば大したことがないものです。それに知らなければなかったも当然、一方知ってしまえば気になってしまいますよね。セリナ様、これからお世話になることも多いでしょう。なんせあなたはここで唯一の人間医師ですもの」


フロティナはニッコリ笑った。
しおりを挟む
感想 141

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?

あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。 「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意

王太子に理不尽に婚約破棄されたので辺境を改革したら、王都に戻ってきてくれと言われました

水上
恋愛
【全18話完結】 「君は中身まで腐っている」と婚約破棄されたエリアナ。 そんな彼女は成り行きで辺境へ嫁ぐことに。 自身の知識と技術で辺境を改革するエリアナ。 そんな彼女を、白い結婚のはずなのに「膝枕は合理的だ」と甘やかす夫。 一方、エリアナを追放した王都では、彼女の不在の影響が出始めて……。

一年だけの夫婦でも私は幸せでした。

クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。 フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。 フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。 更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。

病弱令嬢…?いいえ私は…

月樹《つき》
恋愛
 アイゼンハルト公爵家の長女クララは生まれた時からずっと病弱で、一日の大半をベッドの上で過ごして来た。対するクララの婚約者で第三皇子のペーターはとても元気な少年で…寝たきりのクララの元を訪ねることもなく、学園生活を満喫していた。そんなクララも15歳となり、何とかペーターと同じ学園に通えることになったのだが…そこで明るく元気な男爵令嬢ハイジと仲睦まじくするペーター皇子の姿を見て…ショックのあまり倒れてしまった…。 (ペーターにハイジって…某アルプスの少女やんか〜い!!) 謎の言葉を頭に思い浮かべながら…。 このお話は他サイトにも投稿しております。

〖完結〗終着駅のパッセージ

苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。 彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。 王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。 夫と婚姻してから三年という長い時間。 その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。 ※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。

あなたの言うことが、すべて正しかったです

Mag_Mel
恋愛
「私に愛されるなどと勘違いしないでもらいたい。なにせ君は……そうだな。在庫処分間近の見切り品、というやつなのだから」  名ばかりの政略結婚の初夜、リディアは夫ナーシェン・トラヴィスにそう言い放たれた。しかも彼が愛しているのは、まだ十一歳の少女。彼女が成人する五年後には離縁するつもりだと、当然のように言い放たれる。  絶望と屈辱の中、病に倒れたことをきっかけにリディアは目を覚ます。放漫経営で傾いたトラヴィス商会の惨状を知り、持ち前の商才で立て直しに挑んだのだ。執事長ベネディクトの力を借りた彼女はやがて商会を支える柱となる。  そして、運命の五年後。  リディアに離縁を突きつけられたナーシェンは――かつて自らが吐いた「見切り品」という言葉に相応しい、哀れな姿となっていた。 *小説家になろうでも投稿中です

処理中です...