備忘世界の運搬屋

星兎

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ー・閑話・カルネの小咄・ー

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 あのさ、と、カルネは話し始めた。

 私達はカルネが寝室として使う部屋に寝そべっている。

 カルネはベッドの上で、私は床の上に布を敷いて。

 私達の顔と、少しの調度を、キュロスの光を蓄えているランプが、淡く照らし出している。

 カルネの顔が、いつもより暖かそうな色合いに染まって見える。私の顔も、カルネにはそう見えていることだろう。

 小さな声で、カルネは、遠く離れた星々で起こった出来事のような口調で、話し始めた。

「……あのさ、この前、ロボットの親子が来たんだ」

「親子?」

「そう。親子って言っても、見た感じ、そう見えるってだけで、本質的な所は、……いや、分かんないや。とにかく、大きな体のロボットが二人と、小さな体のロボットが一人。小さなロボットは、大きなロボットの間に常に挟まれるようにして、立っていた。

 その三人が、徒歩で私のところまで訪ねてきたんだよ。不思議な話だよな」

 私は何も答えなかった。

 カルネは続けて言う。

「大きなロボットは、小さなロボットが持っている、更に小さな、人形みたいなロボットを指差して、直してほしいって言うんだよ。自分達の住んでいる街には、こういう人形を直してくれるロボットがいないから。だから、人間や機械の噂話を頼りにして、ここまで歩いてきたんだって。

 ……私は酷く驚いて、弟子達は皆殺気立って怯えているし、私は私でそんなことは、初めてだったからさ。

 ロボットとああして交流する機会なんて、初めてだったんだよ。直にね」

 私は何も答えない。

 カルネの声が少し高く聞こえた。

「それでさ。私はどうしたと思う?

 ……ちゃんと、直してあげたよ。勿論、タダでじゃないよ。人形みたいなロボットは、作りが簡単だったし、実用的というよりかは、本当に人間を楽しませる為の物、という感じの、古き良き感じの機械人形だった。

 私があっという間に直してしまうと、二人を含めて、小さなロボットもとても驚いたような顔をしてさ」

 私はそこで初めて声を上げた。

 身を持ち上げ、カルネの方を見上げる。見ると、カルネは右腕で頭を支えたまま、ずっと私の方を見つめながら話していたようだった。

「驚いた顔をしていたって?」

 私が問うと、彼女は朗らかな微笑いを見せて、続けた。

「そう。不思議に思うだろう? でも、私にはそう見えたんだ。機械が、ロボット達がーー、感情がないとされている彼等が、自分たちにを持ち出して、直して欲しいと言ってきて、遠くを遥々歩いて来て、いざ直してもらうと、雰囲気を出して、笑顔になったようにすら見えた。

 ……錯覚かな? あれは」

 私は膝を立てて、天井を向いたカルネの横顔を見つめ、それから答える。

「……錯覚だろう。顔が付いていたのか?」

「付いていた」と彼女は言う。

「でも、それは機械で、人間を模して作った、雑な作りで、表情が動いて見えるような物じゃなかった。要は、人間の真似事をしているような感じさ。それだけの物。ただの機械に過ぎない。初めはそう思っていた。

 でも……」

 カルネはそこで言葉を切ると、再びこちらを向き、私の方を見てくる。

 カルネの瞳は、不思議と、とても優しく見えた。

 カルネは続けて言った。

「……でも、彼等が直された人形を渡されて見せた表情、あれは、偽物なんかじゃなかったような気がするんだ。彼等は明らかに、喜んでいた。いや、ホッとしていた、かな……。何にしても、彼等の中には、ある種の感情のような物が確かに起こっているような、そんな気がしたんだ」

 私は彼女の瞳を凝視したまま、ふっと、苦笑して答える。

「今の話を、酋長なんかが聞いたら、青筋を浮かべて怒るんだろうな」

 私がそう言うと、カルネは軽く笑って、一蹴したように言う。

「ああ、あの人ね。……ヴェロニカも知るように、私は元々、司令部の作るあのレジスタンスの雰囲気が嫌いで、師匠の所に出ていったから。今更、あいつらに何か思われたって、商売の事以外は、別にどうだっていいんだよ。

 ……でもね、ヴェロニカ」

 カルネの瞳が再び私の方に向けられ、彼女は続ける。

 私はカルネの真っ直ぐな眼差しを、ただ受け止めることしか、できなかった。

なんて、例え機械であろうとも、この世界には存在しないんじゃないかって、私は思うんだよ」

 ……私は、時間をかけて、最後に彼女に尋ねた。

「その三人は、人形を直してもらって、それから、どうなったの?」

 彼女はゆっくりと、呟くように何かを言って、向こうを向いた。

 私はその背中を見る。意外にも、小さな背中。

 彼女の言葉は、最後には眠気に押し潰されて、聞き取れなかったが、多分、推測したもので間違いはなかっただろう。

 彼女は最後にこう言って、静かに眠りに落ちていった。

「歩いて、帰っていったよ。来た時みたいに、三人、手を繋いで、仲良くね……」

 私は何も答えず、暫く何もない床を見つめ、それから……、キュロスの光を消し、毛布を被った。

 微かに、獣の匂いが、手のひらから香る。日中撫でた、ヤギ子の毛深な、肌の匂い。

 目を閉じると、眠りの気配が、用心深い小人のように、遥か遠くからやって来るような気配がした。

 やがて私は、眠りに落ちた。


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