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酸性雨の街
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しおりを挟む外に出ると、雨は止んでいた。一時的なものだろうが、私も管理人の男も、被っていたフードを下ろし、瓦礫の間を歩き始める。
陰鬱な重い雲が頭のすぐ近く、張り出すようにして広がっている。雰囲気も空気もどこか殺気と酸味を帯びており、これは他の街や国とも同じだがーーとても冷たい感じがする。
フードを下ろせたお陰で、街の様子がよく見えるようになった。だが、フード越しに予想していた光景とそこまで違いはなかった。
爆撃を受けたかのような大きな口を天井に開けているビル群が連なり、死体のように累々とどこまでも続いている。
開かれた天井から内部の荒れ果てた室内の様子が見える。誰も座っていない倒れた回転椅子や何十年も前に座られていた頃のソファなど。至る所に、当時の生活の空気がそこにはあった。
私はそれらを暫しの間見つめてから、やがて目を逸らし、少し先を行く男の跡を追った。
雨が再び降り始める前に、雲間に陽の光が差す。
天に通ずる梯子が、名もなき瓦礫の街に降り、その場を優しく温めた。
私は和らいできた痛みを感じつつ、意識して体を起こすようにしながら、男の跡を歩いていった。
ーーーー
地下通路に通ずる場所は、石造りの橋、橋脚の間に出来た穴の先にあるようだった。
穴の中に入ると、辺りは急に薄暗くなる。灯りもないが、男は構わず中を突き進み、間も無くして目的の場所に着いた。
古い扉だった。
男が腰に付けた鍵束を音を立てて探りながら、思い出話をするような口調で言った。
「ここは昔、水門だったらしいんだ。この先には大きな川があってよ。街を造る際、皆で掘って広げて、橋を掛けたんだ。水場が確保されていりゃ、街は発展する。それはどこの街でも同じだろう?
ま、あの戦争以降、街は機能しなくなって、壊されちまったけどな。
さあ、ここだ。後はそのまま歩いて出れば、お前さんの倒れてたっていう岩場に出るだろう。
……なあ、あと、ヴェロニカさん……」
「何だ?」と私が問うと、男は頭を掻いて、それから決然とした口調になって言った。
「この場所の事は、秘密にしておいてくれねえか。俺達の大事な商売アジトなんでよ……。勝手を言ってるのは分かってる。だが……」
「私を襲おうとした男の台詞とは思えないな、しかし」
そう言って、私は笑った。
男も私の顔を見て、気まずそうに微笑った。
私は言う。
「言わないよ。そんな事をしても、別に私に特になることは何もないからね。
……でも、一つだけ聞いていいか?」
なんなりと、と男が勿体ぶった様子で答え、私は男の方を見ずに言う。
「……あの子達が屠殺されるのは、どのくらい先の話だ? それだけ聞かせて欲しいんだ」
男は少し考えているような間を置いたが、やがて言った。
「三ヶ月後って所だな。年齢に差があるのは見たらわかるだろう? 特にエル坊なんかはもうすぐ八歳になる。まあ、大体八歳未満で出荷するのが通例だからな。今回の仕事は、持って三ヶ月って所だろう。
未練があるのなら、連れていっても良いんだぜ?
今からでも、全員は無理だが、二、三人程度なら……」
「いや、いい」
私はそう言い、ノブに手を掛け、こちらに引いた。扉が古い音を立てて開き始める。
無機質なカルキ臭い空洞が現れ、私は中へと入り、男に目を向ける。
「私は、私独りで十分なんだ」
そう言って、私は扉を閉めた。
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