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第十一話

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 翌日、僕達はギルベインさんに連れられて、都市ベインブルクの北部にある森を進んでいた。
 ロゼッタさんに加えて、大人数依頼レイドクエストを受けた、他の冒険者達も集まってきている。
 監督役のギルド職員の冒険者が二人に、一般冒険者十人の、合計十二人となっている。

 今回のレイドは、ゴブリンの集落狩りである。
 森奥の古い砦跡を拠点にしたゴブリン達が勢力を拡大し、森を通る人間達を襲撃しているのだそうだ。

 目的は拠点の破壊による集落の解散である。
 参加した時点で各冒険者の等級に応じた報酬がある他、討伐したゴブリンの頭数分の特別報酬が支払われる。

「さて、手筈通り、ここらで二手に別れようかい。半数は南側へと回り込んでもらう。小鬼相手にここまでする必要はないが、規模が規模だから、慎重に動けとギルド長からのお達しだ」

 森の移動中、ギルベインさんがそう口にした。
 もう一人の監督役の大斧を担いだガンドさんが、半数の冒険者を連れて、ゴブリンの拠点の南側へと回り込むべく移動していった。

「さて、これで約束通り、君のこともたっぷりと見てあげられるよ。ギルド専属のB級冒険者として、このギルベインがきっっちりと指導してあげようじゃないか。光栄に思うといい」

 ギルベインさんが、ニンマリと笑いながら僕達に声を掛けてきた。

「……それは結構だけど、そっちにかまけてレイドを蔑ろにしないことね、ギルベイン。上位種もいるだろうし、群れたゴブリンは存外に厄介よ」

「指図するなよ、ロゼッタ。今の私は監督役だ。指揮系統を乱す発言は、冒険者失格だな。こんなのの連れてきた子供だと思うと、私の立場として評価しにくいねえ……。監督役には、敬意を示してもらわないと、敬意を」

 ギルベインが大仰に頭を押さえ、嘆いてみせる。
 ロゼッタさんが、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべていた。
 それを見て、ギルベインさんは満足げに、二度頷く。

「今日はよろしくお願いしますね、ギルベインさん! 僕、頑張ります!」

 僕の言葉に、ギルベインさんは顔を歪ませる。

「……本当にやり辛いな、君」

 それから少し進んだところで、目標の砦跡に近づいてきた。

 土の壁に覆われており、倉や木を組んで作られた高台があった。
 徘徊しているゴブリン達の姿も見える。

「ゴブリンの分際で、見張りを立てるとは煩わしい。半端に隠れて向かうより、魔法で動揺させてから攻め込んだ方がいいな」

 ギルベインさんが、ふと僕を振り返る。

「おい、君、武器はどうした? 昨日も持っていなかったな」

「え……?」

 武器なんてこれまで握ったこともない。
 何せ、村から出てきたばかりなのだ。

「この子は魔術師寄りだし、精霊融合も使えるから不要なのよ」

 ロゼッタさんがすぐさま僕達の間に入り、そう口を挟んでくれた。
 僕は魔術師寄りだったのか。

「ふぅん? そういえば昨日も、マナが多いとかなんとかほざいていたねぇ。魔法が得意だっていうのなら、大事な先制の一撃を任せてもいいかな? 相手を攪乱させつつ、煙を上げて回り込んでいるガンド達に開戦の合図を送る、大事な役目なんだが。得意だっていうのなら、それくらいできるよねぇ?」

 ギルベインさんが、ずい、と僕へ顔を近づける。

「ギ、ギルベインさん、正気ですか? そんな子供に大事な初撃を任せるなんて!」

 他の冒険者達が騒ぎ始める。

「う~ん……ロゼッタが推薦しているんだし、魔法頼りみたいだから、それくらいできるのかと思ったんだけどねぇ。武器持ってません、精霊は小っちゃいワンちゃんですじゃ、他に何ができるんだか……。いや、できないのなら仕方がないか。この中で、炎魔法に自信があるのは……」

 炎魔法、と聞いて僕は手を一直線に手を上げた。

「僕、炎魔法ならできますよ!」

「なにぃ?」

 ギルベインさんが訝しげに目を細める。

「ぜひ、任せてください!」

 炎魔法の威力ならば、充分認めてもらえる自信がある。
 精度はあまり自信がないが、攪乱が目的ならば、飛距離と威力さえあれば充分なはずだ。

「いいかい、これは大事な場面だ。もしもしくじって足を引っ張るようなことがあれば、その時点でE級冒険者の件はなかったことになると思えよ。君を紹介した、ロゼッタの面子も潰すと……」

 ギルベインさんはそう言って、ちらりとロゼッタさんの顔を見る。

「私は別に、マルクに任せて構わないと思うわよ。マルクに任せたいって言いだしたのはあなたでしょう、ギルベイン」

「なんだって?」

 ギルベインさんは表情を曇らせる。

「……フン、恥を掻きたいなら好きにしたまえ。おい、他の者も魔法を構えておけ。そこのガキが失敗したら、すぐさま二発目を撃て。その後は一気に門から突撃する」

 ギルベインさんは僕が成功するとは思っていないのか、他の冒険者達へとそう声を掛けていた。

『マルクよ、思いっきりかましてやるがよい』

「うん、わかった!」

 僕はネロを地面へと置くと、手を前方へと構えた。

「どの辺りへ撃てばいいですか、ギルベインさん?」

「塀の内側ならどこでもいいけれど……君、自分の魔法の飛距離をわかっているのか? こういうのは少数に別れて、極力接近してから……」

 塀の内側ならどこでもいいのか。
 中央辺りの、一番立派な塔らしきものを狙ってみることにしよう。

 僕はルーン文字を宙に浮かべ、炎の球を浮かべる。

「ふぅん、一応はまともに魔法を使えるのか。まあそれでも、それだけじゃ冒険者としてはやっていけないけれどね。力押しだけでどうにかできるほど、冒険者業は甘くは……」

 僕はマナを注いで、炎の球をどんどんと大きくしていく。
 前のように敵が目前に迫ってきているわけでもないので、落ち着いて炎球にマナを注ぐことに専念できる。

 何せ、この一発で今回の討伐依頼の行く末を左右する上に、ギルベインさんの僕への評価も決まるのだ。
 失敗すればロゼッタさんの顔も潰すことになる。
 全力でいかなければならない。

「なんだこれ……?」

 ギルベインさんは、顔を真っ蒼にして、僕の炎球を見つめていた。

「な、なんで、前のときに増して大きいの! ちょ、ちょっと、マルク、一回それ、止めて、止めて! 撃って大丈夫なの、それ!」

「〈炎球〉!」

 僕は直径五メートル程までに膨らませた炎球を、手の先より放った。
 豪炎は砦の壁を容易く破壊する。
 そのまま中央にあった、細長い塔のような建物の根元を破壊した。
 砦内に猛炎が広がっていく。

「ゴオオオオオオッ!?」

 何事かと、砦内にいたゴブリン達は、武器を捨てて一斉に外へと逃げ出していく。
 ギルベインさんは、その光景を死んだ目で眺めていた。

「何が、起きた……? 何が……?」

「……目標は、集団化したゴブリン達の拠点を破壊して、解散させることだったわよね。これもう、レイド、終わったんじゃないの? 後は各自で、気の済むまで適当に残党狩りをするだけね」

 ロゼッタさんはそう言いながら、頭を押さえて溜め息を吐いた。
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