3 / 36
3話
しおりを挟む
「戻ったかリシア! 大変なことになったぞ!!」
ひとまず家に戻って父を訪ねると、鬼気迫る勢いで父が口を開いた。
その顔は焦りや怒りと言った負の感情を織り交ぜた酷いものとなっている。
いつもの穏やかで物静かな父とはまるで別人のように思えた。
「王家より王太子殿下とお前の婚約を破棄するとともに、我がランドロール家の爵位剥奪すると言う通達が……」
「……お父様もご存知だったのですね」
よくよく考えてみれば当然のことだ。
これほど重大な通告を、現当主たるお父様を差し置いて私だけが聞かされるなんてことはあり得ない。
とは言え父の様子から察するに、つい先程耳にしたばかりなのだろう。
「リシア。お前は知っていたのか?」
「はい。先程王太子殿下から直々に聞かされました。その事でお父様に相談をしようと思っていたのですが……」
「そうか。何かの間違いであって欲しかったのだがな……」
落胆し、力無く椅子に腰を落とすお父様。
ここまで来て仕舞えばもう「こんな無茶苦茶なことあり得るわけがないでしょう。きっと質の悪いジョークですよ」と笑うこともできない。
避けようのない事実。
ランドロール公爵家は今日を以って終わりを迎えるのだ。
「お父様」
「……リシア。お前も辛かっただろう。このようなことになってしまって本当にすまない……」
「いえ、お父様は何も悪くありません」
「元を辿れば初代『要の巫女』の名にしがみついて他に何か行動を起こそうとしなかった私達にも責任はある。今までのツケが回ってきたと言うしかないが、それにしてもあまりに急すぎる。これからどうすれば良いのだ……」
頭を抱え、大きなため息を漏らす。
今までの後悔と、これから先に対する不安。
お父様の頭の中はきっとぐちゃぐちゃになっているに違いない。
そんな中で不思議と私は冷静さを保っていた。
それはもとよりアストラに対する愛情が薄かったからなのか。
それともこれを現実の出来事と認めきれていないからなのか。
あるいは――既に国を見捨てる覚悟が決まっているからなのか。
人間、怒りを通り越すとかえって冷静になるものだ。
「……これからの事は私達の方で考える。一旦下がってくれ。とりあえず、時間が欲しい」
「お父様」
「頼む。私も少し整理がしたいーー」
「国を出ましょう。お父様」
その言葉を受け、お父様はハッとなって私をまっすぐ見た。
その視線を正面から受け、私は今一度「国を出ましょう」とハッキリと告げた。
予想外の言葉だったのか、お父様は瞬きをし、なかなか次の言葉を絞り出せずにいた。
ひとまず家に戻って父を訪ねると、鬼気迫る勢いで父が口を開いた。
その顔は焦りや怒りと言った負の感情を織り交ぜた酷いものとなっている。
いつもの穏やかで物静かな父とはまるで別人のように思えた。
「王家より王太子殿下とお前の婚約を破棄するとともに、我がランドロール家の爵位剥奪すると言う通達が……」
「……お父様もご存知だったのですね」
よくよく考えてみれば当然のことだ。
これほど重大な通告を、現当主たるお父様を差し置いて私だけが聞かされるなんてことはあり得ない。
とは言え父の様子から察するに、つい先程耳にしたばかりなのだろう。
「リシア。お前は知っていたのか?」
「はい。先程王太子殿下から直々に聞かされました。その事でお父様に相談をしようと思っていたのですが……」
「そうか。何かの間違いであって欲しかったのだがな……」
落胆し、力無く椅子に腰を落とすお父様。
ここまで来て仕舞えばもう「こんな無茶苦茶なことあり得るわけがないでしょう。きっと質の悪いジョークですよ」と笑うこともできない。
避けようのない事実。
ランドロール公爵家は今日を以って終わりを迎えるのだ。
「お父様」
「……リシア。お前も辛かっただろう。このようなことになってしまって本当にすまない……」
「いえ、お父様は何も悪くありません」
「元を辿れば初代『要の巫女』の名にしがみついて他に何か行動を起こそうとしなかった私達にも責任はある。今までのツケが回ってきたと言うしかないが、それにしてもあまりに急すぎる。これからどうすれば良いのだ……」
頭を抱え、大きなため息を漏らす。
今までの後悔と、これから先に対する不安。
お父様の頭の中はきっとぐちゃぐちゃになっているに違いない。
そんな中で不思議と私は冷静さを保っていた。
それはもとよりアストラに対する愛情が薄かったからなのか。
それともこれを現実の出来事と認めきれていないからなのか。
あるいは――既に国を見捨てる覚悟が決まっているからなのか。
人間、怒りを通り越すとかえって冷静になるものだ。
「……これからの事は私達の方で考える。一旦下がってくれ。とりあえず、時間が欲しい」
「お父様」
「頼む。私も少し整理がしたいーー」
「国を出ましょう。お父様」
その言葉を受け、お父様はハッとなって私をまっすぐ見た。
その視線を正面から受け、私は今一度「国を出ましょう」とハッキリと告げた。
予想外の言葉だったのか、お父様は瞬きをし、なかなか次の言葉を絞り出せずにいた。
564
あなたにおすすめの小説
【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜
水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。
魔王乱立の時代。
王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。
だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。
にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。
抗議はしない。
訂正もしない。
ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。
――それが、誰にとっての不合格なのか。
まだ、誰も気づいていない。
欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。
婚約破棄したその場から、ざまぁは始まっていました
ふわふわ
恋愛
王国随一の名門、アルファルド公爵家の令嬢シャウラは、
ある日、第一王子アセルスから一方的に婚約を破棄される。
理由はただ一つ――
「平民出身の聖女と婚約するため」。
だが、その“婚約破棄したその場”で、ざまぁはすでに始まっていた。
シャウラは泣かず、怒らず、抗議もしない。
ただ静かに席を立っただけ。
それだけで――
王国最大派閥アルファルド派は王子への支持を撤回し、
王国最大の商会は資金提供を打ち切り、
王太子候補だったアセルスは、政治と経済の両方を失っていく。
一方シャウラは、何もしていない。
復讐もしない。断罪もしない。
平穏な日常を送りながら、無自覚のまま派閥の結束を保ち続ける。
そして王国は、
“王太子を立てない”という前代未聞の選択をし、
聡明な第一王女マリーが女王として即位する――。
誰かを裁くことなく、
誰かを蹴落とすことなく、
ただ「席を立った」者だけが、最後まで穏やかでいられた。
これは、
婚約破棄から始まる――
静かで、上品で、取り返しのつかないざまぁの物語。
「私は何もしていませんわ」
それが、最強の勝利だった。
地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ
タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。
灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。
だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。
ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。
婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。
嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。
その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。
翌朝、追放の命が下る。
砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。
――“真実を映す者、偽りを滅ぼす”
彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。
地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。
【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜
ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。
しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。
生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。
それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。
幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。
「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」
初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。
そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。
これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。
これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。
☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆
聖女を追い出しても平気だと思っていた国の末路
藤原遊
ファンタジー
聖女が国を去った日、神官長は分かっていた。
この国は、彼女を軽く扱いすぎたのだと。
「聖女がいなくても平気だ」
そう言い切った王子と人々は、
彼女が“何もしていない”まま国が崩れていく現実を、
やがて思い知ることになる。
――これは、聖女を追い出した国の末路を、
静かに見届けた者の記録。
婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした
ふわふわ
恋愛
婚約破棄――
それは、多くの令嬢にとって人生を揺るがす一大事件。
けれど彼女は、泣き叫ぶことも、復讐に走ることもなかった。
「……では、私は日常に戻ります」
派手なざまぁも、劇的な逆転劇もない。
彼女が選んだのは、線を引き、基準を守り、同じ判断を繰り返すこと。
王宮では改革が進み、領地では生活が整えられていく。
誰かが声高に称えられることもなく、
誰かが悪役として裁かれることもない。
それでも――
混乱は起きず、争いは減り、
人々は「明日も今日と同じである」ことを疑わなくなっていく。
選ばない勇気。
変えない決断。
名を残さず、英雄にならない覚悟。
これは、
婚約破棄をきっかけに
静かに日常を守り続けた一人の令嬢と、
その周囲が“当たり前”を取り戻していく物語。
派手ではない。
けれど、確かに強い。
――それでも、日常は続く。
嘘つきな貴方を捨てさせていただきます
梨丸
恋愛
断頭台に上がった公爵令嬢フレイアが最期に聞いた言葉は最愛の婚約者の残忍な言葉だった。
「さっさと死んでくれ」
フレイアを断頭台へと導いたのは最愛の婚約者だった。
愛していると言ってくれたのは嘘だったのね。
嘘つきな貴方なんて、要らない。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
11/27HOTランキング5位ありがとうございます。
※短編と長編の狭間のような長さになりそうなので、短編にするかもしれません。
1/2累計ポイント100万突破、ありがとうございます。
完結小説ランキング恋愛部門8位ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる