私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

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5話 王太子視点

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「……本当に、これで良かったのだろうか」

 婚約者であったリシア・ランドロールが姿を消した私室にて、王太子アストラは一人、考えごとをしていた。
 己の意思が固まらぬまま彼女と対峙したせいであまりに冷たい対応をしてしまった事を後悔しながらも、致し方のなかった事でもあると自らを肯定する。

 先の言葉はアストラの本心ではなく、父である国王陛下の意思に従ったが故のもの。
 迂闊な事を口にしてしまう前に、彼女を追い出してしまいたかったのだ。

「……救国の英雄たる要の巫女の一族。ランドロール公爵家、か」
 
 ランドロール公爵家。
 それは数百年前に大地の神と契約することでこの国を未曾有の大災害から救った初代要の巫女の子孫であり、その功績でその地位に上り詰めた一族だ。

 当然その出来事については王国で広く知られており、彼女の事を英雄として描かれた本も出版されている。
 その内容は当時頻繁に地震に襲われて民が苦しんでいたところにどこからともなく現れた少女が、当時の王族に「私がこの国に起こる地震を鎮めて見せましょう」と言ったところから始まる。

 彼女はそれから幾度となく地震が起こるタイミングを正確に当てて見せることで見事少女は王族の信用を勝ち取り、同時に少女はこれから起こる国家崩壊レベルの地震を予言した。
 それを恐れた王族は彼女に地震を鎮めるよう命じ、見事その役目を果たした。
 それ以降彼女が死を迎えるまで地震は一切起こりませんでした、という形でまとめられている。

「……そう。物語の中では、な」

 だが、真実は物語ほど美しいものではなかった。
 アストラは見てしまったのだ。
 王族専用の書庫、その最奥に隠されるように保管されていた手記を。
 それは当時の王子が記したものだった。

 手記は、我らは取り返しのつかぬ大きな過ちを犯してしまった、という一文から始まる。
 当時の王国はもともと地震が多発するような国ではなかった。
 むしろ豊富な資源に恵まれた美しい大地に建てられた強大な力を持つ国家だったらしい。

 だが、大地の神と呼ばれる強大な力を持つ存在が明らかになってから状況が一変する。
 そう。国の力に過信していた当時の王達は、大地の神を従え、その力を軍事利用しようと試みてしまったのだ。
 故に彼らは神を顕現させてしまった。

 ……当然人が神たる存在を従えられるはずもなく、神を怒らせるだけの結果に終わってしまう。
 それからというものの、王国の至る所で地震が発生し国はボロボロに。
 手記には当時の悲惨な状況が細かく記されていた。

 それを救ったのが、その王子の想い人であった少女ーー初代要の巫女だった。
 小さい頃から人ならざる存在と会話をする力を持っていたという彼女は、自らを生贄に捧げる覚悟で大地の神を呼び出して契約を交わし、神の怒りを鎮める事に成功したと言う。
 その後生還した彼女は、一切その契約内容を語る事なく苦しみながらその生涯を終えたと言う。

 大まかな内容は、こんな感じだった。

 そう。要の巫女は地震から国を守ったのではなく、当時の愚王が引き起こした人災から国を守ったのだ。
 だと言うのに数百年経った今、王家がその子孫を貶めた。

「……父は私の言葉など、一切聞き入れてはくれなかった」

 これは貴族達との話し合いで決まった事だ、と。
 正直言ってこれは八つ当たりに近い。
 地震を抑えるのがかの一族の役割なのに、なぜ我が国は地震で苦しめられなければならないのだと。
 そのような身勝手な理由でランドロール家の爵位剥奪が決まってしまったのだ。

「……っ!」

 不意にドアがノックされた音で、思考が中断される。
 中に入ってきたのはアストラ付きの使用人であり、その要件は父王が自分を呼んでいると言うものだった。

「……分かった。すぐ向かおう」

 そう言って使用人を下がらせ、立ち上がる。
 己もまた取り返しのつかぬ過ちを犯してしまったのではないかと嫌な予感を感じながらも、アストラは歩き出した。
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