あなたが捨てた私は、もう二度と拾えませんよ?

AK

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11話

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 ――それはまさに運命的な出会いだった。

 グランヴェニス王国第四王子、ライトハルト・フォン・グランヴェニスは、当時のことを本気でそう思っていた。
 ライトハルトは魔導大国とも呼ばれるグランヴェニスの王家に生まれておきながら、魔法の才能があまりにも乏しかった。
 初歩的な魔法の行使や簡単な魔導具ならば扱えるが、保有する魔力量も少なく、魔法使いとして名を上げるにはあまりに苦しい。
 そんな訳で、幼い頃の自分は王族としての価値がないのではないだろうかと苦悩していたのだ。

「ライくん、ライくん! どうしたの、元気なさそうだけど」

「リディア姉さま。えっと、その……」

「なぁに? 悩み事? お姉ちゃんでいいならお話、聞かせてよ」

 二つ上の姉、リディアは父の血を濃く継いでおり、魔法の才能にあふれていた。
 自分では一つ扱うのが手一杯な魔導具を10個単位で軽々と扱い、まるで物語の中の英雄のように圧倒的な攻撃魔法を得意とする姉。
 自慢の姉で、憧れの対象で、そして嫉妬心の対象でもある姉。
 しかし年の離れた兄たちとは違い、自分のことを最も身近な家族として大切にしてくれる姉のことは大好きだった。
 だから素直に、自分に魔法の才能がなくて歯がゆい思いをしていることを打ち明けられた。

「あー、ライくんはその辺あんまり得意じゃないもんねえ。でもいいんじゃない? ライくんにはライくんの良さがあるわけだし、無理に魔法にこだわらなくたって……」

「でも、僕だって偉大なる魔導王の子なんだ。やっぱり少しくらい、魔法関係で誇れる何かが欲しいなって……」

「んー、そっかぁ。あ、そうだ! ちょっと待ってて! いいモノ持ってきてあげる!」

 そう言うとリディアは部屋から飛び出していき、しばらくしてから、何やら妙なものを抱えて戻ってきた。
 それは小さな傘のような形をした魔導具らしきもの。
 リディアは複数あるうちの一つと、宝石のような何かを一緒に手渡される。

「リディア姉さま。これは一体?」

「えっとこれはね。この傘みたいなのが空を飛びまわって、じょうろみたいに水をばらまいてくれる魔導具! 庭の植物に水を撒くときとかに使うんだ」

「こ、こんなに小さい魔導具でですか?」

「そうそう。そしてこの石を握って念じると、移動先とか水量とかを自在に調整できるんだ。ほら、ライくんもやってみて!」

「えっ、いや、でも姉さま。僕はその、そんな高度な魔法は使えなくて――」

 物体を自在に動かしたり水量を自在に操ったりなどと言った魔法はライトハルトには到底扱えない。
 優れた魔導具ならばある程度魔法の発動を補助してくれるが、二つの魔法を同時に操るだなんて高度な真似はとてもできない。
 もしかして嫌がらせ? とすら一瞬思ったライトハルトだったが、リディアは「いいからほら、やってみてやってみて」と強く勧めてくるので、仕方なく石を強く握りしめる。

 そして傘が浮くように強くイメージをしてみると、それはライトハルトの手を離れ、彼の思うがままに自在に空を浮遊し始めたではないか。
 その後、リディアに言われた通りのイメージを石に送ると、まるで雨のように粒上の水があたりに撒かれ始めた。
 しかもその勢いや撒きたい場所は全てライトハルトの思うがまま。
 自分は一切魔法を行使している感覚がないのに、まるで自分が凄い魔法使いになったかのような気分だった。

「す、すごい……!」

「でしょでしょ! これさ、この魔道具自身に魔法と魔力が刻み込まれてて、握った人の意思一つで簡単に起動する仕組みになっているんだ!」

「なるほど……どおりで僕でも扱えるわけです。でも、そんな技術いったい誰が――まさかリディア姉さまが!?」

「ふふん、そうよ――と言いたいところだけど、残念ながら私じゃないのよね。これを作ったのは私の友達。魔力を魔導具に込めるエネルギーに変換し、魔導具そのものが魔法の発動を代行する。そんなとんでもない研究をしている子がいるの」

「なっ――」

 それを聞いたライトハルトは言葉を失った。
 魔法を扱える人間があらゆる面で優遇されるこの世界において、そんなものが発明されれたのなら革命が起きるだろう。
 魔法が使えなくても使える魔導具。
 誰もがそれを手に出来れば、間違いなくあらゆる技術は一段階進化する。
 高い金を使って高レベルの魔法使いを雇わないとできなかったことが、誰でもできるようになるかもしれない。
 そして何より――自分のような魔法が扱えない人間でも、活躍できる場所が増えるかもしれない。

 そう思うと、胸が躍ってしまう。

「そんなすごい方が、いるんですね……」

「そ。いつか機会があったら紹介してあげるわ。あとその魔導具もあなたにあげる。まだ一般的なものにするレベルじゃないけれど、いくつか試作品貰ってるから!」

「は、はい! ありがとうございます!」

 深く感動したライトハルトは、その魔導具を胸に抱え、そんな素晴らしい研究をしている人は一体どんな人なのだろうと思いを馳せるのだった。


 ♢♢♢

 そして、その日は唐突に訪れた。

「ライくん。お見合い、してみる気はない?」

「えっ――な、急に何ですか姉さま! お見合いって――」

「実はさ、お父様が是非息子と見合いをさせたい女の子がいるんだけど、今誰とお見合いさせるか悩んでいるんだよね」

「そ、それなら兄さまのうちの誰かでいいのではないですか? 僕はその、まだ15歳ですし、兄さまたちの方がずっと優秀ですし」

「ええー、いいのぉ? せっかくチャンスなのにぃ」

 そう言ってリディアはニヤニヤと小悪魔的な笑みを浮かべながら、そのお見合い相手の女の子の写真を手渡してきた。
 美しい蒼色の髪を持ち、やや表情は暗いが、強い信念を燃やす炎のような紅色の瞳が魅力的な人だ。
 特徴的なのは、何故か彼女がまとっているのはドレスではなく白衣だという事か。
 少女から大人になったばかりのようなその人は、きっと自分よりいくつか年上なんだろうなと察した。

 正直、好みの女性だなと、ライトハルトは思った。

「シェリル=ブランヴェル。ブランヴェル伯爵家の長女よ」

「伯爵家の方、ですか?」

「そう。そしてこの子がね、ライくんにこの前プレゼントした魔導具の制作者なの」

「え……ええええええっ!!?」

 それを聞いたライトハルトは、思わず立ち上がり、もう一度強く写真に視線をぶつける。
 あの素晴らしい魔導具の作成者は、てっきりもっと年を取った、いかにも偉い博士のような人と想像していたので、まさかこんな可愛らしい女性が、とは夢にも思わなかったのだ。

「で、本当にいいのかな? この子との貴重なお見合いの機会。“王子である”ライくんは、兄さまたちに譲っちゃうの?」

「だ、ダメです! 僕が――僕でいいなら、是非お見合いさせてください!」

 普通ならば好みの女性だったとしても、自分なんかが王子としてお見合い相手になるなんて恐れ多いと諦めていただろう。
 でもそれが、新しく自分の憧れとなった人だったと知ったら、そう簡単には引き下がれない。
 せめて会って話をしてみたい。どんな人なのか知りたい。
 そしてあわよくば――

 そんな想いを胸にときめかせるライトハルトを見て、リディアはにやりと笑うのだった。

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