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12話
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「えっと、僕は第四王子のライトハルト・フォン・グランヴェニスと言います! 今日はよろしくお願いします!」
「あ、ええと、シェリル・ブランヴェルです。よ、よろしくお願いします……」
部屋に入るや否や、やや大きすぎる声で自己紹介をしてきたライトハルト王子に、私も慌てて立ち上がって挨拶をする。
なんというか、予想していた王子像とはまったく違うタイプだったので少し拍子抜けした気分だけれど、何と言うか、嫌みとかそういうものが一切なさそうな人だったので第一印象は個人的にかなり良かった。
「その、ライトハルト殿下。本日はお見合いの場を設けてくださりありがとうございます。よろしければこちらにお座りください」
「は、はい。失礼しますね」
声は若干震えていたものの、足取りはしっかりしているし、席につく際の所作も美しさすら感じるほどしっかりしていた。
イメージとは違ったものの、立派な服に身を包んだその姿はまさに王子そのもの。
太陽のような明るさを持つ黄金色の髪と、透き通った翡翠の瞳。
まだ垢抜けていない可愛らしい顔立ちをしているが、まっすぐこちらを見てくる瞳はどこか輝いていて、凛々しさすら感じ取れた。
「…………」
「…………」
き、気まずい!
どうしよう。全く知らない人とのお見合いだなんてしたことなかったから、何をしゃべったらいいのか分からない!
殿下の方も緊張しているのか、あるいは私を見定めているのか何も喋ってくれないし……
「その、殿下はおいくつなのですか? 私は今年で19になりましたが――」
「は、ひゃいっ! え、えっと、僕は15、です」
正直何を話したらいいのか分からないけれど、この重い空気に耐え切れず、とりあえず年齢を聞いてみたけれど、15歳だったんだ。
年の差がある、と言うべきほどの差ではないけれど、年下の男の人と親しくした経験が弟くらいしかない上に、相手の方が身分が上ともなると何ともやりにくい。
どうしたものかと悩んでいると、ライトハルト殿下がまたも立ち上がり、
「その、シェリルさん。貴女がこの魔道具を開発したというのは本当なのですか?」
「えっ?」
そう言って殿下は徐に懐から何かを取り出し、机の上に置いた。
それは一つの小さな傘と結晶だった。
私は殿下に許可を取ってそれを手に取らせてもらうと、すぐにそれが私の発明品であることが分かった。
「えっと、はい。そうですね。これは確か2年ほど前に作ったもので、お花とかに手軽に水撒きができる魔導具だったかなと」
「やっぱりそうなんですね! 凄いです!」
「え、ええと、ありがとうございます?」
「僕、リディア姉さまにこの魔導具のこと教えてもらって、すごく感動したんです。そしていつか開発した人に会ってみたいなって思ってて――」
その言葉を契機に火が付いたのか、ライトハルト殿下は私の魔導具で得た体験を事細かに語ってくれた。
この水撒きの魔導具以降も私がリディアに渡していた試作品をこのライトハルト殿下も一緒になって扱ってくれていたようで、会ったことがないにも関わらず殿下の中で私の評価はどんどんうなぎ上りになっていたのだとか。
そして、いつかその隣に立てるようにと魔導具に関する勉強を一生懸命やってきたとも言っていた。
あまりにも私のことを褒め称えてくれるものだから、途中からだんだんと恥ずかしくなってきて、頬が真っ赤になっていくのを感じたが、それでも殿下は目を輝かせたまま私に対する想いを語り続けてくれた。
そしてそれにつられるように、私の夢である魔法が使えない人でも不当な差別を受けることなくみんな平等に扱える魔導具を普及させたい、と言う夢を語ると、それにも強く共感してくれた。
気づけば半刻ほどの間、私と殿下は魔導具についていろいろと熱く語り合ってしまった。
「――っと、ごめんなさい! その、僕ばっかり喋りすぎちゃって……」
「い、いえ。まさか殿下が私の発明品をそんなに好んでいてくださっていたとは、光栄です」
「その、良ければ今後も僕と仲良くしていただけると嬉しいです。できればその、研究の方についても、何か協力させてもらいたくて――」
「私の研究に、ですか? えっとそれは――」
なんというか、お見合いと言う形で来たはずなんだけど、随分と話が飛躍してしまったような気がするけれど、こうして真正面から憧れや尊敬の視線を向けられるというもの悪い気分ではなかった。
なんというか殿下は、魔法こそあまり際には恵まれなかったものの、今の陛下をそのまま若くしたような、まっすぐ強い信念と想いを抱いたお方と言った印象だ。
「その、殿下さえよければ私は構いませんが」
「や、やった! では今度、工房にお邪魔させていただいても構いませんか?」
「ええ、是非」
そう言って、次に会う約束をしたところで、今回のお見合いは終了した。
婚約関係の話にまでは至らなかったけれど、殿下とは今後も長く付き合っていきたいと思えるような、楽しい時間を過ごせた気がする。
こういう形から始まる恋というのも、アリなのかもしれないなとちょっとだけ思うのだった。
「あ、ええと、シェリル・ブランヴェルです。よ、よろしくお願いします……」
部屋に入るや否や、やや大きすぎる声で自己紹介をしてきたライトハルト王子に、私も慌てて立ち上がって挨拶をする。
なんというか、予想していた王子像とはまったく違うタイプだったので少し拍子抜けした気分だけれど、何と言うか、嫌みとかそういうものが一切なさそうな人だったので第一印象は個人的にかなり良かった。
「その、ライトハルト殿下。本日はお見合いの場を設けてくださりありがとうございます。よろしければこちらにお座りください」
「は、はい。失礼しますね」
声は若干震えていたものの、足取りはしっかりしているし、席につく際の所作も美しさすら感じるほどしっかりしていた。
イメージとは違ったものの、立派な服に身を包んだその姿はまさに王子そのもの。
太陽のような明るさを持つ黄金色の髪と、透き通った翡翠の瞳。
まだ垢抜けていない可愛らしい顔立ちをしているが、まっすぐこちらを見てくる瞳はどこか輝いていて、凛々しさすら感じ取れた。
「…………」
「…………」
き、気まずい!
どうしよう。全く知らない人とのお見合いだなんてしたことなかったから、何をしゃべったらいいのか分からない!
殿下の方も緊張しているのか、あるいは私を見定めているのか何も喋ってくれないし……
「その、殿下はおいくつなのですか? 私は今年で19になりましたが――」
「は、ひゃいっ! え、えっと、僕は15、です」
正直何を話したらいいのか分からないけれど、この重い空気に耐え切れず、とりあえず年齢を聞いてみたけれど、15歳だったんだ。
年の差がある、と言うべきほどの差ではないけれど、年下の男の人と親しくした経験が弟くらいしかない上に、相手の方が身分が上ともなると何ともやりにくい。
どうしたものかと悩んでいると、ライトハルト殿下がまたも立ち上がり、
「その、シェリルさん。貴女がこの魔道具を開発したというのは本当なのですか?」
「えっ?」
そう言って殿下は徐に懐から何かを取り出し、机の上に置いた。
それは一つの小さな傘と結晶だった。
私は殿下に許可を取ってそれを手に取らせてもらうと、すぐにそれが私の発明品であることが分かった。
「えっと、はい。そうですね。これは確か2年ほど前に作ったもので、お花とかに手軽に水撒きができる魔導具だったかなと」
「やっぱりそうなんですね! 凄いです!」
「え、ええと、ありがとうございます?」
「僕、リディア姉さまにこの魔導具のこと教えてもらって、すごく感動したんです。そしていつか開発した人に会ってみたいなって思ってて――」
その言葉を契機に火が付いたのか、ライトハルト殿下は私の魔導具で得た体験を事細かに語ってくれた。
この水撒きの魔導具以降も私がリディアに渡していた試作品をこのライトハルト殿下も一緒になって扱ってくれていたようで、会ったことがないにも関わらず殿下の中で私の評価はどんどんうなぎ上りになっていたのだとか。
そして、いつかその隣に立てるようにと魔導具に関する勉強を一生懸命やってきたとも言っていた。
あまりにも私のことを褒め称えてくれるものだから、途中からだんだんと恥ずかしくなってきて、頬が真っ赤になっていくのを感じたが、それでも殿下は目を輝かせたまま私に対する想いを語り続けてくれた。
そしてそれにつられるように、私の夢である魔法が使えない人でも不当な差別を受けることなくみんな平等に扱える魔導具を普及させたい、と言う夢を語ると、それにも強く共感してくれた。
気づけば半刻ほどの間、私と殿下は魔導具についていろいろと熱く語り合ってしまった。
「――っと、ごめんなさい! その、僕ばっかり喋りすぎちゃって……」
「い、いえ。まさか殿下が私の発明品をそんなに好んでいてくださっていたとは、光栄です」
「その、良ければ今後も僕と仲良くしていただけると嬉しいです。できればその、研究の方についても、何か協力させてもらいたくて――」
「私の研究に、ですか? えっとそれは――」
なんというか、お見合いと言う形で来たはずなんだけど、随分と話が飛躍してしまったような気がするけれど、こうして真正面から憧れや尊敬の視線を向けられるというもの悪い気分ではなかった。
なんというか殿下は、魔法こそあまり際には恵まれなかったものの、今の陛下をそのまま若くしたような、まっすぐ強い信念と想いを抱いたお方と言った印象だ。
「その、殿下さえよければ私は構いませんが」
「や、やった! では今度、工房にお邪魔させていただいても構いませんか?」
「ええ、是非」
そう言って、次に会う約束をしたところで、今回のお見合いは終了した。
婚約関係の話にまでは至らなかったけれど、殿下とは今後も長く付き合っていきたいと思えるような、楽しい時間を過ごせた気がする。
こういう形から始まる恋というのも、アリなのかもしれないなとちょっとだけ思うのだった。
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