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24.5②

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 マティス・バークレーについての報告をあげて間もなく母上から返答があった。
 そこには彼に接触して彼の持つスキル【補正】の詳細を調査しろとあった。

「さて、誰を彼に接触させるか……」

 まず彼ーーマティス・バークレーが擦り寄っていて、だが彼を全く相手にしていない(スキルの影響を受けていない)のは前提として。信用がおける、王家に忠誠を誓っている家でなければならない。マティスの力を利用して、よからぬことを考えられても困る。

「エド」
「お断りいたします」
「まだ何も言っていないんだけど」
「言われなくとも解ります。きっと、あのピンク頭の脳内花畑と接触しろというのでしょう? 申し訳ないのですが、それだけは絶対に無理です」
「ーーエド」
「もう、人として生理的に無理なのです。彼、脳内の花畑に変な虫でも飼ってるんじゃないですか? 先日など私の目の前でわざとらしくつまづいて、抱きついてきたんですよ!? その時、私の体に発疹が出たのです。もう、あの時はしばらく痒みが引かなくて大変でした。ほら見てください、今奴の話をしただけで思い出し発疹が……」

 そう言ってエドが制服シャツの袖を捲ると、確かに彼の腕には赤い発疹がぽつぽつと現れていた。確かにこれでは彼に接触するのは無理だろう。

「……ああ、わかった。エドは除外で」
「当たり前です。もうあんな目には二度と会いたくありません」
「となると、あと目ぼしい高位貴族は誰がいたかな」
「殿下でよろしいじゃないですか」
「ーーえ?」
「殿下ほど餌……いえ、マティスの興味をひく存在はないかと。なんといっても王子様ですし」
「エド、君ね」
「それに殿下でしたら何があっても婚約者様を裏切ることはないでしょう? 安全面に関しても、殿下であれば学園内でも常に護衛がついているので心配ないですし。どこかの令息に頼んで、その令息にもしものことがあった方が事です。ね、殿下?」

 エドがそれは良い笑顔を見せた。










「ああ、どうしましょう。困った、困った」

 ある日の昼休み、エドが書類の入った封筒を手に途方にくれていた。
 といってもこれは演技なのだが。
 私はエドから少し離れた場所で様子を窺っている。それにしてもエド、台詞が棒読みすぎる。あれでは演技だと丸わかりではないのか? その証拠に周囲の生徒たちや私の護衛たちも変な顔をしているのだが。あれに引っかかるのはよほどのバカしかいないのではないか?

「あれ? エドワード様、どうしたんですかぁ?」

 ーーと思っていたら、引っかかる者がいた。

「ああ、マティス・バークレーか。実は殿下に書類を渡し忘れてしまったのだよ。私はこれから教諭に用事があるので、そちらに行かなければならないし……ああ、困った、困った」
「わあ、それは大変! よければ僕が持っていってあげますよ?」

 マティスが一歩近づくとエドが一歩退がる。大丈夫か?これから書類を渡すのに近づかないといけないのに、逃げ腰でどうする。

「む……そ、それは助かる。では君に頼むこととしよう。殿下は今、中庭にいらっしゃるはずだ……っ」
「はーい! 了解でーす!」

 エドの返事を聞くや否やマティスは書類の入った封筒を奪うように受け取ると、足取り軽く中庭の方角に駆けていった。
 それにしてもエドの言う通りだった。マティスは昼休みになると、決まってこの渡り廊下にやって来るという話。特に用はなさそうなのに昼休み中、渡り廊下を行ったり来たり……。時には手を合わせて祈るような仕草をしたりとちょっと気味が悪かった。

「殿下、殿下!」
「ん? ああ、エド。なんとか書類を渡せたね。発疹が出ているようだが大丈夫かい?」
「全然大丈夫ではないです。奴め封筒を奪うついでに、私の手を握って行ったのです!」

 エドの手が指先から手首まで赤い発疹が出ている。

「ーー痒そうだね」
「痒いですよ! ああ嫌だ、もう奴には二度と近づきたくないです。これ毛虫に触れた時と同じ症状なので、あの男、絶対に頭の中に毛虫を飼育していますよ……それより早く中庭に行ってください。それと、奴に接触したあと私に会う時はしっかり手洗いしてくださいよ」

 一国の王子に対してなかなかの言いようだが、あの発疹を見る限り仕方がない。
 しかし、特定の人間に関して拒否症状が体に現れるとは。エドとマティス・バークレーとはよほど相性が悪いらしい。私とニコがそうではなくて本当に良かった。




※※※





「やった! やった、やった! ついにイベント発生!」

 昼休みにあそこの渡り廊下を張っていて正解!
 なかなかイベントらしき事が起きないから、思わず神様にお祈りしちゃったよ。

 学園内でのイベントの六割はあの場所がきっかけで起こる。僕もでは渡り廊下で、片っ端からモブに話しかけた。今はなんでか話しかけようとすると逃げられるけど。

 前世を思い出したのは五歳のスキル授与の時。
 背中を刺されて死んだはずなのに生きてるし、子供になっているしで最初はすごく混乱した。だけどしばらくしてが前世でやってたBL恋愛ゲームと同じ世界だとわかって、飛び上がって喜んだ。

「この書類をアンソニー推しに渡して好感度を上げないと」

 メイン攻略対象のひとり、第一王子のアンソニー。ゲームと違って婚約者で悪役令息のニコルとの仲は良いみたい。

「多分、難易度が上がってるんだろうなぁ。でも、やっとアンソニーに近づけるようになったから、ここからガンガン好感度上げていくぞー」

 なんといってもでは僕が主人公、なにをやっても許される存在なんだ。
 前みたいに後から文句を言われることもない。



 今度こそ僕ひとりだけを見てくれる人をゲットするんだから。
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