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第一話
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「陛下! ジーナ陛下! いらっしゃるか!」
目覚めのきっかけはクロルネアス国オリダスカル城の裏門の側に建つ、かつてここで自ら命を絶った使用人の霊が彷徨ってるとか戦で殉職した騎士の霊が出る等の幽霊話がてんこ盛りで人がほとんど寄り付かない今は使われていない監視塔に響いた成人女性の声だった。
凛とした響きの落ち着いた声にそれが誰かなどはすぐに分かり、監視塔の最上階にある小部屋で脚を投げ出す形で石畳の床に直に座り背を預けていたごつごつとした岩壁から背を離しふあ……と一つ欠伸を漏らす。
「……少しだけ仮眠を取るつもりが、寝入ちゃってたのか……。」
そのままの体勢でん~~……と伸びをすればタンタンタンとここにたどり着く長い石の螺旋階段をなかなかのスピードで昇ってくる固い革靴の音が耳朶を打ち、次いでバンッと結構な勢いで開かれた部屋の出入口である木製のドアに視線を向けるとさすがに前世の基準で言えば四階建てのビルに匹敵する高さの塔の階段ダッシュは堪えたのか少し息が上がっている私の護衛である彼女――メリハリが効いた均整の取れた体とすらりとした女性らしい長い手足を軍服のようにも見える襟と袖口に銀の装飾が施された漆黒色のナポレオンジャケットに似た服と外套に包んだ、首の後ろで一つに縛った背中の半分程の長さのダークブラウンの髪に顔の右半分を前髪で隠したきりっとした上がり眉と二重で目尻がつり上がったアンバーの瞳が特徴的な目鼻立ちがはっきりしている顔立ちの美人――リラ・ヴェルテアードへとへらりと笑いかけた。
「やあ、リラ。ご機嫌はいかがかな?」
「『いかがかな?』じゃない! どれだけ探し回ったと思ってるんだ!」
打てば響くような勢いで返されたそれには軽く肩を竦め、ごめんごめんと続ければはぁーーと思い切り息を吐き出した彼女に半眼で睨まれる。
うん、結構怖い。
「いやだって、今日は折角我が厳格なる鬼教師ヴェーク・マグカルゴ先生による『優雅な女王になるためのマナー講習』が先生のご都合でなくなった訳だし、時間は有効活用しないとって思ってさ。」
「……貴方という方は。有効活用はいいが、いくら王城内とは言え護衛も付けず執務室から抜け出すのはやめてくれ。例え貴方には誰も掠り傷一つ付けられないとしてもだ。二年前、貴方の母君である前女王陛下とアディク王子の国葬が行われた夜、廊下で一人倒れている貴方を見つけた時どれだけ肝が冷えたか……。」
「――ああ。あったなぁ、そんな事。そうか、もうあれから二年になるのか。」
少し呆れたように嘆息し僅かに眉を潜める彼女にそう言えば、と返し瞳を細めた。
そう『深海の魔女』に会ったあの時、受け取ると同時に手の中でまるで氷か何かのようにどろどろと溶け液体になっていく『ラダシャルツ』を『魔女』に言われるまま、手を口に付けて飲み込んだ瞬間凄まじい闇の力が電撃のように全身を駆け抜けた衝撃でその場に倒れ伏したわたしを見つけた時のリラの事は覚えている。
駆け寄ってきた彼女に抱き起こされ、朦朧とする意識の中で見上げたその顔は今まで見たことないくらい険しくて。
必死にわたしの名前を呼ぶ姿に、そう言えばリラは唯一『ジーナ』に寄り添い、最期まで尽くした臣下だったなぁなんて場違いな記憶が頭を過った。
最終決戦の時も魔王がいる玉座にあと少しでたどり着く主人公と仲間達の前に足止めに現れたのが彼女で、その最期は主人公の仲間の一人との相討ちだった。
そんな最期の最期まで自らの主に忠誠を捧げたリラさえも『ジーナ』は一度も顧みなかったけど、わたしは違う。
わたしがあの結末を回避するって事はつまりリラをあんな風に死なせないようにする事と同義なんだと気が付き、これはますます頑張らないとと秘かに気合いを入れ直したところで、リラ相手なら気を失っても大丈夫だと完全に意識を手離したものだ。
そしてこの二年間で分かったことと言えばまず、わたし自身がストーリーになかったり、ストーリーから外れた行動を取る事により結果や結末を変える事は基本的には可能だということ。
これに関しては本当助かった。
もし出来なかったら、やっぱり決められた未来は変えられないのかとこの時点で軽く闇落ちするところだった。
ただ何でもかんでも改変できると言うわけでもないらしく、『ゲームの根本を揺るがすような事に対しては世界の修正力が働く』という厄介なギミックがある事も知った。
簡単に言えばゲームのストーリー開始時点ですでに『ジーナ』によって故人となりストーリーに直接的に関わらない人物は、例えわたしがそうしなくても別の要因で『エレガル』の舞台から降りるように世界が動くというもので、これが本当に厄介過ぎるのだ。
例えば『ジーナ』が世界を滅ぼそうとしたのは本心で望んでいたものを得る機会もなく、『ラダシャルツ』により力を得てからは一層自分に怯え、恐れ戦く周囲を見て完全に世界というものに失望したからだった。
誰も自分を見てくれない。
誰も自分を誉めてくれない。
誰も自分に笑いかけてくれない。
誰も自分を理解してくれない。
誰も自分を愛してくれない。
……ならばもう、こんな国も、こんな世界も、どうだっていいじゃないか。
――――世界が私を疎むなら、いっそ自分の手で全てを無に返してしまえ。
そんな自棄にも似た感情が『ジーナ』を冷酷で残虐な魔王に変貌させた。
ただわたしはそれを『知っている』からこそ結構冷静に物事を見たり判断したりする事が出来ているのか、正式に女王となった後周囲の人間全てが自分を恐れ疎む敵にしか見えず、それが心の余裕をなくす要因となり冷酷な態度や苛烈で残虐な行動を生んだ結果、周囲にはさらに人が寄り付かなくなりますます自分の中の孤独感と絶望を深めていくという完全な悪循環に陥っていた『ジーナ』と比べると、確かにわたしをよく思ってなかったり利用してやろうというオーラを隠そうともしない人達が大半だけど、リラがいる時点で独りじゃないって事が分かりきってるぶん結構平穏な女王ライフを過ごせていると思う、多分。
さらにそんな中で少数ではあるものの幾人かの信頼に値する人物にも目星がついてきて、その一人であるゲームでは『ジーナ』が最初に処刑したこの国の王宮魔術師であるセデル・イェーリスに対してそんな事をする意味も理由もないしで特に何もしなかったら、彼が『ジーナ』によって命を落としたと推察される同時期に反逆の嫌疑がかけられ、わたしが口出しをする間もなくあっという間に幽閉が決まった。
まあ本人は「いやあ、まさか宰相殿にあそこまで揺るぎない反逆の証拠を突き付けられるとは思ってなくてね。うっかり逃げそびれちゃったのさ。あっはっは。」とあっけらかんと言い放つくらいには呑気にしてたけど。
てか笑い事じゃないだろあれ。
「ところで。陛下、そもそも時間の有効活用と言ってもこんなところで一体何を?」
あまりに危機感のないセデルのぽやぽやとした笑みに今更ながら一発はたいとけば良かったなんてぼんやりと考えていると、んん゛と軽く咳払いし続けたリラによって意識が現実に引き戻される。
おっとそうだった。
「ああ。ほら、先日恐れ知らずにも我が城に潜入しようとした賊がいただろう? で、彼らが利用したのは人目に付かず、警備も手薄だったあの裏門だ。金に目が眩んで彼らを手引きした裏門の門番兵は処罰したものの、いつまたああ言った事が起こるとも限らない。だからこれを少し強化しようと思ってね。」
そう告げてわたしの足の下――石造りの床一杯に描いた魔法陣の縁を手で軽く撫でれば、わたしの手の動きに合わせ視線を床に落とした彼女の瞳が小さく見開かれたのを見てにんまりと微笑んだ。
うん、流石はリラ。一目でこれがどういうものか分かったか。
「これは……結界魔法か。しかも今までこの城の守りに使っていた簡略式ではなく、東西南北の四ヶ所に同じものを設置し一度発動すれば陣に囲われた空間は外部からのあらゆる干渉を受けなくなる程高度なもの。陛下、こんな術式をどこで。」
「ん~~、基本は今現在絶賛幽閉中なセデルからだな。そもそもこの城の結界魔法は不法侵入者等の招かれざる客を弾くためだけのもの。城と外部との必要な出入りを遮断するわけにも行かないから普段はそれで事足りていたが、内部の者が招き入れてしまえば例えこの城に仇なす輩でも結界の中に入れてしまう事が簡略式の欠点と言えば欠点だった。だが逆にこの結界だと強力過ぎて一度発動させてしまえば術者――この場合はわたしだが――が解呪するか死なない限り、外部から結界内に入る事は勿論、内部から結界の外に出る事も出来なくなってしまう。それでは本末転倒だ。だから少しアレンジしてある。」
「アレンジ?」
「ああ、簡単に言えば術式に読心の要素を組み込んだ。つまりこれからはその者のの心によって結界魔法の効果が変化する。特にこの城、もしくはわたしに害を為そうとする者が無闇に城に近付いたり侵入等すれば、自動で拘束魔術が発動する上、少しでも抵抗の意思を見せたら雷撃魔術にその身を打ち抜かれ無効化させられると言うわけだ。どうだ? これなら衛兵達が賊を相手取る必要もなくなるし、合理的だろ?」
すいっと瞳を細め首を傾けそう続ければ、柳眉を寄せ頭痛でもするかのように米神を抑えたリラが思い切り嘆息する。
さらにわたしへと歩み寄り片手を差し出す彼女の意図に気がつき、白手袋に包まれたその手に自らの手を重ね支えにして立ち上がると真っ正面から向かい合ったアンバーの瞳を細めた彼女が口を開いた。
「…………またなかなかにえげつない事を。本当に貴方は敵には容赦がないな、ジーナ。」
「用心に越した事はないし『備えあれば憂いなし』とも言うからな。それに、誰だって長生きはしたいものさ。ところでリラ。私を探していたとの事だったが、何かあったのか?」
「ああ、そうだった。先程リヒスヴェイユ国のローデルヴァイン公爵から正式に申し込みがあった。彼の三男シャハル・ローデルヴァインを是非貴方の婚姻相手に、と。これが書状だ。」
ふと思い当たりそう尋ねるとはっきりと分かるほど渋い表情を浮かべ、懐から取り出したA4の紙を二つ折りにしたものがぴったり入りそうなサイズの白地の洋封筒をわたしに差し出す彼女にああと眉を下げる。
そのまますでに宰相あたりによって検閲済みなのだろう封蝋が切られたその封筒の中身を改め先程リラが言った内容そのままが書かれている書状にざっと目を通し、顔合わせの意味も込めて三日後にシャハルをこの城に遣わせる旨が書かれた最後の一文を見つけ、ここまでは『エレガル』の展開通りかと目の前の彼女にばれないように小さく息をついた。
目覚めのきっかけはクロルネアス国オリダスカル城の裏門の側に建つ、かつてここで自ら命を絶った使用人の霊が彷徨ってるとか戦で殉職した騎士の霊が出る等の幽霊話がてんこ盛りで人がほとんど寄り付かない今は使われていない監視塔に響いた成人女性の声だった。
凛とした響きの落ち着いた声にそれが誰かなどはすぐに分かり、監視塔の最上階にある小部屋で脚を投げ出す形で石畳の床に直に座り背を預けていたごつごつとした岩壁から背を離しふあ……と一つ欠伸を漏らす。
「……少しだけ仮眠を取るつもりが、寝入ちゃってたのか……。」
そのままの体勢でん~~……と伸びをすればタンタンタンとここにたどり着く長い石の螺旋階段をなかなかのスピードで昇ってくる固い革靴の音が耳朶を打ち、次いでバンッと結構な勢いで開かれた部屋の出入口である木製のドアに視線を向けるとさすがに前世の基準で言えば四階建てのビルに匹敵する高さの塔の階段ダッシュは堪えたのか少し息が上がっている私の護衛である彼女――メリハリが効いた均整の取れた体とすらりとした女性らしい長い手足を軍服のようにも見える襟と袖口に銀の装飾が施された漆黒色のナポレオンジャケットに似た服と外套に包んだ、首の後ろで一つに縛った背中の半分程の長さのダークブラウンの髪に顔の右半分を前髪で隠したきりっとした上がり眉と二重で目尻がつり上がったアンバーの瞳が特徴的な目鼻立ちがはっきりしている顔立ちの美人――リラ・ヴェルテアードへとへらりと笑いかけた。
「やあ、リラ。ご機嫌はいかがかな?」
「『いかがかな?』じゃない! どれだけ探し回ったと思ってるんだ!」
打てば響くような勢いで返されたそれには軽く肩を竦め、ごめんごめんと続ければはぁーーと思い切り息を吐き出した彼女に半眼で睨まれる。
うん、結構怖い。
「いやだって、今日は折角我が厳格なる鬼教師ヴェーク・マグカルゴ先生による『優雅な女王になるためのマナー講習』が先生のご都合でなくなった訳だし、時間は有効活用しないとって思ってさ。」
「……貴方という方は。有効活用はいいが、いくら王城内とは言え護衛も付けず執務室から抜け出すのはやめてくれ。例え貴方には誰も掠り傷一つ付けられないとしてもだ。二年前、貴方の母君である前女王陛下とアディク王子の国葬が行われた夜、廊下で一人倒れている貴方を見つけた時どれだけ肝が冷えたか……。」
「――ああ。あったなぁ、そんな事。そうか、もうあれから二年になるのか。」
少し呆れたように嘆息し僅かに眉を潜める彼女にそう言えば、と返し瞳を細めた。
そう『深海の魔女』に会ったあの時、受け取ると同時に手の中でまるで氷か何かのようにどろどろと溶け液体になっていく『ラダシャルツ』を『魔女』に言われるまま、手を口に付けて飲み込んだ瞬間凄まじい闇の力が電撃のように全身を駆け抜けた衝撃でその場に倒れ伏したわたしを見つけた時のリラの事は覚えている。
駆け寄ってきた彼女に抱き起こされ、朦朧とする意識の中で見上げたその顔は今まで見たことないくらい険しくて。
必死にわたしの名前を呼ぶ姿に、そう言えばリラは唯一『ジーナ』に寄り添い、最期まで尽くした臣下だったなぁなんて場違いな記憶が頭を過った。
最終決戦の時も魔王がいる玉座にあと少しでたどり着く主人公と仲間達の前に足止めに現れたのが彼女で、その最期は主人公の仲間の一人との相討ちだった。
そんな最期の最期まで自らの主に忠誠を捧げたリラさえも『ジーナ』は一度も顧みなかったけど、わたしは違う。
わたしがあの結末を回避するって事はつまりリラをあんな風に死なせないようにする事と同義なんだと気が付き、これはますます頑張らないとと秘かに気合いを入れ直したところで、リラ相手なら気を失っても大丈夫だと完全に意識を手離したものだ。
そしてこの二年間で分かったことと言えばまず、わたし自身がストーリーになかったり、ストーリーから外れた行動を取る事により結果や結末を変える事は基本的には可能だということ。
これに関しては本当助かった。
もし出来なかったら、やっぱり決められた未来は変えられないのかとこの時点で軽く闇落ちするところだった。
ただ何でもかんでも改変できると言うわけでもないらしく、『ゲームの根本を揺るがすような事に対しては世界の修正力が働く』という厄介なギミックがある事も知った。
簡単に言えばゲームのストーリー開始時点ですでに『ジーナ』によって故人となりストーリーに直接的に関わらない人物は、例えわたしがそうしなくても別の要因で『エレガル』の舞台から降りるように世界が動くというもので、これが本当に厄介過ぎるのだ。
例えば『ジーナ』が世界を滅ぼそうとしたのは本心で望んでいたものを得る機会もなく、『ラダシャルツ』により力を得てからは一層自分に怯え、恐れ戦く周囲を見て完全に世界というものに失望したからだった。
誰も自分を見てくれない。
誰も自分を誉めてくれない。
誰も自分に笑いかけてくれない。
誰も自分を理解してくれない。
誰も自分を愛してくれない。
……ならばもう、こんな国も、こんな世界も、どうだっていいじゃないか。
――――世界が私を疎むなら、いっそ自分の手で全てを無に返してしまえ。
そんな自棄にも似た感情が『ジーナ』を冷酷で残虐な魔王に変貌させた。
ただわたしはそれを『知っている』からこそ結構冷静に物事を見たり判断したりする事が出来ているのか、正式に女王となった後周囲の人間全てが自分を恐れ疎む敵にしか見えず、それが心の余裕をなくす要因となり冷酷な態度や苛烈で残虐な行動を生んだ結果、周囲にはさらに人が寄り付かなくなりますます自分の中の孤独感と絶望を深めていくという完全な悪循環に陥っていた『ジーナ』と比べると、確かにわたしをよく思ってなかったり利用してやろうというオーラを隠そうともしない人達が大半だけど、リラがいる時点で独りじゃないって事が分かりきってるぶん結構平穏な女王ライフを過ごせていると思う、多分。
さらにそんな中で少数ではあるものの幾人かの信頼に値する人物にも目星がついてきて、その一人であるゲームでは『ジーナ』が最初に処刑したこの国の王宮魔術師であるセデル・イェーリスに対してそんな事をする意味も理由もないしで特に何もしなかったら、彼が『ジーナ』によって命を落としたと推察される同時期に反逆の嫌疑がかけられ、わたしが口出しをする間もなくあっという間に幽閉が決まった。
まあ本人は「いやあ、まさか宰相殿にあそこまで揺るぎない反逆の証拠を突き付けられるとは思ってなくてね。うっかり逃げそびれちゃったのさ。あっはっは。」とあっけらかんと言い放つくらいには呑気にしてたけど。
てか笑い事じゃないだろあれ。
「ところで。陛下、そもそも時間の有効活用と言ってもこんなところで一体何を?」
あまりに危機感のないセデルのぽやぽやとした笑みに今更ながら一発はたいとけば良かったなんてぼんやりと考えていると、んん゛と軽く咳払いし続けたリラによって意識が現実に引き戻される。
おっとそうだった。
「ああ。ほら、先日恐れ知らずにも我が城に潜入しようとした賊がいただろう? で、彼らが利用したのは人目に付かず、警備も手薄だったあの裏門だ。金に目が眩んで彼らを手引きした裏門の門番兵は処罰したものの、いつまたああ言った事が起こるとも限らない。だからこれを少し強化しようと思ってね。」
そう告げてわたしの足の下――石造りの床一杯に描いた魔法陣の縁を手で軽く撫でれば、わたしの手の動きに合わせ視線を床に落とした彼女の瞳が小さく見開かれたのを見てにんまりと微笑んだ。
うん、流石はリラ。一目でこれがどういうものか分かったか。
「これは……結界魔法か。しかも今までこの城の守りに使っていた簡略式ではなく、東西南北の四ヶ所に同じものを設置し一度発動すれば陣に囲われた空間は外部からのあらゆる干渉を受けなくなる程高度なもの。陛下、こんな術式をどこで。」
「ん~~、基本は今現在絶賛幽閉中なセデルからだな。そもそもこの城の結界魔法は不法侵入者等の招かれざる客を弾くためだけのもの。城と外部との必要な出入りを遮断するわけにも行かないから普段はそれで事足りていたが、内部の者が招き入れてしまえば例えこの城に仇なす輩でも結界の中に入れてしまう事が簡略式の欠点と言えば欠点だった。だが逆にこの結界だと強力過ぎて一度発動させてしまえば術者――この場合はわたしだが――が解呪するか死なない限り、外部から結界内に入る事は勿論、内部から結界の外に出る事も出来なくなってしまう。それでは本末転倒だ。だから少しアレンジしてある。」
「アレンジ?」
「ああ、簡単に言えば術式に読心の要素を組み込んだ。つまりこれからはその者のの心によって結界魔法の効果が変化する。特にこの城、もしくはわたしに害を為そうとする者が無闇に城に近付いたり侵入等すれば、自動で拘束魔術が発動する上、少しでも抵抗の意思を見せたら雷撃魔術にその身を打ち抜かれ無効化させられると言うわけだ。どうだ? これなら衛兵達が賊を相手取る必要もなくなるし、合理的だろ?」
すいっと瞳を細め首を傾けそう続ければ、柳眉を寄せ頭痛でもするかのように米神を抑えたリラが思い切り嘆息する。
さらにわたしへと歩み寄り片手を差し出す彼女の意図に気がつき、白手袋に包まれたその手に自らの手を重ね支えにして立ち上がると真っ正面から向かい合ったアンバーの瞳を細めた彼女が口を開いた。
「…………またなかなかにえげつない事を。本当に貴方は敵には容赦がないな、ジーナ。」
「用心に越した事はないし『備えあれば憂いなし』とも言うからな。それに、誰だって長生きはしたいものさ。ところでリラ。私を探していたとの事だったが、何かあったのか?」
「ああ、そうだった。先程リヒスヴェイユ国のローデルヴァイン公爵から正式に申し込みがあった。彼の三男シャハル・ローデルヴァインを是非貴方の婚姻相手に、と。これが書状だ。」
ふと思い当たりそう尋ねるとはっきりと分かるほど渋い表情を浮かべ、懐から取り出したA4の紙を二つ折りにしたものがぴったり入りそうなサイズの白地の洋封筒をわたしに差し出す彼女にああと眉を下げる。
そのまますでに宰相あたりによって検閲済みなのだろう封蝋が切られたその封筒の中身を改め先程リラが言った内容そのままが書かれている書状にざっと目を通し、顔合わせの意味も込めて三日後にシャハルをこの城に遣わせる旨が書かれた最後の一文を見つけ、ここまでは『エレガル』の展開通りかと目の前の彼女にばれないように小さく息をついた。
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