直接証明
本作は昭和史最大の謎と呼ばれる「三億円強奪事件」の真相に迫るものである。
*
二〇〇九年十二月。黄ばんだ「手記」とメモを綴ったような「覚書」を知人から渡された。「手記」は知人の親戚筋に当たる元新聞記者靴田貴文宛へ送られて来たもので差出人は不明だという。「覚書」は「手記」を読んだ元記者靴田が書きとめたものだという。 私は「手記」に添えられていた五百円札三枚に興味を覚えた。今は流通していない紙幣である。これらを持ち帰り、読了すると、衝撃を覚え、興奮した。
*
靴田は、手記には東京五輪が開催された翌一九六五年に起こった昭和の犯罪史上もっとも有名な現金強奪事件「三億円事件」のことが書かれていることが分る。真犯人に結びつく具体的なことは一切書かれてないが、キーワードを拾い出しメモした。「二人のサッカー少年」、「蝶好きな少女」など他四点、それに「固い絆」だ。この事件ほど、自称他称を問わず真犯人が数多く名乗りあげた犯罪はなかったが、どれも決定的な証拠に欠けていた。靴田は、「手記」を封筒に戻そうとして、奥に薄くて小さな紙包みがあることに気づく。開けると五百円札が三枚。事件後当時新券の五百円札二千枚のみの番号が公開されていた。当時の記事と照合すると一致した。真犯人しか持ちえない決定的な直接証明であった。
しばらくして靴田は「蝶好きな少女」というキーワードで、四十年程前に取材、記事にした女子高生を思い出す。難病を持った双子の妹と、母親を続けて亡くし、重い鬱病にかかり、登校不良となった少女だ。妹が亡くなる直前に漏らした「蝶のように自由に空を飛びたい」という言葉が重く心に残り、蝶の飼育を始め、それを続けている中に、その病を克服し、その経験を生かしてフリースクールで「蝶育」―醜いと疎まれる青虫から変身したサナギが、やがて蝶へと全身の力を込めて羽根を広げて飛び立つ感動的な瞬間を伝えたくてボランティアで授業を行うようになった少女だ。当時高校生だった弥勒寺未来だ。あんな子がその後どうような人生を送っているのかと想う。その後を取材して記事にしたらどうかと元勤務先の編集部へ提案する。若手の記者青山がその担当となった。
取材記事から意外な事実が判明する。弥勒寺未来は、靴田が卒業した高校サッカー部の後輩にあたる二人の男と同居していたが、彼らには「手記」に書かれていたキーワードと結びつく点が多々あったからだ
*
私は「手記」と故靴田貴文が書き残した「覚書」とをまとめ「小説 三億円強奪事件」とでも呼べるひとつの物語とすることにした
*
二〇〇九年十二月。黄ばんだ「手記」とメモを綴ったような「覚書」を知人から渡された。「手記」は知人の親戚筋に当たる元新聞記者靴田貴文宛へ送られて来たもので差出人は不明だという。「覚書」は「手記」を読んだ元記者靴田が書きとめたものだという。 私は「手記」に添えられていた五百円札三枚に興味を覚えた。今は流通していない紙幣である。これらを持ち帰り、読了すると、衝撃を覚え、興奮した。
*
靴田は、手記には東京五輪が開催された翌一九六五年に起こった昭和の犯罪史上もっとも有名な現金強奪事件「三億円事件」のことが書かれていることが分る。真犯人に結びつく具体的なことは一切書かれてないが、キーワードを拾い出しメモした。「二人のサッカー少年」、「蝶好きな少女」など他四点、それに「固い絆」だ。この事件ほど、自称他称を問わず真犯人が数多く名乗りあげた犯罪はなかったが、どれも決定的な証拠に欠けていた。靴田は、「手記」を封筒に戻そうとして、奥に薄くて小さな紙包みがあることに気づく。開けると五百円札が三枚。事件後当時新券の五百円札二千枚のみの番号が公開されていた。当時の記事と照合すると一致した。真犯人しか持ちえない決定的な直接証明であった。
しばらくして靴田は「蝶好きな少女」というキーワードで、四十年程前に取材、記事にした女子高生を思い出す。難病を持った双子の妹と、母親を続けて亡くし、重い鬱病にかかり、登校不良となった少女だ。妹が亡くなる直前に漏らした「蝶のように自由に空を飛びたい」という言葉が重く心に残り、蝶の飼育を始め、それを続けている中に、その病を克服し、その経験を生かしてフリースクールで「蝶育」―醜いと疎まれる青虫から変身したサナギが、やがて蝶へと全身の力を込めて羽根を広げて飛び立つ感動的な瞬間を伝えたくてボランティアで授業を行うようになった少女だ。当時高校生だった弥勒寺未来だ。あんな子がその後どうような人生を送っているのかと想う。その後を取材して記事にしたらどうかと元勤務先の編集部へ提案する。若手の記者青山がその担当となった。
取材記事から意外な事実が判明する。弥勒寺未来は、靴田が卒業した高校サッカー部の後輩にあたる二人の男と同居していたが、彼らには「手記」に書かれていたキーワードと結びつく点が多々あったからだ
*
私は「手記」と故靴田貴文が書き残した「覚書」とをまとめ「小説 三億円強奪事件」とでも呼べるひとつの物語とすることにした
あなたにおすすめの小説
寄生虫の復讐 ~美咲の冷徹な一刺し~
「お前みたいな寄生虫はゴミだ」
10年尽くした夫・雅也から突きつけられたのは、離婚届と不倫相手。
彼は知らない。私が家を飛び出した「サカモト・ホールディングス」の令嬢であることを。
そして明日、彼が人生を賭けて挑む調印式の相手が、私の実父であることを。
どん底に叩き落とされたサレ妻による、容赦なき「経済的破滅」の復讐劇。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
裏切りの代償
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。