狼王の贄神子様

だいきち

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 「魔獣が出たぞ!! すぐに門を閉めて対処しろ!! くそ、なんだってこんな時に!!」
「街の中に一歩もいれるなーー!! 水属性は前衛へ!! 湿らせて動きを鈍らせるんだ!!」

 がなる声や、武器を持って走る金属の擦れ合う音。けたたましい敵襲の鐘が市井に鳴り響く中、フリヤは鋼の剣を持って城壁の外にいた。
 砂漠が、蠢いている。フリヤの琥珀の瞳は、異常現象をしっかりと捉えていた。

「砂の魔獣って、サンドワームくらいしかいねえんじゃ」
「種類なんぞ後回しで構わない。あれは自在だ。良かったじゃないか、お前試合には出たくないと言っていただろう」
「っ、ヘルグ隊長、それとこれとはべつ……!!」

 見えない磁石によって持ち上げられるかのように、大量の砂が天に向かって伸びていく。
 長く、暗い影が大地を横切るかのように地べたを塗りつぶす。砂はみるみるうちに巨大な毒蛇へと姿を変えたのだ。

「てしらべだ、受け止めてもらおうか」

 ヘルグの足元から円環状に吹き上がった風が、灰色の外套を忙しなくばたつかせる。腰に挿していた鋼の剣を引き抜くと、ヘルグはその刀身に指をすべらせた。

「た、隊長なにするつもり!?」
「切れるか試す」
「っ、やばいみんな、ヘルグ隊長が攻撃するぞ!!」

 フリヤの声に、わかりやすく周りにいた兵士は顔を青褪めさせた。動かぬ蛇の魔物を前に、背を向けるように兵士が走り出す。
 ヘルグの術の範囲外へと向かわなければ、巻き添えを食らうことは目に見えている。つまりそれ程、ヘルグの放つ風の属性術は範囲が広いのだ。  

「風よ」

 ボソリと呟いた。その途端、ヘルグの剣は鈍色から透き通った瑪瑙の剣に姿を変えた。不思議な光を纏った剣が、澄んだ音を立てる。柄が応えるようにかちりとなると、ヘルグの瞳が淡く輝いた。
 外套が、灰色の翼を広げるように背後へ伸びる。それほどまでに、繰り出した突きの一筋が素早かったのだ。

 一瞬の静寂の後、太鼓にも似た音が深く響いた。体を揺らす程の振動に、煽られるようにフリヤがよろめいた僅かな間、目にしたのは魔物の体を通して見えた抜けるような青空であった。

「へ、」

 それは、大蛇の体に窓をつけたかのように違和感のある光景であった。丸く切り取られた青空が、大蛇の首元にポカリと存在したのだ。
 体から切り取られた砂が、水をまくように砂漠へ戻る。その時、空から何かが落ちてきた。

「フリヤ」
「っ、人だ!」

 ヘルグの言葉とほぼ同時に、フリヤは剣を捨てて飛び出した。鬼族の身体能力なら、地面に衝突する前に受け止めることは可能だろう。走りにくい砂地を、足の裏に空間魔法を施すことで馴染ませる。砂煙を立てながら真下へと辿り着けば、フリヤは慌てて両腕を前に突き出した。

「ぅわ、っ」
「どぅわ、っ」

 両腕に鋭い衝撃が走った。体重に引きずられるかのように、体がよろついたかと思えば、途端に足元の砂が緩くなった。踏み込んだ一歩が、砂地に飲み込まれる。踏ん張りが効かぬまま、まるで湯の中に飛び込むようにして、フリヤはもう一人と共に沈み込んだ。
 まさか、踏み込んだ場所が流砂のへそだなんてついていないにもほどがある。
 咄嗟に腕の中に抱き込むようにしたが、このままでは二人して地上には戻れないだろう。

(あ、やばい死ぬかも)

 受け止めた子は、無事だろうか。重い砂が、体の隙間に入り込むようにして腕の力を奪っていく。
 腕の中に抱いていたはずの感触がするりと消えて、慌てて水の中をもがくように手を伸ばす。伸ばしたふりやの腕を、力強い力で掴まれた。もしかしたら、ヘルグ隊長が助けてくれたのかもしれない。
 襟首を引かれるようにして、ぐっと体が上昇する。砂の重みと、体重をものともしないその力によって、フリヤは砂を散らすようにして地上へ引きずり出された。

「っ、げほ、っげほっ、ぐ、うえっ」
「フリヤ!!」
「フリヤ大丈夫か!」

 背後から、ヘルグの聞き慣れた声がした。よたつきながら振り向けば、慌てたようにこちらに向かってくる姿があった。
 フリヤの腕は、ヘルグだと思っていたものに掴まれたままであった。
 朦朧とする意識の中、腕を掴む人物を見上げる。逆光のせいで顔立ちは見えなかったが、大きな獣の耳が頭に生えていた。

(え、誰……)

 二つの琥珀が、鈍く光った気がした。仲間の声が近付く中、フリヤの意識はそこまでが限界であった。


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