狼王の贄神子様

だいきち

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 今思えば、フリヤとニルの出会いは随分と印象の悪いものであったが、しかしそれを上回るほど男らしかったのも覚えている。
 あれからすぐにフリヤは兵士を辞めて、ずっとやりたかった小料理屋を始めた。
 何ができるか、を考えて。誰かの居場所になれる、そんな店を開くことにしたのだ。
 思えば、その誰かはあの時に決まっていたのかもしれない。だからフリヤは、勇気を出して誘ったのだ。最初のお客様になってくれと。
 そして、開店当日。
 

「まさかカエレス様がお忍びで来るとはおもわないじゃん!」

 瞳に涙を滲ませるほど、大笑いをしたフリヤが言った。

「ニルじゃないんだ! そのときニルは何してたの!?」
「あいつ、風邪こじらせて寝込んでたらしい」

 最高にしまらない!
 わはは!と声を出して不満を言ったティティアを前に、フリヤは息を整える。
 
 また食いに来てよ。あの時のフリヤの言葉を約束として覚えてくれていたティティアが、妊娠した体で遊びに来たのだ。勿論、カエレスと共に。

「絶対に行かねえとだめなんだ。とか言ってたからね。それならば私が変わりに行こうと思ったんだ」
「扉開けて、国王様が目の前に居たときの俺の気持ちもわかって欲しいですよ! ほんとびびったんですから!」
「うん。それはすまないとは思っている」

 人の姿に戻ったカエレスが、愉快そうに笑う。あのとき、ニルよりも早く手料理を食べたカエレスは、しばらくの間ニルのうらめしげな視線を背中で受け止めていたという。

「でもいいじゃないか。それがきっかけのようだし」
「きっかけ?」
「おいやめろ。それ以上はまじでやめろ」
「ニルはいつから私にタメ口を聞くようになったのかな」
「すんまっせん‼︎」

 にっこりと笑うカエレスの背中を、宥めるようにティティアが撫でる。ニルが揶揄われているのは面白いが、今はそんなことよりもきっかけのほうが気になっているようだ。フリヤは期待するようなティティアの視線に気がつくと、気恥ずかしそうに鼻の頭を掻いた。

「うん、ま、まあ……ほら、今は幸せだから、いいんじゃん……?」
「ふーーーーん?」

 ニマニマと笑うティティアの楽しそうな表情に、フリヤはじわりと耳の先まで赤くした。ねだられて話した馴れ初めだが、こういうのは恋バナとでもいうのだろうか。まさか己がそんなことをする時が来るだなんてと、顔を逸らすように壁を見つめる。

 あの後、フリヤは風邪を引いたニルに手料理をもって見舞いに行ったのだ。まさか熱一つであんなに弱っていると思いもよらず、寝具にくるまって落ち込んでいるニルを見た時は随分と不思議な気持ちになったものだ。

「ニル、風邪引くと一人でいられないんだぜ」
「おいこら言うな」
「うわ、意外と可愛いとこあるんですねえ」
「お嫁様は黙ろうかねえ⁉︎」

 カエレスからの褒賞代わりに店を与えられたフリヤは、文字通りニルにとっての居場所にもなったのだ。あれから、少しずつ二人で過ごす時間が増えてきて、気がつけばそういう間柄になった。直接的な事は言われていないが、ニルが満足するのならいいだろう。
 いまだにこんな、体の大きな男の隣で尾っぽを揺らしているニルの趣味はわかりかねるが、それでもいいというなら大人しくしていようと、隣を温めている。
 ちろりと見つめる、ニルの顔が悔しそうに赤くなっている。コシャリを食べに来るついでに、馴れ初めを聞きたいとねだられて話したのは、こんなニルの顔を見てみたいからというフリヤの悪戯も含まっていた。

「お腹に赤ちゃんいるんだからさ、うちのニルこき使ってやってよ。でも、まあ第一はカエレス様だろうけど。栄養たっぷりのもん用意するから、また今度遊びに来てよ」
「うん、あ。料理も教えて。俺もカエレスの胃袋掴みたいんだ」
「ティティア……、そんなことを思ってくれていたのかい?」
「わかったわかった。なんでも教えてあげるから、これ以上のイチャイチャは城に帰ってからやってくれ」

 イチャイチャじゃない! と照れ臭そうに文句を言う。それでも、カエレスの尾っぽの揺れようを見れば一目瞭然である。
 フリヤの揶揄いに、頬を染めるように拗ねたティティアであったが、カエレスに腰を抱かれるように馬車に乗る様子は随分と幸せそうであった。
 あの子も、色々あったらしいと言うのはニルから聞いていた。休みの日の真夜中に、ニルが突然寝室に現れたアモンに叩き起こされるままに城へ連れ出された時は何事かと思ったが、ティティアの命が狙われたと聞いた時はフリヤも肝を冷やしたのだ。

「ああやって、あのこも居場所を見つけられてよかったよな、ぅいで、っ」
「楽しそうにベラベラしゃべりやがって。ったく、明日ハニにチクられて揶揄われるのが面倒だっての」
「はは、ごめんって。俺もあんまそう言う話しないから、なんか舞い上がっちまったのかも」
「舞い上がったあ?」

 フリヤの肩に顎を乗せるように、ニルが目を向ける。近い距離になれたのは、互いの体温を知っているからだ。ニルを懐かせたまま、店に戻る。フリヤが後片付けをしようとすれば、その手を止めるように背後から抱きしめられた。

「何、なになにっ」
「なあ、舞い上がったってなんだよ」
「え、そこ気にな」
「気にならねえ男とかいるんか」
「ぅひ、っ」

 慌てて口を抑える。ニルの手によって持ち上げられるように寄せられた己の胸への刺激に、出してはいけない声を漏らしたのだ。
 背後で、ニルが悪い顔で笑う気配がする。ぎこちなくその手を外そうと腕に手を添えれば、服の上から胸の頂をしっかりと挟まれた。

「ぅあ、ばっかやめっ」
「舞い上がったって、何。言えよフリヤ」
「あ、っゃ、やめ、た、勃つ……っ」
「いいじゃねえの、俺はそっちのが都合がいい」

 指で押し潰されるだけで、腰が震えてしまう。ニルの片手が腹に周り、乳首への刺激から解放されたと思っていた。しかし、その手はしっかりとフリヤの体を支えるように床へと座らせる。
 嫌な予感を、ひしひしと感じ取る。ニルの鼻先が首筋に寄せられると、ベロリと舐められた。フリヤの体は、その先の気持ちいいを知っている。顔に熱が集まって、穿いていたボトムスの布地を押し上げる。嫌だを言っても、説得力のない体が出来上がった。

「に、ニル……」
「なあ、言えよ。俺が喜ぶ」
「ぁ、……っ、お、俺……お、お前のこと、話すの好き、だから……っ、ごめ、っ」
「……いいよ、喜ぶって言ったろ」

 フリヤの耳の柔らかさを確かめるように、甘く噛まれる。腰を引き寄せられ、膝立ちしたニルの中心に尻を当てられる。押し付けられた熱源に小さく身を震わせれば、乳首を刺激していたニルの手がゆっくりとフリヤの胸を揉んだ。
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