狼王の贄神子様

だいきち

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 ユドが探している大切なものというのが、友人であるザントマンの体の核。いわゆる魔石というものだった。なんでも、ザントマンは死んだ仲間の命を削り、術を放つらしい。砂を操る彼らが、魔石を魔素として空へ返すために行うそれは、葬送の意味も含まれているという。
 
「え、つまり一時的ではあるけど、ザントマンは仲間の力を使えるってこと?」
「そうじゃ。だがザントマンの使う仲間の力も、わしと何も変わらぬ。威力が二倍になるわけでもなく、ただ使える魔力が増えるだけじゃよ」
「じゃあ、異様に強くなったりとかはしないんだ。……そんな葬送の仕方があるなんて、僕は知らなかったよ」
 
 ザントマンのしわがれた手のひらから、砂つぶが現れる。それらはキラキラと光って薄緑色の魔石を作り出すと、そっとウメノへと手渡した。
 
「これが、ザントマンの魔石じゃ。いわば心の臓、わしは生い先も短い。いずれどこぞの魔物に喰われて死ぬ運命だろうとしても、唯一の友人の葬送くらいはしてやりたくてのう」
「親友だったんだ?」
「ああ、まあ一方的に惚れておったのさ。いい女だった、実に」
 
 ユドの言葉は、心からのものだというのがよくわかった。本当は、ミカヅキ平野で葬送を行おうとしていたらしい。あそこは魔素も豊富で景色もいい。どうせなら悪事で魔石を摩耗させるよりも、この平野のために使おうと思ったのだという。
 
「いやいい話なんだけどさ。でもやっぱり考え方は魔物よりなんだよな。いいか、魔石を全て眠りの砂に変えて風に運ばせたら、辺り一帯の村人達やら冒険者達は全員眠るだろう」
「何が不満じゃ。どうせこの平野に来るものはろくな奴がおらんのじゃ。多少懲らしめてやるのが薬というもの」
「あんたさっき悪事には使わないって言ってなかったか」
「悪事ではない。ミカヅキ平野への善意しかないわ」
 
 倒木に腰掛けて、ユドを交えての作戦会議。いや、依頼内容の確認と言った方が正しいかもしれない。呆れたように口を挟むルスフスの前で、ユドは腕を組んで睨み据える。
 ユドから渡されたザントマンの核を前に、ウメノは深いため息をついた。
 
「いや、まあいいや。葬送はちょっと別の方法を模索してもらうとして、僕の持っているこの核は何。まさかユドのとか言わないよね」
「わしの核に決まっておろう。お前は話を聞いていたか?」
「だからまさかってつけたじゃん! なんで大事な核を気軽に見せちゃうの!」
 
 ウメノの言葉に、ユドはにんまりと笑った。嫌な予感がする、思わず引き攣り笑み浮かべれば、おいぼれた魔人は鷹揚に頷いた。

「炎の魔人をも操っておる。わしはお主になら契約をしても良いと思えた」
「うわああやっぱり! まさかそれが報酬? いらないよそんなの! アモンだけで手いっぱいだってば!」
「む、我を小さき子だと思っておるのか。安心しろ、今更魔人が一人二人と増えたところで、我は嫉妬せぬぞ」
「そういう問題じゃないんだって‼︎ とにかくお断りします、はいこれはユドが持ってて!」
 
 大慌てでユドの魔石を本人へと返す。ウメノの姿に、楽しそうに笑う姿は実に魔人らしい。
 とにかく、どちらにしろミカヅキ平野へは向かわねばならない。モラリアが従えているグランドマタンゴ。おそらく、氷結属性を付与されていることだろう。ウメノは小さな拳を握りしめると、元気よく声を上げた。
 
「というか、死鬼に操られてる時点で属性が変化してるかもしれないんだ! そんな珍しいグランドマタンゴを僕がほっとけるわけもない!」
「うわでたよ、ウメノちゃんの好奇心」
 
 ウメノが好奇心を暴走させると、大抵が面倒ごとへと発展していくのだ。しかし、敵と対峙する前からすでに面倒な戦いになるであろうことは予測がついている。
 ルスフスは覚悟を決めるように立ち上がると、長い髪を一つに丸めた。
 
「さて、陽が登った。魔素が増える前にさっさと仕事を終わらせよう」
「なんでお前が仕切っておるのだ」
「俺はウメノちゃんの護衛なんでね。この際年齢なんて知るか。ザントマン、協力して欲しくば俺の下についてもらうよ。弟分ってことでね」
「この老耄を弟分とは実に愉快よのう、いいだろう。死ぬ前の悪あがきだと思って付き合ってやろう」 
 
 死ぬつもりは毛頭ないのだろう。
 ザントマンの意地悪な笑みにため息を吐くと、ルスフスは槍を出現させる。向かうは死鬼モラリアと、グランドマタンゴのユニーク種の待つ敵陣だ。ユドがいうには、モラリアは言語を解すらしい。詠唱で術を発動する知性まで持っていたらひどく面倒だ。
 
「死鬼には鏡が有効だよ。ユドは死鬼の状態異常は聞かないだろうけど、ルスフス。君は毒以外は影響を受けるんだから、対策はしておくべきだ」
「俺が身だしなみに気を使うような男に見える?」
「待ってよ、一応夜間討伐が絡む可能性がある以上持ってけって言わなかった⁉︎」
「言われた。でも夜に魔素が濃くなるなら、戦いは昼間っかと思ったんだよ」
「ばか、ほんとばか!」
 
 昼間から動ける死鬼がいるというのは、与太話のようにも聞こえた。戦闘においても行き当たりばったりでその場を凌ぐルスフスにとっては、ウメノの指摘は耳が痛いものだろう。装備確認をすれば、やはりウメノが疲れるだけの結果となった。ルスフスは、当たり前のように鏡を持っていなかったのだ。
 深いため息を吐くウメノを、ユドが慰めるように背中を撫でる。
 
「男なんぞ、みんなそんなもんさ」
「僕も男なんだけどしっかりしてるよ」
「何、それはお前さんの周りがだらしないから、必然的にそういう性格になったまでよ」
「何それ真理じゃん」
 
 もう帰っていいかな。ウメノはめげそうになる気持ちを堪える。結局、森を出るまでルスフスは自由だった。でっかい虫を鷲掴みにして、そのままインベントリに入れるほどにはだ。
 ウメノが引き気味に、何に使うのかを問いかけたが、意地悪そうな笑みしか向けられなかった。
 貴様は虫も食べるのか。ユドの失礼なものいいにだけは、ルスフスはしっかりと文句を返していたが。




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