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2章

カズちゃんのお願い

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「あんらまぁぁあ!!!!やっんだぁんもぉー!めんこいわぁ、あん、おめめのお色がママと一緒なのねぇ!ママに似てるならきっと素直に違いないわぁん。」

甘く響くような声色の正体は和葉ちゃんだったようだ。急に真後ろからドッキリのように登場したせいで、かわいそうに初見の学はひどく驚いた。
人は予想だにしないことに直面すると、その衝撃の度合いによっては跳ね上がるということを教えてもらった気さえする。

「きいち、こちらは…」
「俊くんの従兄弟の和葉ちゃんだよ。」
「はじめましてねぇ、きいちくんのお友達はみんなイケメンばっかりねぇ。」

遺伝子組み換えが過ぎるだろ…。従兄弟という言葉を聞いた学は、心底驚きながらそう呟く。
葵はというと、言わずもがなである。

「ええ!?なんか気位の強そうな仔猫ちゃんがいるぅ!!あたしとははじめましてよねぇ!?また毛色が違うけど素材がいいわぁ…」
「ヒイッ!!」

ぐんっと詰め寄られた勢いのまま、学が慌てて身をそらす。それもそうだ。風を感じるほどの勢いで詰め寄られてはそうなるし、助けを求めて支線を向けたきいちは、なんだか微笑ましそうにわらっている。末永が慌てて学にかけよると、目ざとく見つけたカズちゃんは末永の動きを目線だけで止めた。やりよる。

「……ふぅん、頭の固そうな日本男児とセットかぁ。悪くないわねぇ。」

べろんと舌なめずりまでして値踏みする様子は、あの冷静な末永をもってしても言いようのない恐怖を感じたという。

「カズ隊長は、お見舞いですか?」
「バカ!葵バカ!」

待ちきれなかったのか、目を輝かせながら葵がかけよった。かわいそうに、益子は若干涙目である。取りすがろうと差し出した腕は虚しく空を切る。
ちなみに学も末永も葵の隊長発言に説明を求めたが、その疑問を解消してくれるような存在はその場にはいなかった。

「そうなの、あのジャーキー野郎が生まれたって教えてくれなくてぇ、忍さんに聞いてきたのよぉ!もうほんと気が利かない男なんだから。あ、これお祝いねぇ。」
「え、あ、ぎゃー!!かわいい!!何このベビー服ぅ!!」
「かわいいでしょ!?わかる!?まだ着るには大きすぎるけど、育つのも早いからそのうち使うかなとおもって買ってきたのよぉ!」

ヤケに高級感のある紙袋から取り出されたのは真っ白でモコモコの猫になりきれるベビー服だった。一緒に入っていた猫の足跡が刺繍されたスタイもセットで、肌触りがいい。これを息子が着たら誘拐されてしまうのではと思うくらい破滅的に可愛いにちがいない。和葉も海外暮らしが長いせいか、なかなか洒落たものをチョイスする。俊くんがムスッとした顔をしながらそんなことを思っていた。珍しく怒ってないのは凪のおかげだ。
せっかく泣き止んできたのにまた泣かれたら切なくなるから我慢した。ようは、息子の手前少しだけ格好つけたかっただけである。

「凪もカズちゃんにありがとーって、」
「いやだぁ、食べちゃいたいくらいかわいいわぁ…」

俊くんがしぶしぶ凪をきいちに渡すと、あろうことかそんな恐ろしいことを言うカズちゃんの腕に抱かせた。おいやめろ、そんなことしたら絶対に泣く。とハラハラする葵ときいち以外を除いた満場一致の心模様は、それはもう見事に覆される。

「やだ、うまくだけるかしら…うふふ、ちいちゃいお手々ねぇ…」

カズちゃんはみんなが心配するよりもずっと優しく、そして凪も盛り上がった上腕二頭筋の枕にうまいこと埋もれながら差し出された指をキュッと握った。
カズちゃんは青色の輝くアイシャドウをまとった瞼をゆっくりと瞬きながら、凪との小さな交流に心癒されている。

「あたし子供に泣かれちゃうことのほうが多いのよぉ、さすがきいちくんの子ねぇ…人懐っこいわあ」
「カズちゃんがいい人だって、わかるんだよねぇ。」
「もう、なんであなたみたいな子が、あんなひねくれ大魔神クソジャーキーと番ったの?そこだけが謎だわ。」
「誰かひねくれ大魔神クソジャーキー男だ。」

バチリと俊くんとカズちゃんの不穏な視線が交わった瞬間、ふわぁ、と大きなあくびをした凪をきいちが受け取る。

「そういえば何の話してたっけ?」
「ああ!!そうなの!!葵ちゃんの提案は私にとっても渡りに船なのよぉ!協力してぇ!?」
「え?うん?」

がしりときいちと葵の両肩を掴むと、くわっと目を見開いて懇願する。カズちゃんの必死の頼み込みに若干圧迫されて流れでの頷き感は否めないが、こんなに可愛いベビー服を貰えたし、葵はサイン入りのDVDももらっている。  
二人の善意は周りの止めときなさいというオーラを物ともせず、なんともカジュアルに承諾してしまう。

ここでポインおトなのが先程のきいちの言葉だ。

ーそういえば、何の話してたっけ?

きいちはカズちゃんの登場に驚きすぎて、先程まで上がっていた話題を完全に忘れていた。葵は葵で、憧れなカズ隊長を目の前にしてミーハー感が前に出すぎて話題を忘れていた。
ここで記憶に残っていたのは残りのメンバーのみで、学はその中でもずば抜けて先を読む力に長けていた。

ウエディングフォト…メイクをカズちゃんがするなら女装では?と。
益子をちらりと見ると、葵もメイクするなら見てみたいらしく、それはそれと止めに入る様子はなさそうだ。
じゃあ俊は?と目線を向けると、承服しかねるが場合によるといったなんとも言えない柔軟性を見せたあたりお察しである。

結局嫁の女装はみたいよね、となったらしい。 
旦那側はいつも自分勝手だ。学は末永だけはこうはならないようにきちんと調教しようと心に決める。

「じゃあ、話もまとまってよかったわ。スタジオはあたしが用意してもいいけれど…、せっかくならレトロな場所がいいわねぇ。」
「なら葵さんとこだね。蓄音機とかあるくらいだし。」
「レトロな基準が蓄音機ならたしかに満たしてるかもね、でも俺のところでやってくれるなら嬉しいな。」
「なら決まりね、きいちくんは産後だから、2ヶ月後とかにどうかしら?そうと決まれば忙しくなるわぁ!」

葵もきいちも勢いに乗じて頷いてしまったが、なんだかどでかい仕事を手伝わされるような気がしてならない。今更大丈夫かと、顔を見合わせたがあとのフェスティバルだ。

ちなみに忘れているようで補足すると2ヶ月後は文化祭である。ダブルブッキングしないようにと後にきいちが予定を送ると、カズちゃんは大喜びして参加すると言い張っていた。
文化祭では、部外者面でほっとしていた学も巻き込まれることになるのだが、それはまた後日語りたいと思う。


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