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第三章 王都攻防編
新しいものたちに囲まれて①
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カトリーナの奮闘があり、ラフォン公爵家の領地運営は安定を極めた。
それどころか、徐々に右肩上がりになっていく財政状況に代官は目を丸くした。
彼女は貧乏生活の体験を生かし、公爵家の経営を限りなくシンプルにして経費削減を行った。
前世の知識を使い、ラフォン公爵家そのものをブランド化、地域の特産物による新商品の開発、ニーズに沿ったマーケティングを通してブランドの裾のを広げつつ、利益優先ではない顧客目線での営業展開が功を奏し、領民達の経営能力は向上していった。
今後は、部分部分では自治も認めつつ、公爵家は許可と監視程度で十分に領地の運営が行えるという程度を目標にした。
まあ、そこまでに至るには長い期間を必要とするが、ひとまずの目途がたったカトリーナは王都へと旅立った。
それは、バルトに王都にいく許しを得たさらに二か月後。
その間は、互いに寂しい時を過ごしたが、乗り越えたのだ。
二人は、晴れて結婚三か月目にして新婚生活を始めることとなった。
バルトは一足先に王都に戻り仕事をやっていた。
そのあとを追うように、カトリーナも馬車で王都に向かう。
そのお供となる一人目は専属メイドでもある当然ダシャだ。
二人目は、執事長のプリ―ニオ。当然、公爵領の屋敷の者たちからは惜しまれる声があがったのだが、これからは王都での執務が中心になるとのことでカトリーナとともに来ることが決まった。
そして、もう一人。
護衛として一緒に来たのは、バルトの副官であるカルラだ。
彼女は、バルトに言われ渋々――というわけではなく実は自ら言い出して護衛の任務に就いている。
「隊長。もし隊長がどうしてもというのであれば、私がカトリーナ様の護衛をしますけど。まあ、どうしてもというのなら」
そんなことをいきなりバルトに言ってきたようだ。
そんな四人での旅路となったのだった。
旅路はダシャとプリ―ニオは当然のこと、カルラとも穏やかな雰囲気で過ごすことができた。
とりとめのない会話をしながら、思ったよりもぎすぎすしていない様子にカトリーナは胸をなでおろす。
そんな道のりの一幕。
まさにそろそろ王都に着こうかという頃、カトリーナはカルラに問いかけた。
「そういえばカルラ様」
護衛として、御者台に座っていたカルラに、カトリーナは後ろから話しかける。
「なんでしょうか? 王都でしたらもう数刻もあればつくと思いますよ」
「いえ、そうではなくて……ちょっと聞きたいことがあって」
その言葉に、カルラはちらりと後ろを向く。
「どうしてカルラ様が来てくれたのかなって。もちろん私はうれしいし心強いんだけど、忙しいんじゃないのかなって心配になったのよ」
その問いかけに、カルラは目に見えて狼狽し前を向いた。
「べ、別に! たまたま私が空いていたのです! 他意はありませんよ!? 本当ですから!」
突然大声をあげたカルラにカトリーナは目を驚いた。
なぜだか耳まで真っ赤なカルラの様子をみて、カトリーナはもしかしてと思い嬉しくなる。
「あの……もしかして」
「なんですか!?」
「今、バルト様すっごい忙しいだけど、普通副官って同じようにサポートするから忙しいですよね?」
「う……」
「それに、隊のだれかが来てくれればいいんだし、副官自ら来るような案件じゃなさそうな?」
「うぅ……」
「もしかして、カルラ様が来たいって言ってくれたのかなって――」
そこまで言うと、カルラはカトリーナの言葉を遮るようにして声を張り上げた。
「――もう王都はすぐそこですから! おりる準備をしておいてください!」
まあ、まだ数刻ある。
降りる準備には程遠い。
カトリーナはそれを理解しつつ、穏やかに受け止めた。
「はい。わかりました。では、カルラ様。一つお願いがあるのですけど」
「……なんですか?」
「王都にいったら一緒にお茶してくれませんか? 私、貧乏子爵家だったので、一緒にお茶にいくお友達なんていないんです。カルラ様のお時間があるときでいいですけど」
その言葉に、カルラは突然振り向き顔を真っ赤にしながらカトリーナを睨みつけたかと思うと、すぐに前を向く。
そして、とても小さい声でつぶやいた。
「べ、別に。カトリーナ様がどうしてもというのであれば……隊長の奥様ですし、公爵夫人ですし、私に拒否する権限はありません」
カトリーナは思わず笑いだしそうになる声を抑える。
「えっと……でしたら、ぜひお願いしたいです。あ、もし忙しかったら断ってくださいね?」
「……はい」
(っていうか、どうしていきなりデレが来たんだろう、デレが)
カルラの突然の様子の変わりように驚いたカトリーナだったが、受け入れてくれたことにうれしく思いつつ王都への残りの旅路を味わっていく。
王都でも楽しい日々が送れそうだな、なんて思っていた彼女。
遠目に見える王都の防壁を見ながら、そんなことを考えていた。
それどころか、徐々に右肩上がりになっていく財政状況に代官は目を丸くした。
彼女は貧乏生活の体験を生かし、公爵家の経営を限りなくシンプルにして経費削減を行った。
前世の知識を使い、ラフォン公爵家そのものをブランド化、地域の特産物による新商品の開発、ニーズに沿ったマーケティングを通してブランドの裾のを広げつつ、利益優先ではない顧客目線での営業展開が功を奏し、領民達の経営能力は向上していった。
今後は、部分部分では自治も認めつつ、公爵家は許可と監視程度で十分に領地の運営が行えるという程度を目標にした。
まあ、そこまでに至るには長い期間を必要とするが、ひとまずの目途がたったカトリーナは王都へと旅立った。
それは、バルトに王都にいく許しを得たさらに二か月後。
その間は、互いに寂しい時を過ごしたが、乗り越えたのだ。
二人は、晴れて結婚三か月目にして新婚生活を始めることとなった。
バルトは一足先に王都に戻り仕事をやっていた。
そのあとを追うように、カトリーナも馬車で王都に向かう。
そのお供となる一人目は専属メイドでもある当然ダシャだ。
二人目は、執事長のプリ―ニオ。当然、公爵領の屋敷の者たちからは惜しまれる声があがったのだが、これからは王都での執務が中心になるとのことでカトリーナとともに来ることが決まった。
そして、もう一人。
護衛として一緒に来たのは、バルトの副官であるカルラだ。
彼女は、バルトに言われ渋々――というわけではなく実は自ら言い出して護衛の任務に就いている。
「隊長。もし隊長がどうしてもというのであれば、私がカトリーナ様の護衛をしますけど。まあ、どうしてもというのなら」
そんなことをいきなりバルトに言ってきたようだ。
そんな四人での旅路となったのだった。
旅路はダシャとプリ―ニオは当然のこと、カルラとも穏やかな雰囲気で過ごすことができた。
とりとめのない会話をしながら、思ったよりもぎすぎすしていない様子にカトリーナは胸をなでおろす。
そんな道のりの一幕。
まさにそろそろ王都に着こうかという頃、カトリーナはカルラに問いかけた。
「そういえばカルラ様」
護衛として、御者台に座っていたカルラに、カトリーナは後ろから話しかける。
「なんでしょうか? 王都でしたらもう数刻もあればつくと思いますよ」
「いえ、そうではなくて……ちょっと聞きたいことがあって」
その言葉に、カルラはちらりと後ろを向く。
「どうしてカルラ様が来てくれたのかなって。もちろん私はうれしいし心強いんだけど、忙しいんじゃないのかなって心配になったのよ」
その問いかけに、カルラは目に見えて狼狽し前を向いた。
「べ、別に! たまたま私が空いていたのです! 他意はありませんよ!? 本当ですから!」
突然大声をあげたカルラにカトリーナは目を驚いた。
なぜだか耳まで真っ赤なカルラの様子をみて、カトリーナはもしかしてと思い嬉しくなる。
「あの……もしかして」
「なんですか!?」
「今、バルト様すっごい忙しいだけど、普通副官って同じようにサポートするから忙しいですよね?」
「う……」
「それに、隊のだれかが来てくれればいいんだし、副官自ら来るような案件じゃなさそうな?」
「うぅ……」
「もしかして、カルラ様が来たいって言ってくれたのかなって――」
そこまで言うと、カルラはカトリーナの言葉を遮るようにして声を張り上げた。
「――もう王都はすぐそこですから! おりる準備をしておいてください!」
まあ、まだ数刻ある。
降りる準備には程遠い。
カトリーナはそれを理解しつつ、穏やかに受け止めた。
「はい。わかりました。では、カルラ様。一つお願いがあるのですけど」
「……なんですか?」
「王都にいったら一緒にお茶してくれませんか? 私、貧乏子爵家だったので、一緒にお茶にいくお友達なんていないんです。カルラ様のお時間があるときでいいですけど」
その言葉に、カルラは突然振り向き顔を真っ赤にしながらカトリーナを睨みつけたかと思うと、すぐに前を向く。
そして、とても小さい声でつぶやいた。
「べ、別に。カトリーナ様がどうしてもというのであれば……隊長の奥様ですし、公爵夫人ですし、私に拒否する権限はありません」
カトリーナは思わず笑いだしそうになる声を抑える。
「えっと……でしたら、ぜひお願いしたいです。あ、もし忙しかったら断ってくださいね?」
「……はい」
(っていうか、どうしていきなりデレが来たんだろう、デレが)
カルラの突然の様子の変わりように驚いたカトリーナだったが、受け入れてくれたことにうれしく思いつつ王都への残りの旅路を味わっていく。
王都でも楽しい日々が送れそうだな、なんて思っていた彼女。
遠目に見える王都の防壁を見ながら、そんなことを考えていた。
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