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第三章 王都攻防編
貴族の戦い④
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「お前らは帰っていい。俺は、カトリーナとゆっくり帰ることにする」
「は! かしこまりました」
「それと……お前達は立派だったぞ。俺は、生涯誇りに思う」
バルトが護衛をねぎらうと、護衛の二人は涙を浮かべてお礼を言ってその場から立ち去った。
バルトは、護衛達の後ろ姿を見送るとそっと、カトリーナを抱きかかえていた手に力を込める。
いまだ夢見心地のカトリーナは、ぼんやりとバルトの顔を見上げていた。
「……バルト様」
「すまなかった。怖い思いをさせたな」
「いえ……助けに来てくれてありがとうございました」
先ほどまで感じていた恐怖心は徐々に雲散し、今ではバルトの体温を感じてとても居心地がよい。
カトリーナは、ゆりかごのようなバルトの胸の中で急にとけた緊張感からくる疲労に身をゆだねていた。
「それより、どうしてここに? お帰りは明日では?」
「ああ、そのことか。予定より少し早く帰ってこれてな。王都の近くにいたんだが、急に緊急時用の魔道具が鳴り響いたんだ。それで慌てて屋敷に戻ったんだ」
「それはダシャが?」
「そうらしい。事情を聞いて急いで王城に向かったら案の定だ。間に合ってよかった」
ほっとしたようにほほ笑むバルト。
その顔は、普段の刺々しいバルトとは全くことなり、甘く優しいほほ笑みを携えている。
カトリーナはその微笑みを眺めているととても暖かい気持ちが心に満ちていくのを感じていた。いつまでもこうしていたくなるような、そんな気持ちに。
「……カトリーナ?」
だが、そんなカトリーナの気持ちとは裏腹にバルトの表情は曇った。
どこか心配するような、そんな顔つきになっていたのだ。
「どうしました? 何か、ありましたか?」
「それはこっちのセリフだ……あれだけひどいことをされたんだ。怖かったんだな。そんなに涙を流して」
「え?」
バルトのその言葉に、カトリーナは初めて自分が泣いていることに気づいた。
「え? いや、悲しいとかそういうのじゃなくて、あの、その」
うろたえるカトリーナの頬を、バルトの指がそっと撫でる。
その手つきはとてもやさしく、触れるか触れないかくらいの触り方がどこか色っぽくて少しだけ恥ずかしくなった。
「いいんだ。カトリーナ。もう大丈夫だからな。あのようなことは今後起こさないようにするからな」
「えっと、その……だから怖くなんて――」
「……いいんだ」
そういって強く強く抱きしめてくれるバルトの頼もしさに気が緩んだのか、カトリーナも思わず強く抱きしめ返す。
「絶対に俺が君を守って見せる。必ずだ」
目をつぶっていたカトリーナの頭上から降り注ぐバルトの声。
その声を聴いていたカトリーナの瞳からは唐突に涙が溢れてきた。
今更ながらカトリーナは前進が震えてくる。
蘇る恐怖に、そしてそこから解放され包み込まれる安心感に心は揺さぶられ感情は決壊する。
「バ、バルト様……怖かったです」
「わかってる。もう大丈夫だ」
そんなやり取りをしながらふたりはくっついて屋敷へと戻っていった。
離れがたかった二人は、屋敷についてからも片時も離れることなく過ごしていた。そして、寝るときも、同じベッドにはいり寄り添うように眠りについた。
次の日の朝。
ダシャが何もなかった二人を呆れつつため息を吐いていたのはまた別の話である。
次の日は皆の謝罪から始まった。
誰の謝罪かというと、当然リリとララ、そしれセヴェリーノだ。
三人は、カトリーナを止められなかったことに対してダシャやプリ―ニオから叱責されていた。
「このようなことがもう二度とないように。わかったね?」
「はい執事長」
「では仕事に戻るように」
そういうと三人は散っていった。
横にいたダシャも、申し訳なさそうにプリ―ニオに謝った。
「本当に申し訳ありません。まさかあのようなことになるとは」
「いや、今回は相手が上手だったのだ。私も耄碌したものだよ。だが、かなり苦しい立場になったね。ラフォン家は」
「エリアナ様はなんと?」
ダシャの問いかけに、プリーニオは顔をしかめた。
「まだ、待っていろとのことだ。このままでは、またバルト様やカトリーナ様が危険にさらされてしまうかもしれない」
「そうですよね……しかもこのタイミングで、これですよ」
ダシャは持っていた書簡をプリ―ニオに見せると、二人同時にため息を吐いた。
「穏健派の妻たちが集まる夜会か……。なんとも荒れそうだな」
プリーニオはダシャに準備を進めるように声をかけると、おもむろに椅子に座り顔を手で覆った。
「は! かしこまりました」
「それと……お前達は立派だったぞ。俺は、生涯誇りに思う」
バルトが護衛をねぎらうと、護衛の二人は涙を浮かべてお礼を言ってその場から立ち去った。
バルトは、護衛達の後ろ姿を見送るとそっと、カトリーナを抱きかかえていた手に力を込める。
いまだ夢見心地のカトリーナは、ぼんやりとバルトの顔を見上げていた。
「……バルト様」
「すまなかった。怖い思いをさせたな」
「いえ……助けに来てくれてありがとうございました」
先ほどまで感じていた恐怖心は徐々に雲散し、今ではバルトの体温を感じてとても居心地がよい。
カトリーナは、ゆりかごのようなバルトの胸の中で急にとけた緊張感からくる疲労に身をゆだねていた。
「それより、どうしてここに? お帰りは明日では?」
「ああ、そのことか。予定より少し早く帰ってこれてな。王都の近くにいたんだが、急に緊急時用の魔道具が鳴り響いたんだ。それで慌てて屋敷に戻ったんだ」
「それはダシャが?」
「そうらしい。事情を聞いて急いで王城に向かったら案の定だ。間に合ってよかった」
ほっとしたようにほほ笑むバルト。
その顔は、普段の刺々しいバルトとは全くことなり、甘く優しいほほ笑みを携えている。
カトリーナはその微笑みを眺めているととても暖かい気持ちが心に満ちていくのを感じていた。いつまでもこうしていたくなるような、そんな気持ちに。
「……カトリーナ?」
だが、そんなカトリーナの気持ちとは裏腹にバルトの表情は曇った。
どこか心配するような、そんな顔つきになっていたのだ。
「どうしました? 何か、ありましたか?」
「それはこっちのセリフだ……あれだけひどいことをされたんだ。怖かったんだな。そんなに涙を流して」
「え?」
バルトのその言葉に、カトリーナは初めて自分が泣いていることに気づいた。
「え? いや、悲しいとかそういうのじゃなくて、あの、その」
うろたえるカトリーナの頬を、バルトの指がそっと撫でる。
その手つきはとてもやさしく、触れるか触れないかくらいの触り方がどこか色っぽくて少しだけ恥ずかしくなった。
「いいんだ。カトリーナ。もう大丈夫だからな。あのようなことは今後起こさないようにするからな」
「えっと、その……だから怖くなんて――」
「……いいんだ」
そういって強く強く抱きしめてくれるバルトの頼もしさに気が緩んだのか、カトリーナも思わず強く抱きしめ返す。
「絶対に俺が君を守って見せる。必ずだ」
目をつぶっていたカトリーナの頭上から降り注ぐバルトの声。
その声を聴いていたカトリーナの瞳からは唐突に涙が溢れてきた。
今更ながらカトリーナは前進が震えてくる。
蘇る恐怖に、そしてそこから解放され包み込まれる安心感に心は揺さぶられ感情は決壊する。
「バ、バルト様……怖かったです」
「わかってる。もう大丈夫だ」
そんなやり取りをしながらふたりはくっついて屋敷へと戻っていった。
離れがたかった二人は、屋敷についてからも片時も離れることなく過ごしていた。そして、寝るときも、同じベッドにはいり寄り添うように眠りについた。
次の日の朝。
ダシャが何もなかった二人を呆れつつため息を吐いていたのはまた別の話である。
次の日は皆の謝罪から始まった。
誰の謝罪かというと、当然リリとララ、そしれセヴェリーノだ。
三人は、カトリーナを止められなかったことに対してダシャやプリ―ニオから叱責されていた。
「このようなことがもう二度とないように。わかったね?」
「はい執事長」
「では仕事に戻るように」
そういうと三人は散っていった。
横にいたダシャも、申し訳なさそうにプリ―ニオに謝った。
「本当に申し訳ありません。まさかあのようなことになるとは」
「いや、今回は相手が上手だったのだ。私も耄碌したものだよ。だが、かなり苦しい立場になったね。ラフォン家は」
「エリアナ様はなんと?」
ダシャの問いかけに、プリーニオは顔をしかめた。
「まだ、待っていろとのことだ。このままでは、またバルト様やカトリーナ様が危険にさらされてしまうかもしれない」
「そうですよね……しかもこのタイミングで、これですよ」
ダシャは持っていた書簡をプリ―ニオに見せると、二人同時にため息を吐いた。
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