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第三章 王都攻防編
ピンぼけ夫婦の奮闘⑨
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ドラが剣呑な視線を向けているのとは裏腹に、カトリーナはほほ笑んで出された紅茶に手を付けた。
そして、焦らすように味わうと、ゆっくりとカップを戻す。
「ドラ様。見世物などとそのような書き方はしていません。よくお読みください。『ドラ様には、ぜひ穏健派の代表として舞台に上がっていただきたい』と私は書いたつもりですが」
「伯爵夫人である私に、どのような舞台に上がれというのですが。もうすっかり薹も立っております。そのような女に人前に出ろとは恥をさらせと言っているようなものではないですか」
平静を装って入るが、ドラはやや怒っているようだ。それがカトリーナの勘違いだとしても、いい気分ではないのは間違いない。
カトリーナはどういえば伝わるのだろうかと考え込む。が、やはり自分の気持ちをまっすぐ伝えることが大事なのだと思い直し胸を張った。
「私はドラ様はとてもお美しいと思っております。が、今はそれは本題ではありません。その手紙の内容の補足として、私の考えを聞いてもらえますか?」
「それを聞くための今ですから。どうぞ。存分におしゃべり下さいな」
そういって、扇を広げ顔を前に持ってくるドラ。
淑女のやり取りで表情を隠すのは立派な戦略だ。ポーカーフェイスと言えど完璧ではない。それを美しく補うための術は堂に入ったものだった。
だが、カトリーナはあえてそのままだ。
自分の考えも、感情も、すべてをしっかりさらけ出そうと努めた。
「はい。ありがとうございます。まず言わせていただきたいのは、先日の夜会でのお礼です。あの時は貴重なご助言ありがとうございました。あの時、私は第二王子の謀略にはまり失態をおかしてしまいまいした。その重さと私自身の至らなさに気づかせてくれたのは、ドラ様のお言葉です」
「そうですか。それならばいいのです。あなたは、穏健派の筆頭となるべき方。しっかりとしていただかなくては」
表情は見えないが、声色はやや柔らかくなったのか。
ひとまずはいい調子だと、カトリーナは笑顔の下でほっと息を吐いた。
「それで考えたのです。私の失態を取り返し、穏健派の方々の、ひいては第一王子の助けになることはなんなのか。それで出た答えを、こちらでご披露させていただきたいと思っております」
「ええ。いい心がけだと思います」
「それでですね……端的に言いますと、私のやりたいこと。それは――」
――ミスコンです。
「み、すこん?」
聞きなれない言葉なのだろう。扇の隙間から見える目がやや見開かれており、困惑しているのが見て取れた。
「ええ。まあ、普通のミスコンではありませんけどね。私がやりたいことは、わかりやすくいうと品評会と称したお祭りのようなものでしょうか」
「品評会、ですか?」
「ええ。私がドラ様に出ていただきたいと思ったのは、美魔女コンテストです」
「ま、魔女ですって!?」
魔女という単語に思わず声を引きつらせたドラだったが、すぐさまカトリーナはフォローを入れる。
「あ、魔女といっても一般的な魔法使いのような存在ではありませんよ? 魔法を使っていなければ考えられないような美貌を兼ね備えている方のことをそう呼びたいと思ったのです。造語ですよ、ご安心くださいませ」
「……魔法を使わないと保てない、美貌?」
「ええ。ドラ様はお世辞抜きにとてもお美しいです。失礼ながら、その年齢では考えられないほどに。そんなドラ様の美しさをみた平民達はどうおもうでしょうか? この世の奇跡だと思うでしょうか? それとも神の御業だとも……」
「そ、それは大げさでしょう……」
「いえ! それほどの美しさをお持ちです! ドラ様は! しかし……ただその美しさを世に知らしめただけでは穏健派の力を高めることには至りません。ですから、そこでもう一つコンテストを行うのです」
「も、もう一つ?」
「ええ。ドラ様の美しさを支える化粧品の、ですよ」
そういった瞬間に、ドラの目にギラリと光が宿った。
「王都の化粧品を扱う商会に協力してもらい、どの化粧品をドラ様が使っているかを宣伝する。もちろんほかの参加者には他の商会が化粧品を提供します。もちろん、最も美しいのはドラ様だと思いますが、二位、三位の方にあこがれる平民もいるでしょう。ドラ様は、その美しさで平民達の心をつかみ、それにあこがれた平民達は化粧品を買いあさる。化粧品を扱う商会は売り上げを伸ばし、次のコンテストで勝てるようさらにいいものを作り出す。それを使ったドラ様達はより美しくなっていく……想像してみてください。ドラ様の美しさが平民の心をつかみ経済を動かしていくのです。これは、まぎれもない力ですよ」
「それはすばら……こほん。そうやってお世辞を言えば喜ぶなどと思ったら大間違いです」
ドラは一瞬おろしかけた扇で再び顔を覆うと、やや狼狽えながらつんと澄ました。
「そうですか。では、この話はやめたほうがよろしいので?」
「いいえ。続けなさい」
「そうですか。では続けさせていただきます」
カトリーナは、ドラの様子をみてにやりとほほ笑んだ。
「では続きですが……そんな楽しいコンテストをやっていると当然お腹も空きますよね? ならば何が必要でしょう?」
問いかけられたドラが、慌てた様子で口を開いた。
「も、もちろん飲食店じゃないかしら!? 腕利きの料理人を取り揃えて、豪華な食材を――」
「いいえ、ドラ様。それだと平民の方々は何も食べられませんよ。ですから、屋台を誘致するんです」
「屋台を……ですか?」
「そうですね……王都屋台グランプリとでも名付けましょうか……。各名店が、名もない店が、同じ広さで安い値段で料理を提供するんです。コンテストを見ながら人々はそれに舌鼓をうつ。当然、ここでもどれが一番だと思うか投票させてもいいかもしれません。そうすれば生まれます。人の流れが、お金の流れが、心の流れが……。私がやりたいのは、そんな、皆にとってよいものが生まれる流れを作りあげるお祭りをしたいのです。王都全体を揺るがすような、そんなお祭りを。そうすれば、穏健派の貴族は民衆の心を掴める。それは、きっと絶対的な力になります。殿下を後押しする、確かな力に」
カトリーナは一気に言い放つと、じっとドラの答えを待った。
ドラはいつの間にか扇を持つ手をおろしており、カトリーナはじっと見つめていた。すでに、お互いに表面を取り繕おうなどといった雰囲気ではなく、カトリーナもドラも感情をむき出しにして見つめあっている。
しばらくすると、ドラはふっと息を吐いてほほ笑んだ。
そして、この部屋に入って初めてお茶に手を付けた。
「負けました」
「へ?」
何の脈絡のない言葉に気の抜けた声を挙げてしまうが、ドラはそれすら笑い飛ばす勢いで笑みを浮かべた。
「負けたといったのです。あの手紙をみてどんな話をもってくるかと思えば……。いいでしょう。あなたの案が実現すれば、穏健派は多大な力をもつことになります。殿下だけでなく陛下の覚えもよくなるでしょう」
「賛同していただけるのですね! それで、ぜひドラ様にお願いしたいことがあるのです」
「お願いですか。まあ、お手伝いをさせていただけるのであればやぶさかではありません。資金援助や人員援助など惜しみませんよ」
その申し出を聞いてカトリーナは思わず訝し気な表情を浮かべた。
そして、ドラはその表情をみて同じように眉をひそめた。
「あら。不服ですか? それ以上のものを要求しようと?」
「え? あ! そういうわけではないんです! 私、ドラ様にはお穏健派の貴族の指揮をとって頂きこうと思っていて」
「はい?」
今度こそ、しっかりと顔を歪めたドラの表情に怯むも、カトリーナはそのまま言葉をつづけた。
「もちろん、爵位では公爵家のほうが上なのはわかっていますよ? ですが、新参者で元子爵家の私の力では誰もついてきてくれはしません。ですから、私ではできないそこをぜひドラ様にやっていただきたいのです。人員は今、調整しておりますし、資金面も身銭を切らなくてもいい方法があるんです。どうでしょうか? もちろん、言い出しっぺのラフォン家は全力でサポートしたいと思っていますが、ぜひカンパーニュ家を筆頭としてやらせてもらえたらと」
カトリーナの言葉を受け、ドラはしばらく黙り込んだ。
そして、片手で頭を抱えると、絞り出すように問いかけた。
「……それは、手柄をもカンパーニュ家に譲る、といっているのと何ら変わりがないのをわかって言っているのかしら?」
「ええ。もちろん。ですが、ドニ様は知っていてくださいますよね? 私も一緒に頑張っていたって。もしそうならば、私はそれだけでいいのです」
「カトリーナ様……」
ドラは俯いた。
何事かと思っていると、突然ドラは突然立ち上がる。
「カトリーナ様。申し訳ありませんでした」
そう言って、頭を下げ始めたドラ。
当然、カトリーナは慌ててそれを止めた。
「や、やめてください! どうしたのですか、ドラ様!」
「正直、私はこの話し合いであなたの鼻を折ることができればと思っておりました。その美しさにかこつけて子爵家から公爵家に成り上がり、いい気になっている馬鹿な方かと本気で思っておりました」
「え? いや、まあ、そう思われてもしょうがないのですが……」
「ですが、それが間違いでした。だから謝らせてちょうだい。本当に申し訳ありませんでした」
「ドラ様……」
カトリーナはそうやって頭を下げるドラに、やや相対を崩して声をかける。
「ならば、どうですか? ドラ様のご評価は。私、お眼鏡にかないまして?」
そういって、おどけるようにポーズをとるカトリーナ。ドラは場の空気をほぐそうとした彼女の空気を読んだのか、ふっと力を抜いてほほ笑んだ。
「もちろんです。満点ですよ。ですからカトリーナ様」
「はい」
「絶対に成功させましょう! カトリーナ様の妙案を早く形にしなくては」
「それって、まさか!」
「ええ。一緒に王都を盛り上げていきましょう!」
そういって二人は握手を交わす。
カトリーナは虚勢の仮面を剥がし、ドラは偏見という色眼鏡を下した。
そんな二人はようやく素直な笑みで交わったのだ。
「そうと決まれば! さぁ、カトリーナ様。さっそく私の書斎に行きますよ!」
そういって、ドラはカトリーナの腕をつかんで引っ張り上げた。
「い、いきなりどうしたのですか!? ドラ様!」
「いきなりでもなんでもいいのよ! さぁ、早くさっきの計画を形にしないとね!」
「今からですか!?」
「何言ってるのですか。悠長なことを言っている暇などありませんよ」
急にきさくな様子になったドラ。
もともとがこういった気風なのかもしれないとカトリーナは思いながら、ほっとしたように息を吐く。
「ドラ様が皆の支持を集めるのがなんとなくわかりました」
「そう? けど、まだまだ猫をかぶっていますからね。覚悟をしていなさい」
「はい、ドラ様」
二人は、そう言ってそのまま書斎にこもってしまう。
ダシャとカンパーニュ家の使用人達は、二人の熱中具合にため息をつきながら、苦労を分かち合うのだった。
そして、焦らすように味わうと、ゆっくりとカップを戻す。
「ドラ様。見世物などとそのような書き方はしていません。よくお読みください。『ドラ様には、ぜひ穏健派の代表として舞台に上がっていただきたい』と私は書いたつもりですが」
「伯爵夫人である私に、どのような舞台に上がれというのですが。もうすっかり薹も立っております。そのような女に人前に出ろとは恥をさらせと言っているようなものではないですか」
平静を装って入るが、ドラはやや怒っているようだ。それがカトリーナの勘違いだとしても、いい気分ではないのは間違いない。
カトリーナはどういえば伝わるのだろうかと考え込む。が、やはり自分の気持ちをまっすぐ伝えることが大事なのだと思い直し胸を張った。
「私はドラ様はとてもお美しいと思っております。が、今はそれは本題ではありません。その手紙の内容の補足として、私の考えを聞いてもらえますか?」
「それを聞くための今ですから。どうぞ。存分におしゃべり下さいな」
そういって、扇を広げ顔を前に持ってくるドラ。
淑女のやり取りで表情を隠すのは立派な戦略だ。ポーカーフェイスと言えど完璧ではない。それを美しく補うための術は堂に入ったものだった。
だが、カトリーナはあえてそのままだ。
自分の考えも、感情も、すべてをしっかりさらけ出そうと努めた。
「はい。ありがとうございます。まず言わせていただきたいのは、先日の夜会でのお礼です。あの時は貴重なご助言ありがとうございました。あの時、私は第二王子の謀略にはまり失態をおかしてしまいまいした。その重さと私自身の至らなさに気づかせてくれたのは、ドラ様のお言葉です」
「そうですか。それならばいいのです。あなたは、穏健派の筆頭となるべき方。しっかりとしていただかなくては」
表情は見えないが、声色はやや柔らかくなったのか。
ひとまずはいい調子だと、カトリーナは笑顔の下でほっと息を吐いた。
「それで考えたのです。私の失態を取り返し、穏健派の方々の、ひいては第一王子の助けになることはなんなのか。それで出た答えを、こちらでご披露させていただきたいと思っております」
「ええ。いい心がけだと思います」
「それでですね……端的に言いますと、私のやりたいこと。それは――」
――ミスコンです。
「み、すこん?」
聞きなれない言葉なのだろう。扇の隙間から見える目がやや見開かれており、困惑しているのが見て取れた。
「ええ。まあ、普通のミスコンではありませんけどね。私がやりたいことは、わかりやすくいうと品評会と称したお祭りのようなものでしょうか」
「品評会、ですか?」
「ええ。私がドラ様に出ていただきたいと思ったのは、美魔女コンテストです」
「ま、魔女ですって!?」
魔女という単語に思わず声を引きつらせたドラだったが、すぐさまカトリーナはフォローを入れる。
「あ、魔女といっても一般的な魔法使いのような存在ではありませんよ? 魔法を使っていなければ考えられないような美貌を兼ね備えている方のことをそう呼びたいと思ったのです。造語ですよ、ご安心くださいませ」
「……魔法を使わないと保てない、美貌?」
「ええ。ドラ様はお世辞抜きにとてもお美しいです。失礼ながら、その年齢では考えられないほどに。そんなドラ様の美しさをみた平民達はどうおもうでしょうか? この世の奇跡だと思うでしょうか? それとも神の御業だとも……」
「そ、それは大げさでしょう……」
「いえ! それほどの美しさをお持ちです! ドラ様は! しかし……ただその美しさを世に知らしめただけでは穏健派の力を高めることには至りません。ですから、そこでもう一つコンテストを行うのです」
「も、もう一つ?」
「ええ。ドラ様の美しさを支える化粧品の、ですよ」
そういった瞬間に、ドラの目にギラリと光が宿った。
「王都の化粧品を扱う商会に協力してもらい、どの化粧品をドラ様が使っているかを宣伝する。もちろんほかの参加者には他の商会が化粧品を提供します。もちろん、最も美しいのはドラ様だと思いますが、二位、三位の方にあこがれる平民もいるでしょう。ドラ様は、その美しさで平民達の心をつかみ、それにあこがれた平民達は化粧品を買いあさる。化粧品を扱う商会は売り上げを伸ばし、次のコンテストで勝てるようさらにいいものを作り出す。それを使ったドラ様達はより美しくなっていく……想像してみてください。ドラ様の美しさが平民の心をつかみ経済を動かしていくのです。これは、まぎれもない力ですよ」
「それはすばら……こほん。そうやってお世辞を言えば喜ぶなどと思ったら大間違いです」
ドラは一瞬おろしかけた扇で再び顔を覆うと、やや狼狽えながらつんと澄ました。
「そうですか。では、この話はやめたほうがよろしいので?」
「いいえ。続けなさい」
「そうですか。では続けさせていただきます」
カトリーナは、ドラの様子をみてにやりとほほ笑んだ。
「では続きですが……そんな楽しいコンテストをやっていると当然お腹も空きますよね? ならば何が必要でしょう?」
問いかけられたドラが、慌てた様子で口を開いた。
「も、もちろん飲食店じゃないかしら!? 腕利きの料理人を取り揃えて、豪華な食材を――」
「いいえ、ドラ様。それだと平民の方々は何も食べられませんよ。ですから、屋台を誘致するんです」
「屋台を……ですか?」
「そうですね……王都屋台グランプリとでも名付けましょうか……。各名店が、名もない店が、同じ広さで安い値段で料理を提供するんです。コンテストを見ながら人々はそれに舌鼓をうつ。当然、ここでもどれが一番だと思うか投票させてもいいかもしれません。そうすれば生まれます。人の流れが、お金の流れが、心の流れが……。私がやりたいのは、そんな、皆にとってよいものが生まれる流れを作りあげるお祭りをしたいのです。王都全体を揺るがすような、そんなお祭りを。そうすれば、穏健派の貴族は民衆の心を掴める。それは、きっと絶対的な力になります。殿下を後押しする、確かな力に」
カトリーナは一気に言い放つと、じっとドラの答えを待った。
ドラはいつの間にか扇を持つ手をおろしており、カトリーナはじっと見つめていた。すでに、お互いに表面を取り繕おうなどといった雰囲気ではなく、カトリーナもドラも感情をむき出しにして見つめあっている。
しばらくすると、ドラはふっと息を吐いてほほ笑んだ。
そして、この部屋に入って初めてお茶に手を付けた。
「負けました」
「へ?」
何の脈絡のない言葉に気の抜けた声を挙げてしまうが、ドラはそれすら笑い飛ばす勢いで笑みを浮かべた。
「負けたといったのです。あの手紙をみてどんな話をもってくるかと思えば……。いいでしょう。あなたの案が実現すれば、穏健派は多大な力をもつことになります。殿下だけでなく陛下の覚えもよくなるでしょう」
「賛同していただけるのですね! それで、ぜひドラ様にお願いしたいことがあるのです」
「お願いですか。まあ、お手伝いをさせていただけるのであればやぶさかではありません。資金援助や人員援助など惜しみませんよ」
その申し出を聞いてカトリーナは思わず訝し気な表情を浮かべた。
そして、ドラはその表情をみて同じように眉をひそめた。
「あら。不服ですか? それ以上のものを要求しようと?」
「え? あ! そういうわけではないんです! 私、ドラ様にはお穏健派の貴族の指揮をとって頂きこうと思っていて」
「はい?」
今度こそ、しっかりと顔を歪めたドラの表情に怯むも、カトリーナはそのまま言葉をつづけた。
「もちろん、爵位では公爵家のほうが上なのはわかっていますよ? ですが、新参者で元子爵家の私の力では誰もついてきてくれはしません。ですから、私ではできないそこをぜひドラ様にやっていただきたいのです。人員は今、調整しておりますし、資金面も身銭を切らなくてもいい方法があるんです。どうでしょうか? もちろん、言い出しっぺのラフォン家は全力でサポートしたいと思っていますが、ぜひカンパーニュ家を筆頭としてやらせてもらえたらと」
カトリーナの言葉を受け、ドラはしばらく黙り込んだ。
そして、片手で頭を抱えると、絞り出すように問いかけた。
「……それは、手柄をもカンパーニュ家に譲る、といっているのと何ら変わりがないのをわかって言っているのかしら?」
「ええ。もちろん。ですが、ドニ様は知っていてくださいますよね? 私も一緒に頑張っていたって。もしそうならば、私はそれだけでいいのです」
「カトリーナ様……」
ドラは俯いた。
何事かと思っていると、突然ドラは突然立ち上がる。
「カトリーナ様。申し訳ありませんでした」
そう言って、頭を下げ始めたドラ。
当然、カトリーナは慌ててそれを止めた。
「や、やめてください! どうしたのですか、ドラ様!」
「正直、私はこの話し合いであなたの鼻を折ることができればと思っておりました。その美しさにかこつけて子爵家から公爵家に成り上がり、いい気になっている馬鹿な方かと本気で思っておりました」
「え? いや、まあ、そう思われてもしょうがないのですが……」
「ですが、それが間違いでした。だから謝らせてちょうだい。本当に申し訳ありませんでした」
「ドラ様……」
カトリーナはそうやって頭を下げるドラに、やや相対を崩して声をかける。
「ならば、どうですか? ドラ様のご評価は。私、お眼鏡にかないまして?」
そういって、おどけるようにポーズをとるカトリーナ。ドラは場の空気をほぐそうとした彼女の空気を読んだのか、ふっと力を抜いてほほ笑んだ。
「もちろんです。満点ですよ。ですからカトリーナ様」
「はい」
「絶対に成功させましょう! カトリーナ様の妙案を早く形にしなくては」
「それって、まさか!」
「ええ。一緒に王都を盛り上げていきましょう!」
そういって二人は握手を交わす。
カトリーナは虚勢の仮面を剥がし、ドラは偏見という色眼鏡を下した。
そんな二人はようやく素直な笑みで交わったのだ。
「そうと決まれば! さぁ、カトリーナ様。さっそく私の書斎に行きますよ!」
そういって、ドラはカトリーナの腕をつかんで引っ張り上げた。
「い、いきなりどうしたのですか!? ドラ様!」
「いきなりでもなんでもいいのよ! さぁ、早くさっきの計画を形にしないとね!」
「今からですか!?」
「何言ってるのですか。悠長なことを言っている暇などありませんよ」
急にきさくな様子になったドラ。
もともとがこういった気風なのかもしれないとカトリーナは思いながら、ほっとしたように息を吐く。
「ドラ様が皆の支持を集めるのがなんとなくわかりました」
「そう? けど、まだまだ猫をかぶっていますからね。覚悟をしていなさい」
「はい、ドラ様」
二人は、そう言ってそのまま書斎にこもってしまう。
ダシャとカンパーニュ家の使用人達は、二人の熱中具合にため息をつきながら、苦労を分かち合うのだった。
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