憧れの世界でもう一度

五味

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1章 懐かしく新しい世界

戦闘、それとも訓練

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さて、丸兎のドロップはなんだったろうか、オユキはそんなことを考える。
しかし、オユキが丸兎を相手取ったのは、それこそ半世紀以上も前。思い入れのあるゲームであれば思い出せるだろうかと、そう考えながら、記憶をたどるが、やはりオユキはそれにたどり着けなかった。

「これは、少し狩り方を考えないといけないでしょうか。」

言いながら、トモエが地面に落ちていた、小さな魔石と、いくらかの硬貨、それと肉を拾い上げる。
ゲームの時代から変わってはいないが、現実となった今では、魔物が金銭を直接落とすという事に、オユキも首をひねってしまう。
何か、それを良しとする設定があったはずだが、それよりも、生肉が地面に転がることのほうが問題か、オユキもそう思考を切り替える。

「とはいっても、流石に何か敷物をして、そこにおびき寄せしとめるというのも、現実的ではありませんからね。」
「とすると、これは食用ではなく?」
「いえ、食用だったはずですよ。」

オユキはそう応えて、トラノスケを見る。

「ああ、食用肉だな。元の世界に比べれば、衛生観念が低いように見えるかもしれないが、実のところそうでもない。魔法があるからな。
 狩猟者ギルドに持っていけば、担当の職員が、処理して、清潔にしてくれる。
 もちろん常温で放置すれば、腐りはするが、それでも元の世界より長く持つ。」

トラノスケの言葉に、オユキもトモエもそういうものかと頷く。
元の世界であれば、宙づりにして、それこそ食品だからと、地面に接しないように気を付けるものだが、流石は異世界。
ゲームの頃であれば、そういうものと納得はしたが、現実となった今では、相応の理由があるようだ。
あまり設定の確認に熱心ではなかった、そんなオユキだから知らなかっただけで、ゲームでもそうであった可能性もあるが。

「では、次は私が。」

そういって、オユキはあたりを見回し、丸兎を探す。
そんなオユキにトモエが声をかける。

「どうしますか。武器はこちらを使いますか?」

そういって、血と油を落とす為に地面に突き立てられたショートソードを指す。

「いえ、どのみちこの体格では、ナイフ以外は、それこそ長刀、槍等先端重量の重いもの以外は、取り回しが難しいでしょう。
 ひとまず、こちらでやってみますよ。危なければ、助けは求めますので。」

オユキはそう答え、視界の端に丸兎がいるのを見つけ、そちらに近づいていく。
随分と短くなった手足は、オユキが思うよりも移動に手間取らせる。
そして、接近するオユキに気が付いた丸兎が、警戒をするように動きを止め、普段は垂れて、その毛皮に埋もれるようにしている耳を立てている。

オユキは緊張で意味もなく体が固まらないようにと、意識をして、体を柔らかく動かす。
さて、相手は丸兎、元のゲームであれば、それこそ一刀のもとに処理できただろうが、今のこの体では、下手をすれば体当たりを受ければ、体勢を崩すだろう。
それは防御の未熟云々よりも、単純に体重の問題なのだ。
オユキは、自分から手を出すよりも、そう考えて、丸兎に無造作に近づく。
そんなオユキをみて、御しやすいと思ったわけでもないのだろう、丸兎、その名の通りの毛玉が、一度沈む様にして反動をつけ、オユキに向けてとびかかる。
その直線的な動きに、オユキは体をひねり、足を運びその線から体を外す。そしてすれ違いざまに手に持ったナイフを振るい、丸兎に切りつける。
その軌跡は、オユキが思うよりも早く、鋭いもので、通り過ぎた丸兎は地面にたどり着く前に、その体を煙のようなものへと変え、いくつかの物品が、勢いのまま地面へと投げ出される。

その結果を確認して、オユキはひとまず息をつく。
もっと貧弱化と思えば、戦闘時にはオユキの体は想像以上に鋭く動いた。
確認を行ったときは、方をゆっくりと行い、それ以外には歩き、走り、跳んだり跳ねたり程度しか行わなかったが、オユキの思うよりも、恵まれた体であったらしい。

そうして、落ちている肉塊といくらかの硬貨を拾い上げる。
残念ながら、魔石は落ちていなかった。トモエに倣って、ナイフの地と油を落とそうとは思うが、そこらに突き立てるわけにもいかず、オユキはナイフを抜身のまま持ち、トモエとトラノスケの側へと移動する。

「思いのほか、体が良く動きました。」
「ええ、お見事でした。」
「相変わらず、変わった動きだが、それは、向こうで習い覚えた物か。」

かけられるトラノスケの言葉にオユキは答える。

「はい。向こうで少々嗜みがありまして。今のは入り身と呼ばれる動作ですね。
 口で説明するのは難しいのですが、相手の動線から体を外しながら、接近する、そういった歩法です。」
「歩法か、言葉として聞いたことはあるが、その程度だな。」
「まぁ、わざわざ習わない限り、耳にすることはないでしょう。
 それに、習わずとも経験で合理性を突き詰めれば至るようなものでもある、私はそう聞いていますし。」

そういって、オユキはトモエをちらりと見る。

「そうですね、もともと誰かが考えた物ですので。そういうものでしょう。」
「そういうものか。よし、問題もなさそうだし、次に行くか。
 それと、血と油に関しては、今後布くらいは持ち歩くほうがいいな。
 どれ、今はこれを使うといい。」

そういうと、トラノスケは彼が背負っている袋から、布切れを取り出し、オユキとトモエに渡す。
二人は礼を言って受け取り、それでそれぞれの獲物をぬぐう。
初期装備としてついてきた、小さな腰掛の鞄には、流石にそういった物の用意はなかったのだ。
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