憧れの世界でもう一度

五味

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二章 新しくも懐かしい日々

開戦前

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狩猟者ギルドに入れば、やはり一段の讃える緊張感のせいだろうか、それとも昼を少し過ぎたくらい、かなり早い時間に戻ってきたせいだろうか。
ギルドの受付、見慣れた女性がすぐに声をかけて来る。

「あら、皆さん。どうされましたか。」
「ああ。ミリアム、アーサーからだ。イマノルは早ければ今夜とそういっていた。」
「そうですか。皆さんは、暫くこちらで待っていてくださいね。」
「その間に、納品でもしておくさ。
 いや、何人かで食事を買いに行っても大丈夫か。」
「そうですね、時間が時間ですし。食事から戻られてにしましょうか。」
「その方が助かるか。分かった、近場で済ませて来る。」

ミズキリの言うように、それぞれが納品を行い、ミズキリの案内に従い傭兵ギルド近くで、会話も少なく食事を済ませ、戻ってみれば、ギルドの中は慌ただしげな雰囲気に包まれていた。

「あら、お早いお戻りですね。」
「まぁ、な。」

ミリアムが早速気が付き、水きりに声をかけると、そのまま話を進める。

「それでは、ミズキリさん、ルーリエラさん、イリアさんの三名は二階、奥から二番目の会議室へ。
 残りの皆さんは、あちらの奥で少し話をさせていただきますね。」
「わかった。ひとまず今日はこれで。ひょっとすれば、またすぐに会うことになるが。」
「ええ、お疲れ様でした。」

ミズキリとオユキが軽く言葉を交わして、それぞれ言われた場所へと移動する。
さて、この雰囲気であれば、町は防衛体制、そういう事なのだろうが、一体どういった役目を与えられるのか、オユキはそんなことを考えながら、ミリアムに連れられ、並ぶそれぞれの受付とも違う一角へと案内される。
そう言えば、最初に変異種に出くわした時も、ここで話をしたな、そんなことを考えていると、ミリアムは早速とばかりに話を始める。

「アーサーさんからの書簡にも書いてありましたが、今夜から狩猟者ギルドは氾濫の対策を行うことになります。
 入会の時にもお話ししたかと思いますが、狩猟者の数少ない義務ですから、皆さんも協力をお願いしますね。」
「ええ、分かりました。具体的には、どのように。」
「今日のところは、皆さんには特にお願いすることはありません。
 実際に氾濫が起こったら、非常事態の鐘が鳴りますので、それが鳴ればギルドまでお越しいただきたいですが、まぁ寝ていて気が付かない方もいますからね。
 夜の戦闘はどうしても難易度が上がるので、初心者の方にはお願いしませんので、本番は明日の朝から、そう考えておいてください。
 なので、今日は装備の確認、それを徹底して行ってください。」

ミリアムはそういうと、それからこれを、そういって、いくつかの木札を机の上に置く。

「氾濫に参加する狩猟者の方へは、補助金が出ますので、こちらがその証明用の木札です。
 武器や薬の購入、その際にお店で見せてくださいね。」
「武器は、今使ってるのじゃ、駄目か。」
「ある程度、長期戦になりますから。予備がないと難しいですよ。
 馴染んでいない物が不安と、そういう事でしたら、なるべく馴染ませてください、そうとしか言えません。」

シグルドの問いに対して、ミリアムの答えはにべもない。

「その場合、荷物が多くなりそうですが、おいておけそうな場所は。」
「なるべくご自分でお持ちいただくことになりますが、皆さん、仮登録の方は門の側に配置されますので、門の内側に、守衛の方に指示を仰いでおいておくのもいいかと思います。」
「分かりました。予想では、どの程度の長さになるでしょうか。」
「長くても二日、そのあたりでしょうね。
 前回からあまり時間も立っていませんし、間引きも進んでいますから。」

その言葉に、オユキは思わず考える。
二日分、食事なども含めて考えれば、かなりの量になる。武器の予備もそうだし、手入れの道具、薬。
それに休憩なく、二日、それだけ体力が持つのかも。

「よほどの状況でもない限り、休憩もなしにという事にはなりませんから。」

そんな思考を見て取ったのか、ミリアムがそう告げる。

「三人は経験がないでしょうけど、シグルド君たちは、参加はせずとも、どのようなものかは知っていますよね。
 周期が短い以外は、それと変わりませんから。」
「分かりました。その、何か具体的に持っていたほうがいい、そういうものはありますか。」

オユキがそう尋ねれば、ミリアムは少し考えたうえで、応える。

「予備の武器が二つ、傷薬、包帯、軽食、水筒、そういった物でしょうか。
 どうしても長丁場になりますし、状況によっては交代まで時間が空くこともありますから。」
「成程。ありがとうございます。それでは準備をして、休んでおきますね。」
「はい、そのようにしていただけると。
 皆さんは、普段違うところでしたか。」
「私達とトラノスケは、同じ宿です。渡り鳥の雛、だったかと。」
「俺たちは、教会の孤児院だ。」
「分かりました、何かあれば、そちらに。
 あ、シグルド君、少し待ってくださいね。ロザリア様に手紙を書きますから。
 それと、狩猟者ギルドの判断よりも、教会として人出がいると言われたら、そちらに参加してください。」

言われて、シグルドは数度瞬きをして、問い返す。

「いいのか。」
「はい。教会の仕事も非常に重要ですからね。
 どうしたって怪我人は出ますから、その対応で人出はどうしても必要でしょうし。」
「分かった。それでいいならそうする。」

その返しに、オユキはおやと、そんなことを思ってしまうが、トラノスケやイリアの言葉が少年に大きな影響を与えたのだろう。これまでであれば、前線に、戦いの場に立つ、そう言い出すかとオユキは考えていたが。

「じゃ、必要なことをそれぞれするか。教会への連絡は任せたぞ。
 自分たちの準備以外にも、教会で必要な買い出しを頼まれるかもしれない。
 そのあたりは、ちゃんと分けるように気をつけてな。」

そう、トラノスケがシグルドの肩に手を置いて語り掛ければ、少年は途端に渋い顔をする。

「そっか。私たちの分と、教会の分は違うんだ。」

アナが言われて気が付いたと、そう呟くと、ミリアムが少し不安そうな顔で語り掛ける。

「えっと。狩猟者としての買い物だったら、そちらの木札を見せて話してもらっても構いませんが、教会の買い物のときには使わないでくださいね。
 予算の出所が違いますから、一緒にされると、その、後でお呼びして細かく聞かなきゃいけなくなりますから。」
「面倒だな。」
「ま、責任があるってのは、そういう事だ。
 こっちとおんなじだ。よくわかんなきゃ、教会の人について来てもらえばいいさ。」
「お使い位、出来るさ。」

そういうシグルド少年を、髪をかき混ぜるようにしながら、トラノスケが話す。

「お使いならな。これはお使いじゃないんだ。
 準備が足りなければ、直せたはずの怪我が、長引くかもしれない。
 それこそ、誰かが準備不足で死ぬかもしれない。
 命がかかってる仕事だ。だから、不安なら人を頼ればいい。誰だって、そんな簡単に人の命の責任なんて取れやしないからな。」
「分かった。聞いてみる。」
「そう、なんだよね。町が魔物に襲われるんだよね。」

トラノスケの言葉に、改めて添えを実感したのか、アドリアーナの表情が曇る。
トモエは軽く手を叩いて、注意を引きながら、声をかける。

「今日と同じですよ。時間があるなら、それを使って備える。
 そして、いざ事態が起こったのならば、出来ることをする。
 それ以上ができる人はいません。それ以上を求める人もいません。
 過剰な緊張は、しなくても大丈夫です。私達よりもはるかに詳しい方々、強い方がもう動いているんです。
 私たちは、私達のできることで手伝う。これはそういった話です。」

トモエの言葉に、少年たちが大きく頷くと、ひとまずその場は解散となり、それぞれがそれぞれの備えへと向かうことになった。
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