憧れの世界でもう一度

五味

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三章 新しい場所の、新しい物

小旅行

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「なぁ、本当にいいのか、俺たちまで一緒で。」

シグルドが出発前、借り物の荷馬車に荷物を載せながら、そう尋ねて来る。
ミズキリと共に、釣り具を狩った後、商人ギルドで武器のサンプルを見せてもらいはしたが、商人もトロフィーとして得られたものがあるなら、現地での交渉が一番納得いくものになるでしょう、そう二人理に進め、名物の魚メルルーサを運ぶ商隊が出るから、それについていけば安全だと、そういった話もされた。
ついでにトロフィーの運搬も頼めば、快く引き受けられ、出発の数日前に改めて打ち合わせをしようと、そんな話に落ち着いた。
それから数日、傭兵ギルドで訓練をしたり、魔物を狩りに出たりとしていたが、その際魚と蟹を狙っているという、そんな話をすると、イマノルから事前に訓練をせずに、それに合わせて野営の訓練を勧められ、今の形となった。

「流石に、私達二人では、野営も何もないですからね。」
「まぁ、そうですね、夜の番がありますから、それなりに人数がいなければ、お話になりませんし。」
「そっちがいいなら、こっちとしては嬉しいけど。」
「あなた方も、訓練を受けるわけですから、野営の厳しさをきちんと覚えてくださいね。」
「それは、ああ。頼む。にしても、護衛にこんな人数がいるのか。」

そういうシグルドがあたりに視線を回し、オユキもそれを真似ると、辺りには10を超える傭兵に、イリア、トラノスケ、ミズキリ、ルーリエラと、全員を含めれば20を超える一団となっていた。
それを示されたイマノルは、ただただ苦い顔をして、頬を掻く。

「やはり時期の物は食べたいと、それが人情でして。」
「食い物は、大事だよなぁ。」

イマノルの言葉にしみじみとシグルドが呟けば、耳が痛いとばかりに、数人が頭を掻く。
そして、追加でさらに2人が合流する。

「まったく。イリア、忘れものですよ。」

後から合流したカナリアの言葉にも、何処か気もそぞろにイリアが対応する。
この話を宿でしていると、たまたま飲みに立ち寄っていた彼女がすぐに飛びついた。
彼女は、殊更この魚が好きなようで、獲りに行くなら是非と名乗り出た。人数が多ければ持ち帰るものが多くなるからと、それは有無を言わせぬ勢いで。

「ああ、悪いね。さぁ、早く行こうか。」
「まったく。まだ皆さん準備中ですよ。手伝うくらいの殊勝さは見せなさいな。」
「いえ、私達の練習も兼ねていますから。お久しぶりです。その後お加減は如何でしょうか。」

イリアの首を捕らえて、抑えるカナリアにオユキが挨拶をすると、彼女も改めてオユキとトモエに向き合って、頭を下げながら礼を述べる。

「その節は、ありがとうございました。ご挨拶が遅くなり、申し訳ありません。
 はい、今はすっかり治っておりますよ。」
「それは良かった。今回は、ご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが。」
「いえ、こちらこそ。イリアはあの様ですから。」

そうして、お互いに頭を下げあいながらコミュニケーションを取っていると、それこそ以前を思い出しおかしくなる。

「えっと、これはこっちでよかったんだっけ。」
「水の入った樽は、手前じゃなかったか。というか、奥になんでからの箱を入れてんだ。」
「ああ、それはな、荷馬車がある場合は収集物は、一度まとめりゃ取り出さないからだ。
 奥にまとめておいておいても、不便がない。水の入った樽は、今回はそこでいいぞ。
 最悪水が出せるのは、何人もいるからな。」
「成程。教会でも、あまり使わない物は、奥に片づけるもんね。」
「ま、そのあたりは何処も変わらないだろ、後は貴重品なんかもだな。
 例外は、早く移動したい時くらいか。その時は重たいものを手前に入れる。いつでも捨てられるようにな。」

そうして、少年たちがあれこれと先輩に聞きながら作業する様子にも意識を払いつつ、時にはオユキとトモエも質問をして、どうにかたどたどしくも準備を終える。
そうして、一団で門を出ると、そこで改めてイマノルが行程の説明を始める。

「本来なら、ここから河沿いの村まで、二日もあればたどり着けますが、今回は訓練も兼ねているので、4日をかけます。帰りも同じ日数ですね。休憩と釣りを二日。合計十日の行程です。」
「分かりました。本来であれば、町を継いでいけば、夜は安全な道なのでしたか。」
「はい、そうですね。朝方に出れば、間にある町には日が沈んで少し、それこそ全力で移動をすれば、昼を過ぎるころにはたどり着けるでしょう。
 ただ、それでは野営の訓練になりませんから、一日野営、一日は町で、そういった計画ですね。」

それからイマノルは、簡単な地図を取り出すと、それを使って野営を行う場所などを示していく。
それを全員が把握したら、既に日が高くなりだす、そんな時間に出発をすることとなった。
道中は、先の氾濫などなかった、そうとでも言わんばかりに広々とした草原を、すがすがしい気持ちで皆で歩いていく。
ただ、その道中魔物はどうしても現れるもので、その対応は少年たちが主体となって行うこととなった。

「今のは、どうだった。」
「よかったですよ。ただ、少し間合いの測り方が甘いですね。
 剣の長さ、自分の振れる距離、それをしっかりと体で覚えましょう。
 新しくしたせいか、慣れていないのが出ていますよ。」
「ああ、やっぱりわかるもんか。なんか、物が無いからこれにしたけど、しっくりこないんだよな。」

そういって、少し離れて、シグルドが数回素振りをしてから、トモエにどうだと、そう尋ねるように視線を向ける。

「武器に合わせる、そういった事も必要ですよ。
 槍を剣と同じように振っても、意味がないですからね。」

そういって、トモエがシグルドに軽く手を添えて、姿勢を直す。
脚の開きを、僅かに広げさせて、持ち手の間隔を広げさせる。
そして数回振ると、シグルドは、ものすごく不思議そうな顔をする。

「ん、んん。いや、たいして変わってないのに、なんか動きやすいな。」
「それが武器に合わせるという事です。」
「いや、でも自分でできる気がしないぞ、こんな細かい事。」
「ならばできるようになるまで、体に叩き込むだけです。」

トモエがそう告げると、シグルドは顔を青くする。
そんな様子を見ながら、少し離れた場所では、剣からトモエの勧めで六角棒に武器を変えたパウが丸兎を蹴散らし、アナも手にした槍で、丸兎を貫いている。

「なかなか、呑み込みの早い子たちですね。」
「師が良いのもあると思いますよ。私では、構えの違和感など、他人のそれを見て、すぐには直せませんから。
 ああ、それとパウ君、なるべく下に向けて討伐しましょう。出ないと収集品のために、隊列を乱すことになります。」

オユキと話しながらも、イマノルがパウに声をかける。彼は頷くと、すまないと声を出して、手早く弾き飛ばした丸兎の変化したものを拾いに動く。

「アナさんも、鋭さは十分ですね。ただ、捻りが甘いような気もします。後でトモエさんに見てもらってくださいね。」
「そうなんだ。でも、なんで真っ直ぐ突くのに、手首を回すの。」
「その方が穂先が安定して、狙った場所を突き通しやすくなります。
 もちろん、私の持っているもののように、刃がついていたりすれば、理合いも変わりますが、直槍の場合はそのほうが良いかと。」
「へー。トモエさん、私もお願いできますか。」

トモエに駆け寄るアナを見送ると、今度はセシリアとアドリアーナが魔物と戦うために先頭に位置する。
周囲の護衛をしている面々も、その姿をほほえましく見守りながらも、たまに襲い掛かってくる魔物たちを次々と切り伏せている。
その中でも数人は、興味深げにトモエが少年たちにそれぞれ説明を行うのを聞いていたりもするが。

「それにしても、トモエさんにしろオユキさんにしろ、幅が広いですね。」
「剣と槍、棒術だけですよ。弓ともなれば、まともに引けるかもわかりませんから。」
「三種類はだけじゃないんですけどね。」

移動はあくまで移動。町の外に出れば当たり前に行う事でもあるから、せいぜいが荷馬車との位置関係をたまに指摘されるくらいで、のんびりと一団は進んでいった。
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