憧れの世界でもう一度

五味

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三章 新しい場所の、新しい物

少年たちのいない間に

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「で、話を戻して、森の事だ。」

カナリアはイリアに抱き着いて泣き始め、クララは傍目で見ても分かるほどに頭を悩ませている。
そんな、なかなか酔っ払いが集まる席らしい状況になってきた食卓で、変わらぬ様子でアベルが切り出す。

「訓練する、死者を減らすつったって、簡単な事じゃない。」
「そうだ。人も金も道具も、何もかもが必要となる故な。」

アベルの言葉に、ブルーノはそう頷く。
その様子にミズキリも、横から口をはさむ。

「で、訓練にしても、騎士としてのっていう事なら学校でやってる。
 それから逸れた、狩猟者に求められるのは、当然また毛色が違うわな。」
「ああ、騎士は何処まで行っても、町、人の住む施設を守るのが仕事だ。
 魔物に対処するのは、あくまでその中の一つだからな。加えて、そういった前提があるから、そもそも危険地帯で戦う事なんぞ想定しない。」
「傭兵としては、どうなのでしょう。護衛として、そういった場所へ赴かれることもあるかと思いますが。」
「そういう時は、狩猟者を雇う。案内と、周辺警戒だな。
 で、不利な状況に関しては、それこそ力づくでねじ伏せる。
 褒められた事じゃないが、守らなきゃいけないのは依頼主とその荷物だ。周囲の環境じゃない。」
「それこそ、行き過ぎれば神々のとがめもあろう。それがない以上は、その判断はすべて正しい。」
「まぁ、な。ただ、狩猟者や採取者は、その場にあるものを取ってこなきゃならん。全部慣らして、平らにする、それが認められる立場でもないだろうさ。
 で、そうなると、森の中でどう動くかだが、まぁ、慣れろ、そうとしか言えないよな。」
「まずは限定された環境だけで、構わないんじゃないのか。
 何も人里離れた場所に、いきなり放り込むこともないだろう。
 初心者なら、まずは安全な場所で狩ればいい。森だって、何も奥まで入らなくても恵はある。」

ミズキリがそういってルーリエラを見れば、彼女も頷く。
それを受けて、ミズキリが疑問を口にする。

「そもそも、何だって森に入らなきゃいけない。」
「ふむ。言われてみれば、そのような道理はないな。ミリアムは、何か思い当たるかね。」
「人里を離れれば、魔物が強くなりますから。力をつければ徐々に、転じて力の証明と、そうなってしまったのでしょうか。」
「つまり、理由はないってことか。なら、それこそ段階を追うようにすればいい。
 これは、ギルドの努力なんだろうが、毎日丸兎でも2匹狩れば問題なく狩猟者として生きていける。
 それこそ、護衛や教官としてついていく人間なら、そんなもの片手間以下だ。」

その言葉に、ブルーノが唸り声を上げる。

「勿論、場所によっては出る魔物も変わるだろうが、厄介さにしても、グレイハウンド程度が上限だろ。」
「国内に限っては、そうでああるな。人里の周辺で、グレイハウンド以上が出ることはない。
 だが、被害を最も出しているのもグレイハウンドである。程度などとはとても言えまい。」
「いや、それは狩猟者になりたい奴を甘やかしすぎだ。グレイハウンド程度だ。」

ミズキリはそう言い切る。
こちらに来て早々、怪我をしそうになったオユキとしても耳が痛い言葉だ。

「ずぶの素人でも、剣振ってそれが当たれば、片が付く、それを程度と言わずになんて言う。
 半年も魔物を狩ってれば、あいつらの爪と牙にしたって、素肌でも通らないんだぞ。」
「ミズキリ、私もこちらに来たその日に、怪我をしていますから。」
「オユキのそれは、まぁ、特殊な例だからなぁ。」

オユキが口を挟めば、ミズキリは渋い顔をする。
そして、視線をトモエに一度向けるが、彼の考えも分かるのだろう、それにトモエが苦笑いをしながら、オユキに代わって言葉を返す。

「私達の場合、あまりに見た目が違いますからね。
 どうしても、慣れたように動いてしまいますし、髪を踏んで足を取られなければ、オユキさんでも無傷で切り抜けたでしょうね。」
「どうでしょうか。やはり今でもずれはありますから。お互いにでしょうけれど。」
「あなた達の元の技量が気になるわね。」
「今、そのように動けないのであれば、無いも同じですよ。
 最低限は、動けていると思いますが、確かめながらでもあるのは事実ですが。」
「最低限で剣を切られちゃたまらないわ。あら、本当、案外行けるわね。」

話しながらも、なんだかんだと食事の手は進んでいるもので、異邦人組以外も、山ワサビと魚醤で蟹を食べ始めている。
適量であれば、僅かにある魚介特有の臭みを消して、より旨味に集中できるその食べ方は、なかなか好評を得ているようだ。

「まぁ、何にせよだ。グレイハウンドが町の外にいる場所なら、騎士が巡回してるだろ。
 それに、傭兵だって、慣れた狩猟者も数がいるはずだ。新人が2、3匹に絡まれたところで、物の数でもないだろうに。
 それで死ぬってのなら、そいつは迂闊すぎる。巧妙にはやって、それこそ死地に突っ込んだんだろうさ。」
「至極もっともであるな。」

そういって、蟹を加えた後に、ジョッキから酒を流し込んだミズキリは続ける。

「ただ、まぁなんにせよ、テストケースは欲しいよなぁ。」
「あのガキどもでいいんじゃないか。そもそも話の流れも、あいつらを連れ出す連れ出さないだろ。」
「いや、誰も彼もトモエと同じだけ教えられると思うなよ。」
「それはそうだが、うちの方法で仕込むか。」
「団長。恐らく狩猟者になるのを止めますよ。」
「根性が足りん、そんなことを言えばより厳しくすればいい。
 そのうち文句を言う元気もなくなるぞ。」
「だから、そっちの訓練希望者居ないんじゃないか。」
「いや、厳しさで言えば、トモエも大して変わらんぞ。」
「あの、トモエは無意味に殴らないし、模造刀もって追いかけまわしたりしないわよ。」

あーだこーだと、思い思いに話すその姿を見ながら、オユキは少年たちの今後について考える。
技を教える、その約束はトモエとの間にあるが、さて、あちらこちらに連れ回すとなれば、どうであろうか。
間違いなく、シグルドはついてくると、そういうだろうが。
ちらりとオユキがトモエを見れば、目が合う。

「まぁ、あの子たちに確認してみましょうか、ロザリア様にも。」
「ついてくると、そういうと思いますよ。」
「いつまでかはわかりませんが、少なくとも独り立ちできるまでは、ですね。
 私たちの旅行にまでは、流石に突き合わせるのは悪いですから。」

そして、少年たちのいない間に、今後の予定がそっと決まる。
領都までについては本人たちの意思を尊重するが、初心者を鍛える、そのテストケースとなる事だけは決まった。
ただ、一組だけというわけにもいかないと、そうブルーノが口にし、ミリアムがそれについて案をまとめる。

「町の中でも、家業を継げず、それでも手伝っている子もいますし、なりたいとそう考えている子もいるでしょう。代官様にも話をもっていって、告知していただきましょう。
 えっと、丸兎なら、模造刀でも問題ないんでしたか。」
「ああ。どうせ一匹以上は相手させないしな。そうだな、今手の空いてるので、こっちは5人、付けられる。」
「俺もみよう、6人いれば、半分に分けても5人づつくらいなら見れるか。」
「だな。後は、まぁ遠出するときや、森の側に行くときはその都度こっちで話せばいい。
 ミリアム、悪いが話し合いの時に、記録できる人間を出してくれ。」
「勿論です。では、ひとまず10人で、構いませんか。」
「ルー。いいか。」
「勿論ですよ。」
「アタシも引き受けるさ。魚が河に来ている間は、この町の周りを離れる気もないからね。」
「それでは、15名で、見ましょうか。ああ、他の方も、適宜手伝ってくださいね。
 一度にたくさん人を集めてしまうのも、今度は管理の面で、難しくなりますから。」

そして、一つの新しい方針が決まって、方々でまた歓声が上がり、ジョッキを干す姿が増える。
そんな人々を見ながら、良い世界だとオユキは改めて思いながら、隣に座るトモエに尋ねてみる。

「ところで、私も飲んでもいいですか。」
「もう少し大きくなってからにしましょう。」

笑顔で答えるトモエは、断固としてその願いを許さない構えだった。
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