憧れの世界でもう一度

五味

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7章 ダンジョンアタック

果物とお酒

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すっかり馴染んだ狩猟者ギルドで、果物の類も台の上に乗せて受付で早速とばかりに質問をする。

「森で果実の類も採って来たのですが。」
「ああ。どうしますか。うちで処理してもいいですし、採取者ギルドに持ち込んで頂いてもいいですし。」
「おや、どちらでもいいのですか。」

どうにも、融通が利くようだと、そう思いはしたが実態は違うらしい。

「食べられるかどうか、その鑑定は簡単ですからね。薬に使うようなものになると、うちでは手に余るので採取者ギルドにお願いしますけど。」
「そう言う区分ですか。」
「それと、採取者ギルドの方が税率が低いので。」
「へー。でも、向こうで登録とかいるんだろ。」
「いえ、狩猟者、傭兵の方がちょっとついでにという事も多いですからね。その辺りは融通が利きますよ。」
「今回は、どうしたいですか。」
「面倒だし、良いんじゃね。えっと、どういう扱いになるんだっけ。」
「魔物の収集品ではないので、義務はないですからね。持ち帰って頂いてもいいですけど、鑑定だけはしますよ。それとその手数料分は頂きますから。納めていただく場合は、魔物の素材と同じです。税率も。
 採取者ギルドの方は、15%なので、かなり低くなりますよ。」

少年たちはその説明をふんふんと頷きながら聞いているが、オユキとしてはどうにもそちらの理屈が少々気になるので、詳しく尋ねる。

「随分と変わりますね。」
「ええ。向こうは主な用途が薬なので。」
「ああ。高くは出来ませんか。分けたりは。」
「その、手間を嫌がる方も多いので。」

全て手動、持ち込んでくるのも個人。そうであるなら確かにこういった場所では一律とそうしてしまうのが手っ取り早いのだろう。後はそこに集まった物を使って商売を行うものたちに任せればいい事ではあるのだし。
そうなると商人ギルド、そちらは実に日々煩雑な処理を行っていそうだ。オユキ達の普段の活動圏に存在しないが、案外とダンジョン回り、それについて彼らが呼ばれていないのは、その流通に関わらないからかとも思っていたが、今頃メイの手伝いに揃って駆り出されているのかもしれない。

「分かりました。ではこちらで処理を。そうですね税率、その割合程度は納めますね。残りはこちらでも配って歩くことにしますから。」
「また、森に行ったときに集めて来てくださいね。やはり町の皆喜びますから。
 一週間もすれば、また同じ場所にはえているはずですので。」

収穫時期はあるというのに、そのあたりはゲームらしさが出ているらしい。
流石に町中で育てているものはそうではないと思いたいが。
そうして、他の魔物の素材などは全てギルドに任せ、トモエとオユキはキノコの一部、少年たちも肉やキノコの一部を取り分けて貰い、清算が終われば普段ならともかく、果物もあるからとまず教会に向かう。
そしてそこでトモエとオユキは揃って面食らう事になる。

「あ、まってまって。それはこっち。」
「オユキちゃん、ルブスで黄色いのはこっち。」

どうにも神々の好みというのはかなり細かいようで、アナとセシリアに言われるままにそれぞれの果物をそれを好む神の像の前にと並べていく。

「その、こうなると、何も置いていない神々に非礼とそのように見えてしまいますが。」

半分ほどの神像にはそれぞれ供えているのだが、そうなると供物台に何もないところが目立ってしまう。

「えっと、きちんとした時だと、ちゃんとお供えするよ。でも、こうして得た糧だけだったら、こんな感じかな。」
「周囲に好むものがあまりない神々は、なかなか大変そうですね。」
「大丈夫、きちんと商人さんにお願いして、持って来てもらえるから。」
「それもまた、大変そうですね。いえ、それが勤めとそうなるのでしょうが。」

説明を聞きながらも随分と煩雑ではあるが、実在する神、その奇跡を受けれる世界であれば、その程度の苦労喜んで買って出るものも多いのだろうなと、オユキはその労力に思いを馳せる。
すると、トモエはトモエで気になるようで、アナやセシリアに話を振っている。

「神々の好みとはどの様に。」
「えっと、巫女様が直接聞くことが多かったみたい。」
「ああ。」
「最近は、もうみんな分かってきてるから、あまりそういう事は言われないみたいだけど、最初の頃はそのたびに結構慌てたらしいよ。」

祭祀を行うため、その供え物があまり好きではないと、そう巫女が告げられでもすれば、それはもう結構どころでは無い騒ぎになっただろう。

「後は、好きな物って伝えられてるけど、まだ備えてない物とかもそれぞれの神殿で記録されてるみたい。」
「おや、そのような物が。」
「うん。誰も聞いたことが無い物だったりするみたいで。」
「あとは、聞き取れない物とか。その文字として存在するけど、私たちがそれを作ったら初めてそれって分かったりとか。」
「何というか、凄まじい物ですね。そうですね、例えばこれらを加工したりするとどうなるのでしょう。」
「うーん。どうなんだろう。果物はそのままが多いし。あ、でも領都で果物使ったお菓子ありましたね。」

それについては、オユキとしてもすっかり空いてしまったが、クララからもらった瓶がある。ホワイトリキュール、度数の高い蒸留酒があるのであれば、それこそラズベリーを漬け込めば、創造神が好きだとそう言った物が用意できもするのだが。
加えて、先の言葉にあったように、人が作らなければ、発明しなければ分からない物品もあるのであれば、なおの事お供え、神々から直接声を聞ける立場にある人間は大変そうだ。
何処か遠い町、そこでたまたま誰かが作った料理が神の目にでも止まったりすれば、それを探し当てるのは無理難題とそう言ってもいいものになるのだから。

「私じゃ、分からないです。その、ごめんなさい。」
「ああ、いえ。気になっただけですから。でも、素材のままが多いのですね。」
「はい。料理なんかは、やっぱり難しいですし。えっと、一つの果物だけで作ったりもしませんから。」
「ああ、それもそうですよね。」

色々な神々に分けて供えたそれらをひとまとめに使ったっ場合、さてどうなる。それもまた難しいのだろう。
そんな改めて感じる文化の違いを聞けば、教会を後にして、オユキ達は荷物を一度おいてから訓練をして一日を終える。
そして、夜には早々と話を聞きつけたらしいルーリエラが宿に現れたことも有り、おすそ分けをしながら今日のダンジョンについてあれこれと話を聞く。
ルーリエラにはなんだかんだと時間があるときはトモエとオユキも含めて、弓術を見てもらっているし、彼女の方から森の恵みを分けてもらうことも有ると、普段からミズキリと仲のいい相手として世話にもなっている。

「少し難易度を上げたのですか。」
「上がったというのが正しいな。やはり精製した魔石の方が、色々と効率がいいらしい。」
「魔術ギルドは、大変そうですね。」
「まぁ、元々の業務ではあるからな。それにしても悪いな。」
「いえ。構いませんよ。また取りに行けば手に入るものですから。ただ、その、食べ方がですね。」

実に嬉しそうに果物を口に運ぶルーリエラではあるが、音もたてずに種ごと齧り取るその姿だけは慣れない。
恐らくその視線をミズキリが勘違いしたのだろうと、オユキは言葉を重ねる。

「ああ。」

ミズキリも理解をしたようで首をかしげている。
木苺はともかく、桃の種はかなり固く大きいはずだが、彼女はそれを全く気にする素振りも見せずに、口に入れた種を吐き出すこともない。

「なぁ、ルー。それ、種どうなってるんだ。」
「ああ、その、口から他の食べ物の様に食べているように見えるかもしれませんが、実際には少し違いまして。
 丸ごと吸収しているので、種を噛んだりはしていないのですよ。その、見苦しかったらすみません。」
「いや、そんな事はないが、まぁ驚かないと言えば嘘になるな。」
「そういえば、セシリアさんが果実を見たら、ふらふらと手を伸ばしていましたが。」
「となると、あの子は果樹が祖かもしれませんね。どうしても祖からの実りは特別ですから。」

言われた言葉に、やはり種族的な物かと納得はするが、反面少し心配にもなる。半分は人であるそこに起因するものなのだが。

「毒などは大丈夫でしょうか。半分は人ですし、見目もそうですから。」
「毒となるものに食指は働かないので大丈夫ですよ。」
「ちなみに、我慢は。」
「問題ありません。やはり嗜好品ですから、私たちにとっても。」

なかなか便利な物だなと、そう感心したところで、オユキはミズキリとの話に戻る。

「中の変化は。」
「あまりだな。単純に魔物の数が増えていただけだ。それにしても母数が足りないからそうだと決めてかかれるものでもなくてな。」
「以前は、どのように。」
「そっちを含めても、傾向、程度だな。そしてそれに合わせれば、今回は魔物が強化されると踏んでいたんだがな。」
「神々の厳しさ、それが働いているのかもしれませんね。ちょっとしたことで劇的な変化は起こさないと。」
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