憧れの世界でもう一度

五味

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13章 千早振る神に臨むと謳いあげ

ゆるゆると

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「通常の加護も、問題なく発揮されていますね。快復にはやはりまだ遠そうですが。」

前夜、オユキにとってはカナリアからの現状よりも遥かに残酷な宣告が行われることもあったが。

「マナですか。完全に回復しているか分かる物なのですね。」
「特に、十全な状態を見たこともありますから。瞑想でも、続けていれば増えますから、そこから逆算すると、予定の少し前には、完全に回復したと言えそうですね。」

思い付き、その試しが上手く事を運んでいるようで、予定よりも直りが早いというのは、側にいる者達にとっても嬉しい事なのだろう。
氷菓の用意でカナリアには、本当に色々と面倒をかけている。

「お手数をかけますが、どうぞ完治まで。」
「勿論です。それに祭りが終わればまた、そう聞いていますから。」
「そればかりは、ええ。神から直接警告も得ていますので。」
「そこまでとなると、かなり稀なんですよね。アイリスさんの物も、降臨祭の本祭に続けてと聞いていますし。直ぐに休めるところの用意は必要になりそうです。」
「畏まりました。教会に頼んで、間違いなく用意していただきましょう。」

カナリアの提案には、一もにもなくシェリアが応える。

「私の方も、そちらに参加する手はずですし。どうか。」

そして、トモエも強く推す。
人以外、それについては明確に分かってはいないが、イリアも併せて獅子系統の血は入っている、そう断言は得られたのだ。こちらでの分類学がどうなっているか分かった物では無いが、ネコ目二種から同じ言葉が得られるというのなら、そう言うこともあるのだろう。
それが無かったとしても、主役から許可がある以上トモエはそちらに参加はするだろうが。

「私に心を置いて、等という事は無いでしょうが、それでも安全と分かる状況は確かにいる物でしょうね。叶うなら、アベルさんも本気でやるとのことでしたし、見学はと思いますが。」

戦いに臨むにあたって、オユキに心を残すことはトモエは無い。オユキもそれを望まないと、そう口にしたうえで希望もついて出る。
見世物とまで思っているわけでは無いが、見採り稽古として大いに得るものが有るのだろうから。

「どう、でしょうか。」

ただ、カナリアの返答は、鈍いものだ。

「先の様子を考えれば、立っていられない、それだけであればまだいいほうと、そう言わざるを得ない物かと。」
「そう言えば、意識を失ったりと、そう言った事が有るのでしたか。」
「はい。式次第についても、今司教様含めて相談させて頂いていますが、恐らく得られた時には。」

どうにかして騒ぎにしないようにオユキを運び出さなければと、それはそれは話し合いが難航しているらしい。一方のオユキは、その話し合いに参加する時間があるならと、通常の指揮の手順であったり、口上を覚える事に専念しているのだが。

「慣れもあるでしょうし、持祭でもあるアナさんに運び出してもらう事にはなりますが。」
「まぁ、確かに良く持ち上げられていましたが。」

役職を持っており、今回オユキの手伝いについてくれる少女達。その中の一人は確かに慣れてもいるだろう。今は、本格的に祭りに参加するためにと、かなり手酷く教会で絞られているらしいが。

「流石に、そこで粗雑な振る舞いは許されません。それこそ近衛の方が祭祀で隣に立てればよかったのですが。」
「残念ながら、今から位を求めるのも難しい事ですから。」

神事、それに参加できるのははっきりと決まっている。手伝いだけならともかく、神から認められた位、神職に纏わるそれを持っていなければ、祭祀への参加は出来ないと、そう断言された。
であるなら、アイリスの方も、そう思いはするのだが、その辺りが祖霊と神、その違いとなるのだろう。

「アイリスさんは。」
「この後、もう一度確認しますし、治癒の奇跡ももう数日はいるでしょうが、それが終われば回復とそう言ってもいいでしょうね。」
「その辺りが、マナに馴染んでいるか、その差異ですか。」
「はい。ただ、その分無理に捻出した結果としてアイリスさんは体に負荷がかかっているので。」

王都では、アイリスも含めて散々と神がに纏わる出来事に巻き込まれたのだ。思い返せば、護衛としての振る舞いを後半は避けてもいた。てっきり巫女として明言された空かとも思っていたが、それができない程度の負荷を感じていたという事でもあるのだろう。

「体に、ですか。」
「マナとマテリアルの関係ですね。以前にもお話ししたマナを保有する器官、その存在を示す一環として、過剰な行使をしようとした際に、肉体が損傷するんですよ。」
「その結果、死亡、ですか。」
「はい。先に意識を失う場合がほとんどですが、その前段階でもそれなりに。肉体への損傷の程度や、部位が人によって誤差というには違いすぎるので、それもまた困りものなんですが。」

そうして、カナリアがため息をつく。

「その、カナリアさんにはこうしてオユキさんの事を診て頂いたうえで。」
「いえいえ、この程度どうという事はありませんよ。流石に、魔術師である私と皆さんでは、そもそもマナの保有量が比べるのも難しいほど差が有りますから。」

マナの行使にそれほどの危険があるならと、トモエが申し訳なさそうに言い出せば、それにもまた実に軽いものが返ってくる。
カナリアにしても、オユキとアイリスの治療に加えて新しく得た魔術文字、空間を持つものを重ね合わせて内部を広げる魔術、その試しを行って貰ってもいる。
今は重ねるだけだが、今度はそれを魔道具となっている馬車の籠、それに対して行えるのか、そこまで単純な物では無いのなら、ではどうすればいいのか。そう言った研究にもかなりマナとやらを使っている事は間違いが無いのだから。

「そこまで、ですか。」
「翼人種の方々は、生来マナの扱いに長けてもいますから。」
「種族の中でも、私は特に多いほうでしたし、こうして魔術を好んだこともありますから。それこそ、今の私とオユキさんでは、手ですくえるだけの水と、あの新しい溜め池、それ以上の差が有りますよ。」

言われた言葉には、聞いている者達が揃って苦笑いをするしかない。

「シェリアさんは人にしては多いほうですけど、それでもオユキさんの数倍というところですし。」
「近衛として、最低限しか学んではいませんが、そこまで差が有りますか。これでも不都合までは感じない程度ではあると、そう言った自負もあったのですが。」
「種族差もありますから。人族の方は基本的に魔術師としては向いていませんね。本当に極稀に抜けた方もおられますが、あくまで種族の中で、その域を出る物では無いですし。」

物心がつく頃には当たり前にそれができる種族と、そうでは無い種族。愉快な差があると、纏めればそう言う事であるらしい。

「花精のタルヤさんは。」
「そもそも、大地から吸い上げてしまえばいいだけですし。」

以前、セシリアにしても、疲労困憊時に周囲の草をからすような真似をしていたのだ。自覚もあり、慣れもある存在であれば、より一層という事らしい。ただ、その話を聞けば、オユキとしても、トモエとしても思い当たる事が有る。以前、戯れとばかりに口に出した、それもあって直ぐに思いつくという物だ。

「だとすれば、いよいよ。」
「そうですね、氷、でしょうか雪に関わる何かかもしれませんね。」

それについて、心当たりはとカナリアに視線を向けるが、直ぐに首を振られる。

「それだけでは、範囲が広すぎるので。」
「そうですね、私たちの中にも雪に纏わる特性を持つものもいますし。ただ、花精の流れでは無いと、それはわかるのですけど。」
「だとすれば、花精だけは外せそうですね。」
「植物で、そう言った物が。」

トモエの知識にそのような植物は無い。

「はい、あまり種類は多くありませんが降り積もる雪の下でしか咲かない鼻であったり、周囲の水を凍らせて花弁を作る花であったり、百は無い程度には。」
「それは、是非とも見てみたいものですね。」

そうした話を聞くだけでも、観光を目標とするトモエとしては実に楽しみになるという物だ。

「ネヴァダフロールくらいでしたら、王都でも見ることは出来そうですが。」
「それは、どのような。」
「周囲の水を凍らせる花の一種です。水中で育て、花が咲くころになると、そのまま氷の花弁を作るのですが。種が出来ると、そこを核に氷が流れるさまが水の中を流れる吹雪のようで。」
「実に見ごたえがありそうですが、そうであるなら、大河もありますし、この周囲でも見る事が叶いそうなものと、そう思うのですが。」

そう言った生態であるなら、いよいよ下流にあたるこのあたりに迄、その生息域を広げていてもおかしくはなさそうだが。

「水深が浅く、流れの穏やかな場所でしか咲かないんですよね。成長条件と特性が一切かみ合っていない、面白い植物なんですよ。」

カナリアが端的にそう評するが、オユキとしてはそれこそ首をかしげる物だ。

「いえ、一般的に水量の増える下流の方が流れは緩やかになる物かと思いますが。岸辺は、それこそ向くでしょうし。」
「上流よりも、下流に向かうほど水中の流れは早くなりますから。それこそ岸にたどり着けない限り、まず咲けないでしょう。魔力も含む植物なので、魔物の餌にもなりますからね。」

どうやら、そう言う事であるらしい。
物理法則の差も気になりはするが、魔物のいない場、そこでしか咲けないというのに結界の外に出ていくような特性を持った植物であるらしい。
その辺りにも、オユキとしては大いに過去を感じる物である。
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