憧れの世界でもう一度

五味

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15章 這いよるもの

たまには招かれて

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あまり仰々しくならないようにという願いも、オユキとトモエから出していたのがあるのだろう。加えて、また神々から直接何かがあれば、アイリスが社に関わる事でどうこうできていないため、オユキに負担がかかりすぎる。そういった事情もくみ取って貰えているらしい。
案内された礼拝堂、並ぶ神像の前には既に戦と武技の神の前に置かれた供物台に、既に指輪が置かれていた。
後は、これまでに散々習った作法に則り、それを頂けば目的自体は終わりとなる。オユキとトモエがこうして教会の中に入ってしまえば、他の参拝者たちには一先ず遠慮を願うこともあり、実に静かな物だ。この後は、本来であれば、それこそ早々に引き返してとなるが、事前にすっかりと教会に住み込んでしまっているリオールからの言伝もあり、少女たちに招かれるままに数えるほどには訪れた応接間に招かれる。
持祭の少女達に行う教育というのも、どうにも忙しないものになっているようで、その原因となっている二人としては多少の申し訳なさを覚える物だが、本人たちがそれを望んでいる以上は見守るだけだ。教会でも過剰な負荷を気を付けてはいるようであるし、息抜きとして、たまに送られてくるのだから、その時に必要であれば手を出さないまでも助ければよいだろうと。
そして、そう言った事に最も習得の速さを見せるアドリアーナがあれこれと準備をして、セシリアが饗応役に。では、アナはと言えば、月と安息の巫女がこちらで暮らす間にと色々と仕込む為に早々に余所に連れて行かれた。

「アンは、なんだか妙に気に入られてて。」
「周りに教会もなく、年若い神職ともなれば、同じ神より位を頂くものとして何かと目をかける物でしょうから。」
「えっと、そういう物なんですか。」
「はい。生前は同じような老境を過ごしましたし、お気持ちは皆さんよりは分かると思いますよ。」

実際のところはまた他に思惑があるのだが、それにしても理解できている。そして、なんだかんだとこちらに来て恐らく最も顔を合わせている時間の長い相手は分かっていない。それくらいの差はある。
後に道を譲る、任せる。その経験の有無が今となってはさして見目が変わらないにしても、そこにしっかりと存在している。
一先ずそれを話題の切欠としながら、アドリアーナの用意した飲み物にセシリアが口を付けたので、オユキとトモエもそれに習う。見知った相手であり、そこに過剰な緊張はないが採点役が同席していることもあるので、そちらを気にするそぶりは見せている。勿論、その分は後でしっかりと減点対象として伝えられる物だろう。

「なんだか、ジークとパウが忙しそうにしてたから、オユキちゃんとトモエさんもかなって。」
「やはり、そこには差がありますから。」
「えっと、それは、経験とか。」
「いえ、使う物と使われる物、ですね。」

シグルドにしても、パウにしても今はメイを手伝うファルコ、その下に置かれている者達だ。当然、その二人が賄いきれない雑事というのは、まず任せたいと思う相手となっている。それこそ、オユキが早々にアベルとローレンツに投げたように。

「実際の事としては、いましばらくすれば、メイ様から説明があるでしょう。そう言った準備のために、シグルド君もパウ君も。私たちは、それを任せられる方が別にいますから。」

そういった役割分担は、この少年たちの中でも既に生まれている。

「そっか。私たちまでにならないように、二人で。」
「ええ、そう言う事ですよ。」
「あとで、お礼言わなきゃね。」
「良い心掛けかと。」

それがどうした所で当たり前となるのは、そもそもそうするために役割分担があるのだから、当然の事ではある。だが、そこでもやはり折に触れて、簡単であったとしても、気が付いた時にお礼を口にするというのは良い事だ。結局、誰かがやらなければならない事が多く有り、それにそれぞれが向かってどうにかという物でしかない。

「そっか、だからファルコ様もメイ様も、私たちに細かく。」
「身近の気安さもあると思いますよ。流石に公爵様ほどとなれば、皆さん感状という形にせざるを得ませんし。」
「そうですよね、私たち一人一人って言うのは、やっぱり。」
「どうした所で時間が足りませんから。」

頼む相手が増える。大きな事をしようと思えば、それだけの手がいる。結果として数百人で終わればまだいい、そんな人数一人一人にお礼を直接などと言えば、他に出来る事など無くなってしまう。

「ですので、本日神々の奇跡を得られた、それに対するお礼をカレンさんにお願いしますから。」
「正式な使者としますし、このお茶会の礼も含みますので、皆さんで受けてくださいね。」

話の向きがちょうどいい方向に流れたからと、オユキが簡単に少女たちに向けての少し重めの仕事を頼めば、トモエから補足が行われれる。今度ばかりは使命として、与えられた物を使って何かをせよと言われたわけでもない。こちらで一年近くを過ごして初めて得たトモエとオユキ、その振る舞いを認めての物だ。創造神からの物は、過去の二人に対しての物、加えて二人の会話を保証するために。戦と武技からは、それを身に着けた者達が鍛錬を行う、その意味を知らしめる要素が強かった。
高々手に持てるほどの貴重品を運んだ、その程度で当然与えられるはずもない。そんな事はこちらで暮らし、戦闘を常とする者達、その誰もが出来るのだから。

「えっと、カレンさんは今は。」
「家名を名乗ることは無くなりました、今後家督を継ぐ流れはあるでしょうし、新しくとするかもしれませんが。」

カレンは当主ではない。貴族としての号を持つ本人ではないため、それを持つ両親がはく奪されたなら、それが彼女に残る事は無い。未だ継いでいないのだから。
それが今浮いているのか、既に他となっているのかは分からない。ただ、オユキとトモエにアマリーアが押し込んだのだろうが、それをしたという事は復権を願われているという事でもある。少なくとも、公爵と直接やり取りを行えるあの人物が側におこうと、そうする程度には目をかけていたわけでもある。

「でも、セリー。巫女様からの使いだから。トモエさんも、戦と武技の神様に認められてる人だし。」
「えっと、でも、来るのはカレンさんだから。」

トモエとオユキ二人の立場が色々とややこしいこともあり、未だに通例を習っているだけであろう相手が混乱し始めたのを、トモエが軽く手を叩いてそれを止める。

「お二人とも、分からない事は聞けばいいだけですよ。それができるから、教えるのですから。」
「そっか。その助祭様。」
「今後の私たちの予定は、後にすることですよ。お客様を放って置いてする話ではありません。」
「あ、そうでした。えっと、ごめんなさい。」
「話を持ち出したのは、私たちですから。」

早速とばかりに採点役の助祭、なんだかんだとトモエとオユキにしてもこの教会に訪れる度に顔を合わせている相手が、苦笑いと共に窘める。勉強熱心なのは良い事ではある、そして頼まれた仕事をきちんとというその姿勢にしても。問題は、目の前に座っているのがいくら慣れているとはいえ、招かれた客人だという事だけだ。
ただ、その客人が始めた話だからと、そう言ったとりなしは当然として行うが。

「そう言えば、祈願祭までの日程も近づいていますが。」

話を続けてしまえば、同じことの繰り返しになるからと、トモエが他に話を移す。

「はい。私たちも準備に色々と。」
「立派な事です。その席で、オユキさんとも話しましたが、せっかく戦と武技の位も頂いています。皆さんが彼の神に申し上げたいことが、新たにしたい決意があるなら、お受けするのも良いかと。」

トモエの言葉に、少女二人が席から立ち上がり喝采を上げるが、それはすぐに押さえつけられる。見守っているだけ、それを過ぎるほどには、確かに。

「その、宜しいのですか。過日の奇跡もあります。オユキ様は。」
「今後は長い時間を移動に費やすだけですし、その道行にはカナリア様にも同行していただけますから。」

そう、結局その祭りが終われば、今度は領都まで、そこで多少表に出る事はあるだろうが、それにしても公爵が主導するし、領都には戦と武技の教会もある。そもそも受け取った奇跡は今は祀られぬ神、その奇跡でもある。
そこまで大々的な仕事もなく、ほとんどを馬車で、居住性が上がっていると、そう言った期待ばかりが募るその中での生活だ。王都についたところで、その先はまた数ヶ月の道のりが待っている。少々負担を得たところで、十分に休める期間があるため問題はない。

「ただ、やはり大々的に、ここで暮らす皆さまへとなると、私も流石に大変ですから。」
「祈願祭終わったら、直ぐに領都に向けて出るんですよね。」
「はい。どうした所で、私の方でもその準備に忙しく。」

その日程が近づけば、オユキはどうした所で決裁を行う為、こちらで縁を得た相手に暫く離れる事を告げて回り、こちらに残って受け入れを整える相手と調整を行いと忙しくなる。そこまでの時間は使えない。

「その、こちらでも色々とされているとは思うのですが、その際の作法をご教示いただくために。」
「えっと。」

そういった理由があるから、改めて神事としての事をリオールに習いたいと、そういった事を告げようとすれば、やはり二人では判断が難しく、迷ったように直ぐに今も少女二人の肩に手を置いて抑え込んでいる助祭に視線が向く。

「二人とも、まずは忙しい中、それでもと仰ってくださる巫女様に感謝を。」
「あ。」

なかなか迫力のある笑顔で助祭が告げれば、どこかそわそわと浮ついていた二人の動きも完全に一度固まる。それが終われば今度は頭を下げた上で、お礼とも謝罪ともつかないことを。

「私から、リオール様に巫女様からの正式な要請として、確かに。」
「お手数かけますが、よろしくお願いします。」
「日程は、そうですね、祈願祭、広く人々が神々に己の決意を新たにする、その時間の後に。」
「よろしくお願いしますね。」

早々に、それを行う予定も決まり。少女たちがまた喜びを表に出すのだが。

「戦と武技を始めとした、神々を確かに卸せる巫女様ですし。皆にも一度正式な物を身につけさせねばなりませんね。」

残念な事として、オユキを通して戦と武技にと望む相手には、顔見知りの相手ばかりとなるだろうが、色々と覚えるべきことが追加されることになるらしい。そして、助祭の表情を見る限り、それで合格を得られなければ、そうなるのだろう。
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