憧れの世界でもう一度

五味

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18章 魔国の下見

強かさ

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「戦と武技と言えば、こう。」

神々はやはり人の前に長く姿を現してとはならない。それが叶うなら、わざわざ分霊を神殿に置くこともない。勿論、対価を払えるものたちが、より力を身につければそれに応じてというものなのだろう。
それこそ想像すら難しい、いよいよ理外の事ではあるが世界の切り離しなどという大仕事が間近に迫っている相手でもある。そこで巻き起こる余波であったり、そもそも事を為すために蓄えるべきものであったり。今まさに神国で多くの人々が駆け回っている事と同様とまでは行かないが、似た事を神々とて行っているのだろう。
カナリア、世界樹のすぐそばに居を構え、かつてあった世界の記憶を持つ種族に伝えられる言葉を信じるのであれば、神として明確に線引きがされる場所というのは座の有無。しかし、ただ人にとってはその一部を許されている相手とて、区別のつくような存在ではない。何となれば、複数に跨る事で力を増す祖霊もいる。教会にある神像、明確な姿の映しを作って祀れるかどうか、精々違いはその辺りだろうと、少なくとも人がまだ理解できる範囲の違いはそれしかないだろうと、オユキからはそのように話を纏める。

「どうでしょう。戦に知略が無いかと言われれば、それこそ首をかしげますし。凡そ私どもの行う戦略や戦術というのは、まさにその字が示す物でしょうから。」

そして、明日にはこの宿場町を出て、魔国の王都に足を踏み入れる事になる。長々と話し込んでは、明日の予定にも障りがあるからと建前を作って、早々に与えられた部屋へと各々戻る事となった。
そして、いつものようにオユキとトモエは頭を並べているという訳だ。ここまでの道中、場を借りればそれが当然となっていたように、周囲から始まりの町ではようやく薄れていた気配を感じながら。

「それもそうですか。」
「何と言いますか、創造神様が例外と、そう言った印象を受けますね。」
「はい。あの方が唯一といっても良い例外と言いますか。以前にもお話しした入れ子構造と言いますか。」

戦と武技に月と安息、水と癒しにしても創造神を母と呼んだりする。だが、実際の成立という意味では順序が逆だ。

「そう、なりますか。」
「ええ。それもあって、接し方が多様なのでしょう。」
「さて、それを考えれば。」

そう、カナリアたちの世界が滅んだ要因、それが何処にあるのかという話になる。それこそ、カナリアだけではなく、かつての世界からこちらに流れてきた他の神々の世界の残滓というのも。水と癒しの神殿には、確かにあったのだ。

「癇癪というには、規模があまりにも。」
「流石に、何かしらはあったと思いますし、いくつかについては作った者達に由縁がありますから。」
「確か、何度か試しに作るのでしたか。」
「はい。私も忘れていたのだと、それを思い知らされましたがええ、相応の回数ですね。いくつかは残された物があったので今は記憶にありますが。」

そう、いくつかの世界、それが製品化される前に用意されていたと、それは想像が容易い事であった。しかし、実際に思い出してみれば企画段階でというものもあったというものだ。

「では、そこから流用を。」
「どう、なのでしょうか。正直その辺りはいくつか理屈の前提となる部分はありましたが。」
「カナリアさん達が居られて、水と癒しの神殿の周りにいない、それが私としては気になりましたが。」
「そちらはいよいよ水生生物でしょうし、私たちの生活圏と重なるかと言われれば。」

かつての世界からこちらに連れてきた種族。それを思えばというのも確かに理解できる。

「木精のいくらか、ルーリエラさんもそうですが。」
「ああ。成程。しかし、そうなると。」

では、今ここで何を話しているのかと言えば、やはり先の予定だ。始まりの町に戻れば、また何かある事は決まっており、それが正しいとはっきりと告げられたのだ。そして、相応の負荷をそこで与えるとも。軽減するには、勿論準備を行うしかない。こうして魔国に来る前に神国で門を設置することが叶ったように、得た情報から確からしいと、そう思えるものの全てに対して。全能とは程遠い為、まずは公算が高そうなものからであり、文字通り全てとはいかないのが何とも悲哀を誘うが。

「トモエさんとしては、何か違和感が。」
「はい。」

オユキの予想に対して、トモエの方で納得がいかぬとそのような様子であるため反応を伺えば、明確な言葉ではないがオユキの予測が奇妙だと。

「どう、言えば良いのでしょうか。木精となると木々と狩猟の神です。」
「はい。アイリスさんとイリアさんの流れがありますから。」
「そうですね。予定を前に、その要因として翼人であるカナリアさんの存在は間違いないと私も考えています。ですが、イリアさんは、本当にそうなのかと、それも考えてしまいまして。」

襲われて、どちらも命を落としただろう。それはオユキの考えだ。しかし、ここまでの間でトモエの方でこれまで納得していたことに疑問を得たと、そう言う事であるらしい。

「種族として、その来歴があり、運ぶ者の特徴は勿論お持ちでしょうから。それこそ、いざとなれば。」
「確かに、イリアさんだけという選択もあり得ますか。ですが、そこで負傷が軽度になる、別の厄介を抱えなくなる。その辺りは考慮の余地があるかと。」
「はい。そこはそうでしょうが。ですが、カナリアさんに比べてしまうと。」
「薄いと言えば、薄くはありますか。関連する事柄も、さしあたってカナリアさんの物ほどという訳でもありませんし。しかし、そうなるといよいよナザレア様の件が。」

トモエの推測として、初期に考えていたものとはまた違うと、そうなる事はオユキも理解しているし、納得もしている。ただ、樹木になる羊、それが排除されたわけでもないと考えている。だからこそ、森猫と言われたイリアの存在を思っていたこともある。面倒を見ていた相手の中には、木々と狩猟の神の覚えがめでたい持祭の少女、木精の血を引くとルーリエラに言われたセシリアがいる。都合よく糾合できるような配置にされてはいるのだ。

「オユキさんも、そちらに誘導をされている、そう考えてはおられるのでしょう。」
「ええ。まぁ、そうですね。しかし、使命として考えた時には誘導されるのが正しいのも事実ですし。」

そう。この世界の神々は、かつての世界の想念の影響を受けている。使命とは即ち達成すべき課題だ。ヒントは随所に存在しており、それに従ってというのが順当な最短経路というものだ。

「そうですね、私としてもようやく疑問が纏まってきました。」

そして、トモエからオユキに向けてこれまで脳裏にあり、違和感として残っていたものを。

「この世界を支えるもの、それが大樹であるわけです。そして、木々を確かに名に冠する神がいる。そして、各々がそのうちの一つを座として持つのだとか。」

トモエは、そうしてゆっくりと話しながらも己の思考を纏める。オユキも、ただトモエの話を聞きながらその先に有る言葉に既に予想がついたため、また自身でも思考を積み上げる。

「世界樹だけ別。確かにそう考える事も出来る訳ですが。」
「いえ、そうする理由もありません。」
「正直、気落ちされていた、その理由も考えました。そして、ご多忙の理由というのも、魔物だけと考えていたわけですが。」
「雄花がいない種族、そこですね。植物の増え方は、そればかりではないわけですから。」
「はい。」

トモエの思う木々と狩猟の神の気落ちの原因、それはあまりにも代償がその一柱に集中しているから。ただ、どうにもここ暫くの様子を見るに、そこまでの神国があったようにも見えない。神々の間で争いは無いと、そう断言されたこともある。無かったと言い切っていないあたり、気になる物でもあるのだが。
己が加護を多く与える種族に数を増やさせ、そこから世界に返し魂というものが循環できるだけの総量を増やす。司るはずの木々、その中でも宇宙観の根幹をなすものを大いに差し出して。そこまでが行われる程。かつての世界を滅ぼされた、異空と流離が己の力の大部分を代償に種族を守り流れてきたのだとしたら。では、木々と狩猟がそこまでして守らなければならなかったものは。
トモエは、どうした所でその辺りが腑に落ちない。
先ごろ目にしたときは、随分と明るくなっていた。食事のとり合いを楽しむ程度には、気力が快復したという事だろう。差し出したものと、トモエとオユキがこちらで僅かに果たし遂せた事、それを考えれば釣り合いが取れるはずもない。

「確かにとも思いますが。」
「オユキさんは世界樹はやはり別だと。」
「そう、ですね。中に入った事もあるわけですが、あれを樹木と呼ぶかと言われれば。」
「それほど、ですか。」
「インスタントダンジョン、ありましたよね。」

そう、オユキはかつて足を踏み入れた。世界の果て、その断崖に向けて飛び込んで。次は異なる大陸に向かおうと盛り上がる仲間たちが、船の建造に精を出している時間。重機などもないなかで、それなりに大型の船舶を作るというのはやはり大仕事だ。そもそも出向するための港と出来る拠点の構築からだったのだ。それには興が乗らぬからと、トモエに向けた話にするにも、常の仕事と変わらぬからと、一人で足を向けた先。

「内部は、そうなりますか。」
「世界樹の細胞核でしょうか、内部は星が瞬く宇宙、まさにそのような場でしたよ。」
「確かに、それを考えれば木々と狩猟の神の区分と考えるのも。」
「以前お伝えさせて頂いた折には、宇宙観を内包している表現ではないかと、トモエさんからはそのように。」

その時に、ではオユキからそれについてどういった言葉を交わしたかは残念ながら記憶にない。
かなり規模の大きなと言えばいいのか、象徴的な事柄であり早々忘れる訳もない出来事についての話であったというのに。そして、トモエがこうして疑問を覚え、それを明確にできない今があるように。
オユキも、トモエも。当然の如く色々と制限を受けているというものだ。舞台の裏側を知っていて、それを基に使命の大半を短絡することなど、当然認められるはずもない。

「ああ、成程。確かに、以前訪れたのならオユキさんは必ず私に話してくれていますよね。」
「はい。それこそ、内部をある程度気ままに歩いただろうとは思いますが。」

では、それをいつ止めたのか。何が原因で、他に向かったのか。その記憶は今のオユキにもない。

「だとすると、因果関係を言い始めると。」
「その、このような事になるとは私としても。」
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