憧れの世界でもう一度

五味

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23章 ようやく少し観光を

見送りの前に

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随分と急な事ではある。だというのに、少年たちはオユキからの誘いを断ることなく、場を教会でも構わないといった話もしたのだが、そちらは明日に向けての準備があるからとトモエとオユキの屋敷に足を運んでくれている。
明日は、いよいよ月と安息の神殿に向けて少年たちが出発するのだ。教会を使って、明日には公爵も参加したうえでメイが相応の場を設けるとは確かに聞いているし、トモエとオユキも当然参加する。

「つっても、流石に夜には帰るけど。」
「構いませんよ。皆さんも色々と、そうですねこの場に残る子たちから話をせがまれているでしょう。」

月と安息の神殿に、大々的に向かうのだ。当然、共に暮らす他の教会に残る子供たちから色々と話をせがまれている事ではあろう。

「まぁ、そうなんだよな。俺らとしちゃ言われたから行くだけなんだけど。」
「ね。トモエさんとオユキちゃんに頼まれて。」
「でも、皆気にするのは分かるかも。」

今となっては、少年たちにしても色々としがらみがある。今この場には、メイがいないのだが基本は彼女の下で今後も狩猟者として動くことにはなるのだろう。暫くの間は。
実態としては、今後望まれる形としてはそれこそファルコを筆頭として立ち上げるダンジョンに関わる組織、そこに初めて所属する狩猟者となる。それに関しては、オユキとしても一応公爵からきちんと形として書類をメイに頼んでいたりもする。こうして知己を得た相手だ、如何に周囲から色々と言われることになったとしても、やはり利益と言えばいいのか、今後この少年たちが進む道、それが豊かであり多くの人から祝福されるようにとそう務めるものだ。

「他の子たちは、そうですね当屋敷で色々としてくださっている子達も多いのですが。」
「あー、そいつらはいよいよ教会から出てるからな。」
「その、一応定期的に手伝いを頼むだけであった子たちもいるとは思うのですが。」

シグルドの言葉に、思わずオユキとしては首をかしげてしまう。
本来で有れば、というかアルノーとヴィルヘルミナが求めた者達以外は、日々働きに来てもらっているはずなのだ。だというのに、シグルドの言葉によれば何やらそうでは無いと、まるでそのような。

「あれ、オユキ知らないのか。あんちゃんには話した気がするけど。」
「その、トモエさん。」

シグルドから、トモエに話したとそう言われるのだがそこから先、オユキにまで話は回ってきていない。一体どのタイミングでそうした話があったのかと、オユキがトモエに向けて。

「いえ、今後ともよろしくと、そういった事を言われただけですので。」

しかし、トモエにしてもそもそも心当たりが無い。少年達からいよいよ引き取ってくれとそうした話をされたのであれば、トモエも間違いなくオユキに話すのだ。

「えっと、ジークなんて伝えたの。」
「いや、あいつらの事を今後も頼むって。」
「もう、それじゃ伝わらないわよ。」

これで少しはそうしたことに詳しい少女たちがいれば、まだ話が違ったのだろう。若しくは、今はすっかりと教会に住居を移しつつあるサキでもいたのなら。

「あの、トモエさん。それとオユキちゃんも。」
「一応、当家の家督を持っているのはオユキさんですから。」

少年達にしてみれば、トモエが主体であり、オユキがおまけ。それに関しては、オユキ自身理解があるものではあるのだが。アドリアーナがそうして話せば、この場に同席している公爵夫妻がこらえきれぬとばかりに笑い始める。そうされる理由も大いに分かる物だが、ここまでただ聞くに徹していたというのに。そうして、笑いを零すものがいれば、何やら間違ったのかと少年達にも動揺が僅かに。

「今度ばかりは、私達の方に問題がありましたね。」
「ええ。」

ただ、流石に明日から遠き地へと赴く少年たちに、恥とならぬように。

「あー、そうなのか。」
「ええ。シグルド君は、それで伝わると思ったわけですし、それが解らぬというのであればやはり私から尋ねるべきでした。」
「えっと、でもそれって。」
「そもそも言葉にしてもやはり伝わり切らない、そういった理解は私たちもありますから。」

実際に、それがどういった意味合いであったのか、文脈であったのか。そればかりはトモエにしか分かる物ではない。アナがシグルドの粗忽を咎めんとしてはいるのだが、トモエにしてもオユキにしても仕方が無い事だとそうした空気を見せているのだから彼女にしてもどこかそうでは無いと身構えている。まぁ、そういった手段を肯定する身としては、確かに互いの関係性の内で許される範囲であれば存分にとそう言うしかないのだが、今度ばかりは流石に。

「ええ。オユキさんの言うように、それで伝わらぬというのであれば私から尋ねるべきでしたからね。」

さて、少年たちの出立に不備がないように。
少なくともこの場は私的な場であるには違いない。少年たちにしても、随分と気楽な様子。それでよい場ではあるのだが、一部はすっかりと寛ぎきっている。今は夕食を待つ時間、しかし少年たちは食事は今日くらいは教会でとりたいからと、それまでの極短時間として。セシリアやアナはなんだかんだと降ろしているオユキの髪で遊んでいるし、シグルドにパウも、トモエの前で武器の手入などをしている。実にらしいと言えばいいのか、もう少しなにかあるだろうと思う物でもあるのだが、しかしそれが良いというのであればこれで良いのだろう。

「そう言えば、今回はローレンツのおっさんが護衛の統括って話だったけど。」
「その事か。」

しかし、ローレンツにはタルヤとの間に子供が生まれ、セグレ子爵家から奥方を迎えてなどという話も合ったりしたのだが、生憎とそちらも間に合っていない。あまりに準備期間が短くなったこともあるし、門の利用というのがなかなか厄介な手続きを踏む必要があるとか、無いとか。それこそ神殿の管轄であり齎したオユキであれば、既に利用したことがある者達であれば割と自由には使えるはずではあるのだが。今はとにかく隣国との行き来に専ら利用されているようで、門の周囲は実に物々しいと聞いている。
つまるところは、これまでアルゼオ公爵家が独占していた部分に配慮をしながらも、互いに必要な物品を行き来させるために。

「流石に奥方の移動も間に合わぬようであるからな。寧ろその方らが早くに移動をというのであれば、まぁ、都合が良いともいえる。」
「おー。」
「でも、その。」
「どうにも花精の子と言うのは、人とは大きく異なる育ち方をするようですから。どうにも、我らにしても知識の無い事で話を聞くにつけても戸惑ってしまうのですが。」

公爵夫人が、どこか不安げにするアナに向けて。彼女にしても、教会で暮らしている。要は、特に問題が無いというのならば両親が離れて何処かに、そんな事は起きない方がいいとそう考えての事らしいのだが。

「そう、ですね。既に相応に大きくなっていますから。」

どう言えばいいのだろうか。一体どうやって、何がどうなっているのか。赤子の成長をして、日毎に大きくなっているなどという事もあるのだが、タルヤとローレンツの子供に関してはそれが比喩では済まない状況だ。明らかに、どころでは無い。赤子が身に着けているのは今のところただの布、始めの頃はもう少し何かをとトモエも考えたのが今ではすっかりと口に出すことが無くなっている。人の尺度で見れば、明らかに数日で一年分は成長しているのだ。一体、本当にどういった理屈なのか。好奇の視線が乗るからだろう。既にタルヤはオユキの前に子供を連れ出すことを止めた。トモエからも、随分と厳しい視線を送られたりもしているのだが、それでもやはり抑えきれぬものが。

「えっと、そうなんですか。」
「そう言えば、皆さんも合ってはいないのでしたか。その、既にあの子も自分で立って歩いていますよ。」
「え。」

そう、屋敷内を自由に歩き回るなどという事も無いのだが、ただ庭園であったり屋敷の裏手に用意されている花壇、そうした場所でのんびりと日光浴をしている姿を見かけるようになった。

「言葉は悪いのですが、正直あまりにでたらめな成長に。」
「その、オユキちゃん。」
「そうですね、言葉が悪いと前置きをしたところで口にすべきでは無い事であったかもしれませんね。」

生命体として、あまりに不条理ではと。そこまで口に出さなかった己をオユキは自信で褒めて置き、己の考えとは全く違う言葉を。

「オユキの言いたいことも分かりますが、種族差ばかりは色々と難しいものですから。私も何度か獣の特徴を持つ子供というのを見た事がありますが、生まれた時と、少し成長してから。がらりと見た目が変わりますからね。」
「え。」
「うむ。そうだな。生れ落ちる時は、まさに獣の姿で生まれてくるのだが、少しすればまたこちらも人としての姿を得るのでな。」

オユキとしても、全く知らぬ話だ。一体全体何が起これば其処迄不思議な生態になるのだろうか。己の髪を好きにいじる少女たちの為されるがままにしつつも、ついつい遠い目をしてしまう。思い返してみれば、身体を構成するマナの割合がなどという話も確かにあった。この世界における法則、その辺りもこうした生き物として如何に成長するのかを聞けば何となく見えて来そうなものではあるのだが。

「えっと、オユキちゃん。」
「はい、どうかしましたか。」
「その、今解剖がどうとかって。」

思わず口から色々と漏れていたらしい。何処かひんやりとした視線が、公爵夫人とトモエからしっかりと寄せられている。そちらには声が届かなかったのだが、今セシリアが口にしたことで少し考え事に耽っていたオユキの頭の中、それを推察しているらしいのだが。

「いえ、解剖学的に、どういった仕組みなのだろうかそういった事を考えていただけです。」
「オユキさん、解剖学というのは間違いなくそれを行う学問だったように思いますが。」
「それをせずとも、外観から見るだけでも分かる事はありますから。と、言いますか。」

そもそも身近にいる相手、アイリスを例にとってみても狐の姿で生まれ、今は二足歩行という事らしいのだ。進化というにも生ぬるい劇的な変化がそこにあったらしいのだから。
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