憧れの世界でもう一度

五味

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37章 新年に向けて

デセールは

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デザートとは何か、其処には実に多くの議論が存在していることだろう。
オユキの記憶にあるだけでも、ティーブレイクに口に運ぶ物、それ以外にも間食や嗜好品としての物との差は、一体何なのか。では、食事の最期に口に運ぶ物、用意された最後の飲み物と共に食卓を彩る、最期だからこそ多くの余韻を、幕引きに相応しいものは何なのか。
目の前に用意された、氷菓ではない、火を通したものを改めて眺めながら。
桃のコンポート、レモンに加えてアーモンドのスライスをシロップと混ぜて焼いたものを異なる触感様に。凍土に関しては、果物のシロップにであるため問題はない。だが、そこにさらなる甘さを。だからこそ、コンポートにはきちんと酸味を足して。
よく熟れた桃には違いなく、白よりも薄い桃色が目にも鮮やかな一品は、オユキにとっても非常に食べやすく、嬉しい品でもある。
長く、確かに火は入れてあるには違いない。
だが、きちんと長期保存が根底にある調理法でもあるためオユキでも食べやすい。というよりも、トモエから見れば、はっきりと常よりも手が進むのが早い。
トモエの手が入っていることにも、気が付いているからなのだろうとトモエとしてもやはり嬉しく。

「王都での生活も、今度ばかりは長くなってきていますが」
「貴女達は、そうね」
「そう、なのですか。巫女の位を得ておられるわけですし」
「戦と武技の神殿ではありませんし、いえ、確かに求められているというのは理解が有りますが」

トモエの手が入っているのは、飾りつけとして他にも置かれている部分ではなく、まさに本体そのもの。
見ただけでわかる物かと、トモエとしては考えてしまう。オユキには、分かるのだろう。そこに込められている熱量の違いといえばいいのか、技術の違いとでも言えばいいのか。
アルノーが飾りとして選んでいるのは、他に葡萄であったり桃と一緒に似たレモンではなくレモンの皮を使った飾り切りであったりではある。最終的に、皿に盛りつけたのもアルノーではある。だからこそとでも言えばいいのか、他は目に入らぬというよりも、眼に入れる事をせずに自然とオユキは早々にトモエが用意したものばかりを口に運びながら。

「とにもかくにも、降臨祭ですね。門が、今運んでいる物がたどり着いたとして、いえ、既にたどり着いてはいますが」
「今回は、私たちのほうは少し難しいかしら。一応、私の部族から何人かは来るでしょうけど」
「ヴァレリア様に言う事ではありませんが」

そして、オユキからは改めてヴァレリアに対して。
筋違いな、とまではいわない。オユキに対して、ヴァレリアから陳情しなければならない事、言われていたことではあるのだろう。だが、それをあまりにも明確に嫌って断ったオユキとしても、当然釘を刺しておかねばならないことがある。

「くれぐれも、統制を」
「私に、それを望まれるのですか」
「ええ。最低限は、行って頂けますよう」

オユキに対して、オユキはヴァレリアからの申し入れを聞きもせずに、一応障りだけは聞いたうえで断ったというのに、それを求めるのかと言われる。
ただ、オユキとしてはやはりそれが当然だと考えてもいる。
そもそも、前提が違うのだ。ヴァレリアの考えるものと、オユキの考えるものでは。

「以前、私たちが魔国から戻る事となった原因、御身がこちらに来てまずは謝罪からとされた理由。それを、最早お忘れですか」
「それは」
「確かに、御身の境遇に対する同情、理解はあります。ですが、その上で求めると決めています」

武国の者たちの狼藉に、オユキは今もまだ思い出すだけでも苛立ちが募るのだから。
オユキにしても、国から、国家間で既に制裁が行われたという事実は理解している。神国全体でというよりも、この王都では、そうした狼藉を行う者たちに対して明確に軟禁という手段がとられており、その事実はこのヴァレリアからの訴えがあったと言う所からも理解はしている。
だが、そこで手を抜こうなどとは、トモエに対しての狼藉を未だに許す気になれないのだ、オユキは。

「ええ、こちらに来て、しばらくぶりという程もありませんが、巫女としての位が必要とされるというのであれば、私はそれを躊躇う気もありません。意識の改革等と言うものは時間をかけるか、劇的な事が無ければ無理なのです」

だからこそ、他の者たちがトモエに近づくという事実に苛立ちを覚えながらも、このヴァレリアが習う事を認めているのだから。

「互いに最低限としている物、その差があるのは理解しています。ですが、今回降臨祭において、私は彼の柱を武国の者たちの前で降ろす心算ではいます」
「あの、でしたら、私の願いも」
「結果として叶う、それは事実なのでしょうが、先にも述べたように求める方向性が異なります」

オユキは、はっきりと断言しなければならないのだろうかと、少し悩む。
一応、意見を求めるためにとエステールを視線で軽く探すのだが、何やらオユキがトモエの手による物でもあるからと珍しく他の者たちと同程度の速度で手を進めていたために、他の準備で離れている。
要は、この後に出す飲み物、その用意を行っている。

「それに、はっきりと申し上げて置くのですが」
「なにを、でしょうか」
「私が何かを行ったとして、ヴァレリア様に対価の支払いが可能とはとても思えないのですよね」

アイリスに関しては、互いに互いが。
それ以上の、それ以外の部分に関しては、アベルから明確な補填が行われるという約束がある。
実際に、王都に来てから色々とユニエス公爵家、アベル自身から、どちらの名目でも贈り物がファンタズマ子爵家になされている。
オユキとしては、過剰だろうなどと考えてはいたのだが、ユーフォリアが言うには僅かに足が出る程度。礼品の選定とは、斯く有るべしという範囲だったらしい。

「私から、というのは」
「武国の王家から、ヴァレリア様ではなく、その所属からというのでも構いませんが」
「私は、私自身は」
「ですから、私からヴァレリア様個人に対しての配慮というのは基本的に無いものと考えてください。今、トモエが御身に手ほどきをしているのも、あくまでユニエス公爵家からの依頼という形をとっています。当家で暮らしていただいているのも、一応は私自身の持つ役職もあって、こちらはアベルさんからの依頼という形をとっていますが」

実際の流れとでも言えばいいのだろうか、ヴァレリアがファンタズマ子爵家に逗留するにあたって発生する費用はまずはカレンとユーフォリアがまとめエステールの助言を受けた上でマリーア公爵家に。そして、マリーア公爵家から王家を経由して、隣国へと伝えられることになっている。
そうした流れにしても、オユキは勿論把握している物であるし、その中でヴァレリアに対して確認が行われないというのも理解している。
オユキが成程、巫女とはこのように扱われるものなのかと、そうしたことを考えだしてみれば。
勿論、カレンにエステールをはじめとしたこちらの世界の侍女たちはそれが当然だと言わんばかりに頷いて見せて。しかし、かつての世界からのユーフォリアとトモエからはそれはどうか等と言われて。
それこそ、セレスあたりに尋ねてみれば、オユキは生前もほとんど同じような事をしていただろうと散々に恨み言を言われるだろう。
役職としては近いのだが、職務として割り振られていることはユーフォリアとセレスのほうが近くはあるのだが、そちらはそちらでまた明確に違いがある。

「ええと、でしたら」
「アイリスさんはご理解いただけているようでしたから、そちらからまたご説明を頂いても」
「私も得意ではないと、そう話しているでしょう」

ただ、そのあたりの説明をオユキがするのもまた話が違うだろう。
そう、話してみれば、アイリスから。
そして、オユキが何を言いたいのか分からぬと首を傾げれば、トモエからはただ苦笑いと共に。

「オユキさん。ヴァレリア様の側に誰かを置くのだとしたら」
「神殿にてお勤めを行われていたのでしょうから、それは神殿の方なのでは」
「それにしても、必要な方も他に居られるでしょう。どうにも、教会も神殿も人では足りていないようですから。オユキさんも、領都で本教会と呼ばれている教会にしても祭りの際に」
「言われてみれば、その様な事もありましたね」

往々にして、オユキがこのような言い方をしている時は完全に記憶に残っていない、取るに足らないと認識していることだと理解しているトモエとしては、やはり苦笑い。
しかつめらしい顔をして頷いている様子で、他の者たちは思い出そうとしている、己の記憶と向き合っているように見えるらしいのだが、トモエにしてみればその様な事は一切ない。そうした振る舞いで、他の者たちが少しで記憶を呼び覚ます切欠になればと追加で説明するのを待っている表情でしかない。
覚える気も無ければ、思い出す心算も無いのだと、トモエとしてはよく理解しているからこそ。

「オユキさんは、例えばセラフィーナ様のような方をヴァレリア様が求めたとしたら」
「ああ。そうなると、確かに武国からお呼びする必要もありますか」
「ええ、本題は、どちらかといえば、そちらなのよ」
「アイリスさんは、その、アイリスさんとの方々の中に」
「私がこの降臨祭で、祖霊様に言われた者たちは国許から来るからこの子のとは別よ」

オユキが、実に気のない返答をしそうなものだから、トモエが変わって。
だからこそ、そこには不慣れが出る。

「今度のことで、武国からこちらに向かう者たちがいるらしいのよ。その中に、混ぜる事は出来ないかと、そういった話ね」
「それは、少し難しそうですね」

オユキの機嫌が、明確に悪くなる。その気配を、トモエは感じる。
だからこそ、一先ずトモエから断った上で、オユキが納得できるだろう部分というのを、アイリスに話すという形をとりながら、ヴァレリアに。そして、その先にいるだろうアベルへと。

「その方が、当家の屋敷でヴァレリア様の世話をしたとして、それが他の者たちが来る口実にならなければ」
「それは」
「それに関しては、アベルに任せればいいんじゃないかしら」
「アベル様に、現状そうした政治周りのことが出来るかは、正直な所」

オユキは、アベルの政治手腕に関しては非常に不安を覚えている。それを、トモエからアイリスに伝えるのだ。
実際には、アイリスからそうした部分をまずはマリーア公爵に諮ったうえで、そこから先に話をと言われていることをオユキは気が付きながら。
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