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08話 宮中伯の視察
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ゴーレムの出来が予想以上に良かったので、満足感と、ポーションの番人にこれだけの実力がいるかな、という疑問感を抱きながら屋敷に帰った。
部屋に戻る廊下を歩いているとき、アーク兄さんが前から現れた。
「ッフ、毎日毎日遊び歩くのは楽しくて仕方ないか?」
「遊び歩いてないですよ。今日は領民のために働いていました」
木の上で寝転がりながら、ゴーレムの実力を見学してことが脳裏をよぎった。
あ、あれは、遊びじゃない……よな?
「領民のため? 嘘をつくな。屋敷で居場所が無いから領民のもとに行っただけだろう。好感度を上げるのは楽しいか?」
「いえ、領民からの頼みを聞き入れていただけですよ。屋敷での生活は、特に何とも思っていません」
「口だけは達者だな。物は言い様だ」
「ハハハ、アーク兄さんこそ。その底知れない連想能力には驚かされましたよ。では、僕は疲れているので部屋に戻ります」
「おい、笑うな! この落ちこぼれが! まて! 止まれ!」
アーク兄さんの怒鳴り声が廊下に響く。
俺は無視して、自分の部屋に戻っていこうとすると、肩をつかまれた。
「……お前が俺を笑うなんてな、100年早いんだよ」
「バカにしたつもりは一切ないですよ。気に触ったのなら謝ります。すみません」
嘘だ。
半分バカにして、半分面白いジョークなのかと思って笑ってしまった。
「ケミスト、お前最近調子に乗ってるな。一度俺の魔法を防いだからって良い気になるなよ? あれは手加減してやったんだ」
体内に流れている魔力のほとんどが集中していたのだが……。
本当に手加減したのか?
「調子に乗っていないですよ。アーク兄さんのことは尊敬しています」
「ッチ。明日、宮中伯のジェラード卿が領地の視察という名目で、この屋敷に訪れる。無礼は許されないぞ」
アーク兄さんに肩を掴まれていたが、離してくれた。
ふと廊下の先を見ると、メアリーの姿があった。
なるほど、問題は起こしたくない、ということか。
「分かりました。では失礼します」
◇
早朝に目を覚ました俺は、ポーションを届けるため、アイテムバッグをかつぎ、屋敷の外へ出た。
日が少し出てきた朝の空気は美味しい。
ひんやりとしていて、新鮮で、爽やかな気分になる。
「えーと、確か要求されたポーションの量は100個だったか。改めて考えると、とんでもない量を要求されているな」
前日、ゴーレムを作っている間に効果を薄めたポーションを作った。
効果を1/10にしたため、1個のポーションから10個の薄めたポーションが作れた。
「お、あった」
広場の端にある箱を見つけ、ポーションを入れていく。
「よし、終わり。あとはゴーレムを出しておけばいいんだけど、説明も無しに設置するのは領民達が恐れそうだ。また後で来るとしよう」
……そういえば今日、宮中伯の……なんとか卿が領地の視察にやってくるんだったな。
そうなると、領地に来てゴーレムを設置するってのは難しいかもしれない。
ゴーレムのお披露目は、後日になりそうだ。
◇
煌びやかな装飾がされた馬車を走らせ、ジェラード卿は、アルヴァレズ家の領地へ向かっていた。
「各地にある領地をこうして一つずつ回らんければいけないとはな。まったく、面倒なものだ」
金髪に片眼鏡を右目にかけた男性は窓際に肘を置き、頬杖をつきながら愚痴をこぼした。
年の頃は30で整った顔立ちをしている。
この男性こそが、王都で異例の出世を果たしているジェラード卿であった。
「仕方ないですよ、お父様。これも立派な仕事ですから」
肩にかかるほどの長さの銀髪。
目の色が水色の小柄な少女は、ジェラード卿の一人娘──シルフィだ。
何処となく嬉しそうにしている。
「シルフィは随分と上機嫌だね。これから行くアルヴァレズ家の領地がそんなに楽しみなのかい?」
「そ、そんなことありません! ……いえ、少しは楽しみです。これから行く領地は、ほとんど未開拓の小さな領地だと聞きます。……実は自然豊かな場所に一度行ってみたいな、と思っていたのですよ」
「はぁ~、シルフィは可愛いなぁ。自分から行きたいって言ってるのに楽しみじゃないわけないだろう? それを何故隠すんだい?」
「心を見透かせれているようなのが嫌なんですよ! もうお父様は全然乙女心が分かっていませんね……」
「分かっていないわけないだろう? ママが僕にメロメロなのは、僕が乙女心を理解しているからに他ならないよ」
そう言った後に、ジェラード卿は「まぁ、僕もママにメロメロだけどね」と付け足した。
──何を隠そう。この男、ジェラード卿は嫁と娘を溺愛しているッ!
「私はそんなお父様に少し嫌悪感を抱いていますよ」
「ハハ、シルフィは嘘が下手だなぁ~。そんなところも可愛いけど」
「~~~ッ! ホントですからね!」
アルヴァレズ家の領地に訪れたジェラード卿は、広場の前の人だかりを見て、馬車を動かす従者に止めるように言った。
そしてジェラード卿は馬車から降りる。
「諸君、これは何の集まりかな?」
「き、貴族様! こ、これはですね……えーっと、ポーションを皆に配っています」
領民のリーダー格、サムが緊張しながら状況を伝えた。
ケミストから貰ったポーションを開拓者に配っていた。
「一つ見せてもらってもいいかい?」
「ど、どうぞ」
サムはビビりながら、ジェラード卿にポーションを手渡した。
ジェラード卿は、それを上にあげ、陽の光に照らし、小瓶を揺らした。
「ふむ……。少し薄く見えるが、ちゃんと効果があるようだ──良いポーションだ。諸君、せっかく盛り上がっていたところを中断してすまなかったね。続けてくれたまえ」
シルフィと話していたときとは違って、他者を相手にするジェラード卿の言葉には重みが感じられた。
馬車に戻り、屋敷へ向かうジェラード卿とシルフィ。
その道中でジェラード卿は呟く。
「領民は領地の宝だ。蔑ろにするのは愚者の行為。恐らく、あのポーションは領主が用意したものだろう」
「お父様、珍しく高評価ですね」
「ああ。あのポーションをあれだけ用意するには、多額の費用がかかる。少し領民に還元しすぎな気もするが、未開拓のこの領地では、あれぐらいしなければ領民は不満を漏らすだろう。実に良い判断だ。アンドレイ卿、油断ならない男かもしれんな」
「なるほど……」
ジェラード卿は見当違いな考えを口にした。
実際のところ、アンドレイ卿、もといケミストの父親は無能な領主なのだが、知らず知らずのところで評価が上がってしまっていた。
部屋に戻る廊下を歩いているとき、アーク兄さんが前から現れた。
「ッフ、毎日毎日遊び歩くのは楽しくて仕方ないか?」
「遊び歩いてないですよ。今日は領民のために働いていました」
木の上で寝転がりながら、ゴーレムの実力を見学してことが脳裏をよぎった。
あ、あれは、遊びじゃない……よな?
「領民のため? 嘘をつくな。屋敷で居場所が無いから領民のもとに行っただけだろう。好感度を上げるのは楽しいか?」
「いえ、領民からの頼みを聞き入れていただけですよ。屋敷での生活は、特に何とも思っていません」
「口だけは達者だな。物は言い様だ」
「ハハハ、アーク兄さんこそ。その底知れない連想能力には驚かされましたよ。では、僕は疲れているので部屋に戻ります」
「おい、笑うな! この落ちこぼれが! まて! 止まれ!」
アーク兄さんの怒鳴り声が廊下に響く。
俺は無視して、自分の部屋に戻っていこうとすると、肩をつかまれた。
「……お前が俺を笑うなんてな、100年早いんだよ」
「バカにしたつもりは一切ないですよ。気に触ったのなら謝ります。すみません」
嘘だ。
半分バカにして、半分面白いジョークなのかと思って笑ってしまった。
「ケミスト、お前最近調子に乗ってるな。一度俺の魔法を防いだからって良い気になるなよ? あれは手加減してやったんだ」
体内に流れている魔力のほとんどが集中していたのだが……。
本当に手加減したのか?
「調子に乗っていないですよ。アーク兄さんのことは尊敬しています」
「ッチ。明日、宮中伯のジェラード卿が領地の視察という名目で、この屋敷に訪れる。無礼は許されないぞ」
アーク兄さんに肩を掴まれていたが、離してくれた。
ふと廊下の先を見ると、メアリーの姿があった。
なるほど、問題は起こしたくない、ということか。
「分かりました。では失礼します」
◇
早朝に目を覚ました俺は、ポーションを届けるため、アイテムバッグをかつぎ、屋敷の外へ出た。
日が少し出てきた朝の空気は美味しい。
ひんやりとしていて、新鮮で、爽やかな気分になる。
「えーと、確か要求されたポーションの量は100個だったか。改めて考えると、とんでもない量を要求されているな」
前日、ゴーレムを作っている間に効果を薄めたポーションを作った。
効果を1/10にしたため、1個のポーションから10個の薄めたポーションが作れた。
「お、あった」
広場の端にある箱を見つけ、ポーションを入れていく。
「よし、終わり。あとはゴーレムを出しておけばいいんだけど、説明も無しに設置するのは領民達が恐れそうだ。また後で来るとしよう」
……そういえば今日、宮中伯の……なんとか卿が領地の視察にやってくるんだったな。
そうなると、領地に来てゴーレムを設置するってのは難しいかもしれない。
ゴーレムのお披露目は、後日になりそうだ。
◇
煌びやかな装飾がされた馬車を走らせ、ジェラード卿は、アルヴァレズ家の領地へ向かっていた。
「各地にある領地をこうして一つずつ回らんければいけないとはな。まったく、面倒なものだ」
金髪に片眼鏡を右目にかけた男性は窓際に肘を置き、頬杖をつきながら愚痴をこぼした。
年の頃は30で整った顔立ちをしている。
この男性こそが、王都で異例の出世を果たしているジェラード卿であった。
「仕方ないですよ、お父様。これも立派な仕事ですから」
肩にかかるほどの長さの銀髪。
目の色が水色の小柄な少女は、ジェラード卿の一人娘──シルフィだ。
何処となく嬉しそうにしている。
「シルフィは随分と上機嫌だね。これから行くアルヴァレズ家の領地がそんなに楽しみなのかい?」
「そ、そんなことありません! ……いえ、少しは楽しみです。これから行く領地は、ほとんど未開拓の小さな領地だと聞きます。……実は自然豊かな場所に一度行ってみたいな、と思っていたのですよ」
「はぁ~、シルフィは可愛いなぁ。自分から行きたいって言ってるのに楽しみじゃないわけないだろう? それを何故隠すんだい?」
「心を見透かせれているようなのが嫌なんですよ! もうお父様は全然乙女心が分かっていませんね……」
「分かっていないわけないだろう? ママが僕にメロメロなのは、僕が乙女心を理解しているからに他ならないよ」
そう言った後に、ジェラード卿は「まぁ、僕もママにメロメロだけどね」と付け足した。
──何を隠そう。この男、ジェラード卿は嫁と娘を溺愛しているッ!
「私はそんなお父様に少し嫌悪感を抱いていますよ」
「ハハ、シルフィは嘘が下手だなぁ~。そんなところも可愛いけど」
「~~~ッ! ホントですからね!」
アルヴァレズ家の領地に訪れたジェラード卿は、広場の前の人だかりを見て、馬車を動かす従者に止めるように言った。
そしてジェラード卿は馬車から降りる。
「諸君、これは何の集まりかな?」
「き、貴族様! こ、これはですね……えーっと、ポーションを皆に配っています」
領民のリーダー格、サムが緊張しながら状況を伝えた。
ケミストから貰ったポーションを開拓者に配っていた。
「一つ見せてもらってもいいかい?」
「ど、どうぞ」
サムはビビりながら、ジェラード卿にポーションを手渡した。
ジェラード卿は、それを上にあげ、陽の光に照らし、小瓶を揺らした。
「ふむ……。少し薄く見えるが、ちゃんと効果があるようだ──良いポーションだ。諸君、せっかく盛り上がっていたところを中断してすまなかったね。続けてくれたまえ」
シルフィと話していたときとは違って、他者を相手にするジェラード卿の言葉には重みが感じられた。
馬車に戻り、屋敷へ向かうジェラード卿とシルフィ。
その道中でジェラード卿は呟く。
「領民は領地の宝だ。蔑ろにするのは愚者の行為。恐らく、あのポーションは領主が用意したものだろう」
「お父様、珍しく高評価ですね」
「ああ。あのポーションをあれだけ用意するには、多額の費用がかかる。少し領民に還元しすぎな気もするが、未開拓のこの領地では、あれぐらいしなければ領民は不満を漏らすだろう。実に良い判断だ。アンドレイ卿、油断ならない男かもしれんな」
「なるほど……」
ジェラード卿は見当違いな考えを口にした。
実際のところ、アンドレイ卿、もといケミストの父親は無能な領主なのだが、知らず知らずのところで評価が上がってしまっていた。
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