59 / 68
59
しおりを挟む
授業が始まった。題して「マダム・リゼのマナー教室」。子爵から順番に一列に並ばされ、アドバイスされるわけだが。
「背筋を伸ばして!」
「キョロキョロしない!」
「頭を前に出さない!」
「このくらいキープできなくてどうする気ですか!」
いやー、厳しい。子爵、男爵の家の娘ばかりだからそれなりに姿勢は整っているはず。しかし情け容赦なくダメ出しのオンパレードなのだ。
「これくらいで根をあげるようなら、良いご縁談はまとまりませんよ」
「このままでは出来損ないの嫁と蔑まれます」
「良い姿勢なくして良い人生は歩めません!」
悪い姿勢では嫁の貰い手もない、あっても不幸になると言われ続けて気分も滅入ってくる。姿勢と結婚は関係あるのだろうか。そりゃ姿勢がいいと綺麗に見えるだろうけど、極端すぎないか?あまりに言われるので、全員が死んだ魚の目のようになって遠くを眺めている。
そして私の前に先生が立った。ついに私の番である。うわー、嫌だわ~。しかし逃げ出せるわけもなく、緊張しながら先生のアドバイスを聞く。先生は前からだけではなく背中の方にも行ったり少し離れたりして、とにかくジロジロと私のことを見た。値踏みされているようで落ち着かない。
「あなた、体幹ができているわね」
まさか、第一声がそれだった。体幹という言葉がこの世界にあることに驚く。孤児院育ちのリサは貴族と違って身体を使うことが多かったのかもしれない。そういえば確かに芯がしっかりしていると思う。
「先ほども話し方などしっかりしていると見受けました。きちんとした教育を受けたのですね」
先生がべた褒めである。周囲からの圧力を感じる。貴族がコテンパンにやられているのに平民で孤児のリサが褒められたら、そりゃ面白くないだろう。そういうの、やめてほしい。ただでさえ浮いているのだ。これ以上波風を立てたくない。
「皆さん!」
手をパンパン、と叩いて先生は注意を促した。全員の視線が私に注がれている。いやいやいや、やめてくれ。そう思うが、先生は私のことなどお構いなしだ。
「リサの姿勢をよく見てください。これこそが正しい姿勢です」
直立不動で何もできず、嫌な感じの汗が背中を伝うのがわかる。死んだ魚のような目をしたまま、全員が私の方を向いている。目はビー玉のようだ。怖い。
「あなた方は身近にいる方の真似をしているに過ぎません。高位貴族の姿勢を見て、見よう見まねで何も考えずに背中を反らしているだけなのです。きちんとしたマナー教師についていた人はどれだけいますか。良い姿勢というのはただ背中を伸ばして立つだけではダメなのです」
先生は私の背中に手を添え、朗々と語っている。
「リサの姿勢が正しいのは、おそらく誰の真似もしていないからでしょう。それはリサが平民だからです。おそらく身近に貴族の方はいなかったのでしょう?」
「は、はい」
いきなり聞かれて正直に答えた。先生は満足げにうなづく。
「皆さんは貴族ですし、貴族としか付き合ってこなかったでしょう。でもリサは違います。リサの姿勢はある意味人間として自然な体勢なのです」
先生の話は長々と続く。つまり私が褒められたのは、おかしな癖がついていないということらしい。貴族の家に生まれたら、親や周囲の人から立ち振る舞いを学ぶ。親世代は学校などに行かず、独自のマナー講習などを家ごとに受けてきた。そのためいざ結婚してみると、婚家とは違いがあったりすることがよくあったそうだ。間違ったまま覚えている親がそれを娘に伝えて、ということが実際にあるらしい。
「そういうことにならないよう、皆さんはしっかりと正しいことを身につけてもらわないといけません」
先生は熱心に講義をし、全員それを感心したように聞いている。私は緊張した姿勢のままだ。苦しい、心の中でつぶやく。これって拷問に近いわ。だって他の生徒たちは姿勢を崩しているのだ。
「皆さん、リサの姿勢をもう一度よく見るように。長時間このように立てないといけません。姿勢を崩すなど論外です。平民のリサでこそ成せるわざというものです」
先生、私を軽くディスっていませんか?引き攣りそうになる顔を何とか誤魔化し、愛想笑いを浮かべるのだった。
「背筋を伸ばして!」
「キョロキョロしない!」
「頭を前に出さない!」
「このくらいキープできなくてどうする気ですか!」
いやー、厳しい。子爵、男爵の家の娘ばかりだからそれなりに姿勢は整っているはず。しかし情け容赦なくダメ出しのオンパレードなのだ。
「これくらいで根をあげるようなら、良いご縁談はまとまりませんよ」
「このままでは出来損ないの嫁と蔑まれます」
「良い姿勢なくして良い人生は歩めません!」
悪い姿勢では嫁の貰い手もない、あっても不幸になると言われ続けて気分も滅入ってくる。姿勢と結婚は関係あるのだろうか。そりゃ姿勢がいいと綺麗に見えるだろうけど、極端すぎないか?あまりに言われるので、全員が死んだ魚の目のようになって遠くを眺めている。
そして私の前に先生が立った。ついに私の番である。うわー、嫌だわ~。しかし逃げ出せるわけもなく、緊張しながら先生のアドバイスを聞く。先生は前からだけではなく背中の方にも行ったり少し離れたりして、とにかくジロジロと私のことを見た。値踏みされているようで落ち着かない。
「あなた、体幹ができているわね」
まさか、第一声がそれだった。体幹という言葉がこの世界にあることに驚く。孤児院育ちのリサは貴族と違って身体を使うことが多かったのかもしれない。そういえば確かに芯がしっかりしていると思う。
「先ほども話し方などしっかりしていると見受けました。きちんとした教育を受けたのですね」
先生がべた褒めである。周囲からの圧力を感じる。貴族がコテンパンにやられているのに平民で孤児のリサが褒められたら、そりゃ面白くないだろう。そういうの、やめてほしい。ただでさえ浮いているのだ。これ以上波風を立てたくない。
「皆さん!」
手をパンパン、と叩いて先生は注意を促した。全員の視線が私に注がれている。いやいやいや、やめてくれ。そう思うが、先生は私のことなどお構いなしだ。
「リサの姿勢をよく見てください。これこそが正しい姿勢です」
直立不動で何もできず、嫌な感じの汗が背中を伝うのがわかる。死んだ魚のような目をしたまま、全員が私の方を向いている。目はビー玉のようだ。怖い。
「あなた方は身近にいる方の真似をしているに過ぎません。高位貴族の姿勢を見て、見よう見まねで何も考えずに背中を反らしているだけなのです。きちんとしたマナー教師についていた人はどれだけいますか。良い姿勢というのはただ背中を伸ばして立つだけではダメなのです」
先生は私の背中に手を添え、朗々と語っている。
「リサの姿勢が正しいのは、おそらく誰の真似もしていないからでしょう。それはリサが平民だからです。おそらく身近に貴族の方はいなかったのでしょう?」
「は、はい」
いきなり聞かれて正直に答えた。先生は満足げにうなづく。
「皆さんは貴族ですし、貴族としか付き合ってこなかったでしょう。でもリサは違います。リサの姿勢はある意味人間として自然な体勢なのです」
先生の話は長々と続く。つまり私が褒められたのは、おかしな癖がついていないということらしい。貴族の家に生まれたら、親や周囲の人から立ち振る舞いを学ぶ。親世代は学校などに行かず、独自のマナー講習などを家ごとに受けてきた。そのためいざ結婚してみると、婚家とは違いがあったりすることがよくあったそうだ。間違ったまま覚えている親がそれを娘に伝えて、ということが実際にあるらしい。
「そういうことにならないよう、皆さんはしっかりと正しいことを身につけてもらわないといけません」
先生は熱心に講義をし、全員それを感心したように聞いている。私は緊張した姿勢のままだ。苦しい、心の中でつぶやく。これって拷問に近いわ。だって他の生徒たちは姿勢を崩しているのだ。
「皆さん、リサの姿勢をもう一度よく見るように。長時間このように立てないといけません。姿勢を崩すなど論外です。平民のリサでこそ成せるわざというものです」
先生、私を軽くディスっていませんか?引き攣りそうになる顔を何とか誤魔化し、愛想笑いを浮かべるのだった。
45
あなたにおすすめの小説
私ですか?
庭にハニワ
ファンタジー
うわ。
本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。
長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。
良く知らんけど。
この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。
それによって迷惑被るのは私なんだが。
あ、申し遅れました。
私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。
夫より強い妻は邪魔だそうです【第一部完】
小平ニコ
ファンタジー
「ソフィア、お前とは離縁する。書類はこちらで作っておいたから、サインだけしてくれ」
夫のアランはそう言って私に離婚届を突き付けた。名門剣術道場の師範代であるアランは女性蔑視的な傾向があり、女の私が自分より強いのが相当に気に入らなかったようだ。
この日を待ち望んでいた私は喜んで離婚届にサインし、美しき従者シエルと旅に出る。道中で遭遇する悪党どもを成敗しながら、シエルの故郷である魔法王国トアイトンに到達し、そこでのんびりとした日々を送る私。
そんな時、アランの父から手紙が届いた。手紙の内容は、アランからの一方的な離縁に対する謝罪と、もうひとつ。私がいなくなった後にアランと再婚した女性によって、道場が大変なことになっているから戻って来てくれないかという予想だにしないものだった……
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい
あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。
誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。
それが私の最後の記憶。
※わかっている、これはご都合主義!
※設定はゆるんゆるん
※実在しない
※全五話
【完結】五度の人生を不幸な出来事で幕を閉じた転生少女は、六度目の転生で幸せを掴みたい!
アノマロカリス
ファンタジー
「ノワール・エルティナス! 貴様とは婚約破棄だ!」
ノワール・エルティナス伯爵令嬢は、アクード・ベリヤル第三王子に婚約破棄を言い渡される。
理由を聞いたら、真実の相手は私では無く妹のメルティだという。
すると、アクードの背後からメルティが現れて、アクードに肩を抱かれてメルティが不敵な笑みを浮かべた。
「お姉様ったら可哀想! まぁ、お姉様より私の方が王子に相応しいという事よ!」
ノワールは、アクードの婚約者に相応しくする為に、様々な事を犠牲にして尽くしたというのに、こんな形で裏切られるとは思っていなくて、ショックで立ち崩れていた。
その時、頭の中にビジョンが浮かんできた。
最初の人生では、日本という国で淵東 黒樹(えんどう くろき)という女子高生で、ゲームやアニメ、ファンタジー小説好きなオタクだったが、学校の帰り道にトラックに刎ねられて死んだ人生。
2度目の人生は、異世界に転生して日本の知識を駆使して…魔女となって魔法や薬学を発展させたが、最後は魔女狩りによって命を落とした。
3度目の人生は、王国に使える女騎士だった。
幾度も国を救い、活躍をして行ったが…最後は王族によって魔物侵攻の盾に使われて死亡した。
4度目の人生は、聖女として国を守る為に活動したが…
魔王の供物として生贄にされて命を落とした。
5度目の人生は、城で王族に使えるメイドだった。
炊事・洗濯などを完璧にこなして様々な能力を駆使して、更には貴族の妻に抜擢されそうになったのだが…同期のメイドの嫉妬により捏造の罪をなすりつけられて処刑された。
そして6度目の現在、全ての前世での記憶が甦り…
「そうですか、では婚約破棄を快く受け入れます!」
そう言って、ノワールは城から出て行った。
5度による浮いた話もなく死んでしまった人生…
6度目には絶対に幸せになってみせる!
そう誓って、家に帰ったのだが…?
一応恋愛として話を完結する予定ですが…
作品の内容が、思いっ切りファンタジー路線に行ってしまったので、ジャンルを恋愛からファンタジーに変更します。
今回はHOTランキングは最高9位でした。
皆様、有り難う御座います!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる