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第20話
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「そう、ですわね」
緊張で乾いた唇にそっと舌を這わせて潤し、振り返った。宇佐見の顔をみないように。一歩踏み出した。ネクタイをつかみ引き寄せる。不意のことに、宇佐見が踏ん張ろうとした。その瞬間、手を放す。渾身の力で彼の胸を押した。
「どういうつもり?」
ベッドに腰を下ろした格好になった宇佐見がこちらを見るより早く、ベッドに上がる。
「どういうつもり、とは?」
結いあげた髪をほどくと、宇佐見が立ち上がる前に、右膝を宇佐見の足の間にいれた。慌てたせいで、もう左膝が宇佐見の肉厚の太ももの上で止まってしまった。
「へえ」
首元に吐息とともにかかる低い声。冷たさと、熱さをはらんだ危険な声音に、なんとかしようと内心焦る。思わず宇佐見を見て固まった。
冷たい目。女の色香など知りつくしたとでもいわんばかりの、軽べつすら含んでいた。
心が折れそうだった。自分がどれだけ非常識なことをしようとしているかは分かっていた。それでも。
《男ってのは単純で、純情なんだよ》
梶谷の言葉が頭をよぎる。
《そーですかあ。人によりません?純情なんて昔ですけど》
調子のいい後輩の笑顔が浮かぶ。
《大丈夫ですよ、望月さんは》
入社当時にへこんでいた自分に、賞味期限切れの缶コーヒーをくれた柚木部長。
『子供を産め』
よみがえる、父の声。
「見合い相手にいきなり迫るのが望月家の流儀なの?」
どこか浮世離れした口調の中にも私に対する不審が見える。
大胆なことをしている自覚はある。だけど、男の誘い方なんてしらないのだ。
説明は、そう。全てが終わってからだ。
白磁のような肌に手をのばし微笑んでみせる。女みたいな紅い唇をそっとなで、唇をよせる。空調のきいた部屋、感情の読めないブルーグレーの瞳に見つめられたまま、そっと舌先を伸ばす。引き結ばれていた唇を数度、ノックすれば、宇佐見の瞳がわずかに細められた。それを合図に舌を伸ばせば、男の前歯が軽く舌先を噛んだ。
小さな痛みが体を走り抜けたが、そんなことで引くわけにはいかないのだ。
気を抜けば先日の夜が頭をよぎる。今は自分がこの男をその気にさせなければいけない。
ゆっくりと舌を絡ませれば、頭の奥で濡れた音が響いた。
緊張で乾いた唇にそっと舌を這わせて潤し、振り返った。宇佐見の顔をみないように。一歩踏み出した。ネクタイをつかみ引き寄せる。不意のことに、宇佐見が踏ん張ろうとした。その瞬間、手を放す。渾身の力で彼の胸を押した。
「どういうつもり?」
ベッドに腰を下ろした格好になった宇佐見がこちらを見るより早く、ベッドに上がる。
「どういうつもり、とは?」
結いあげた髪をほどくと、宇佐見が立ち上がる前に、右膝を宇佐見の足の間にいれた。慌てたせいで、もう左膝が宇佐見の肉厚の太ももの上で止まってしまった。
「へえ」
首元に吐息とともにかかる低い声。冷たさと、熱さをはらんだ危険な声音に、なんとかしようと内心焦る。思わず宇佐見を見て固まった。
冷たい目。女の色香など知りつくしたとでもいわんばかりの、軽べつすら含んでいた。
心が折れそうだった。自分がどれだけ非常識なことをしようとしているかは分かっていた。それでも。
《男ってのは単純で、純情なんだよ》
梶谷の言葉が頭をよぎる。
《そーですかあ。人によりません?純情なんて昔ですけど》
調子のいい後輩の笑顔が浮かぶ。
《大丈夫ですよ、望月さんは》
入社当時にへこんでいた自分に、賞味期限切れの缶コーヒーをくれた柚木部長。
『子供を産め』
よみがえる、父の声。
「見合い相手にいきなり迫るのが望月家の流儀なの?」
どこか浮世離れした口調の中にも私に対する不審が見える。
大胆なことをしている自覚はある。だけど、男の誘い方なんてしらないのだ。
説明は、そう。全てが終わってからだ。
白磁のような肌に手をのばし微笑んでみせる。女みたいな紅い唇をそっとなで、唇をよせる。空調のきいた部屋、感情の読めないブルーグレーの瞳に見つめられたまま、そっと舌先を伸ばす。引き結ばれていた唇を数度、ノックすれば、宇佐見の瞳がわずかに細められた。それを合図に舌を伸ばせば、男の前歯が軽く舌先を噛んだ。
小さな痛みが体を走り抜けたが、そんなことで引くわけにはいかないのだ。
気を抜けば先日の夜が頭をよぎる。今は自分がこの男をその気にさせなければいけない。
ゆっくりと舌を絡ませれば、頭の奥で濡れた音が響いた。
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