恋愛フィルター〜恋愛トーナメント第2章〜

天咲琴乃 あまさき ことの

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第4章

第4話 近づかない優しさ

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近づかない優しさ

 番組が終わったあと、雨音はいつもよりゆっくりと帰った。


 駅までの道を、わざと遠回りする。
 胸がざわつくことはない。


 代わりに、考え事が増えた。
 なくるは、何もしていない。



 それなのに、印象だけが残る。


 踏み込まれなかったこと。
 沈黙を急かされなかったこと。
 言葉を引き出そうとされなかったこと。



 それらが全部、雨音には新鮮だった。



 昔は違った。
 返事が遅れると、理由を聞かれた。
 言葉が少ないと、機嫌を疑われた。
 沈黙は、いつも不安の前触れだった。



 声が、感情を操作する。
 優しさに見える言葉が、境界線を越えてくる。



 それが“普通”だと思っていた。
 家に着き、玄関で靴を脱ぐ。
 静かな部屋に戻っても、息は乱れない。
 雨音は気づく。



 今日は、一度も自分を責めていない。
 その数日後、編集者から連絡が来た。



 番組の反響がよかったらしい。



「なくるさん、すごく丁寧でしたね」
 その言葉に、雨音は小さく頷いた。
 丁寧。


 それは、恋の形容詞としては、地味すぎる。



 でも今の彼女には、それが一番しっくりきた。



 ラジオ局の廊下で、なくるとすれ違ったときも、彼は軽く会釈しただけだった。
 引き留めない。
 追いかけない。



 それが、逆に心に残る。



 雨音はふと思う。
 もし彼が、少しでも急いでいたら。
 もし好意を、言葉にして押し出してきたら。



 きっと、ここにはいなかった。
 夜、ラジオをつける。
 いつもの声が、変わらず流れてくる。



 “こちら側”に来ない人。
 でも、“安全圏”には確かにいる人。
 雨音は、まだ恋をする気はなかった。




 けれど――
 危険じゃない人が、この世にいることを、初めて信じられた気がした。
 それだけで、今日は十分だった。


   なくる、さん。か。
   素敵な人だったな。私の嫌がることを察してしない人。


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