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第6章
第6話 声優という仕事
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声優という仕事
なくるは、収録の合間に台本を閉じた。
声を出さない時間は、意識的につくるようにしている。声は便利だけれど、使いすぎると、人との距離を誤魔化してしまうからだ。
若い頃は違った。
勢いで近づいて、勢いで褒めて、勢いで距離を詰める。
それが“仕事ができる人間”だと思っていた時期がある。
共演者の話題になったとき、ふと、ある名前が頭をよぎった。
雷牙。
直接、問題を起こすタイプではない。けれど、どこか引っかかる。
彼は、声を武器にする。
相手の反応を見ながら、言葉を選ぶ。
褒めて、黙って、また褒める。
人を“調整”する癖がある。
なくるは、それが苦手だった。
声は、相手を動かすための道具じゃない。
ただ、伝えるためのものだ。
「相手の人生に入り込むな」
昔、先輩に言われた言葉を思い出す。
表現の仕事をしているからこそ、越えてはいけない線がある。
ラジオの打ち合わせで、雨音の名前が出た。
新人作家、Amane。
作品は静かで、余白が多い。
なくるは、彼女の文章を思い出す。
説明しすぎない。
読者を急かさない。
声優の仕事と、似ている。
その夜、なくるはラジオで言った。
特定の誰かに向けたわけじゃない。
でも、意識の片隅には、確かに彼女がいた。
「声の仕事って、距離感が大事なんですよね」
リスナーからの質問に、そう答える。
「近づきすぎると、相手の人生を奪ってしまう。
遠すぎると、何も届かない」
ちょうどいい距離は、簡単じゃない。
でも、探し続けるしかない。
放送後、なくるは一人、スタジオを出た。
廊下のガラスに映る自分の顔は、少しだけ大人びて見えた。
彼は思う。
もし、雨音が過去に“声”で傷ついた人だとしたら。
そんなことが脳裏を過ぎる。あの警戒心はどこからくるんだろうか。そして自分を避けようとした。自分のことなのか、声の仕事をしていた他の誰かに傷ついたのか。
自分は、絶対に同じことはしない。
と、言ったところで信じてもらえるかも分からない。
名前を聞かなくても、理由を尋ねなくてもいい。
尊重することは、できる。
それが、大人であるということだ。
なくるは、まだ踏み込まない。
けれど、諦めたりもしない。
距離を測りながら、同じ場所に立つ。
それが今の、彼の選び方だった。
声優という仕事は、声を吹き込む仕事で、ひとに夢を与える仕事で、人の心を弄んだり、人の心を支配するためのものではない。
心理学もそう、声の仕事もそう。使うものの善意に寄る。悪用すればなんでも凶器になる。声という武器は。
声優という仕事は。
なくるは、収録の合間に台本を閉じた。
声を出さない時間は、意識的につくるようにしている。声は便利だけれど、使いすぎると、人との距離を誤魔化してしまうからだ。
若い頃は違った。
勢いで近づいて、勢いで褒めて、勢いで距離を詰める。
それが“仕事ができる人間”だと思っていた時期がある。
共演者の話題になったとき、ふと、ある名前が頭をよぎった。
雷牙。
直接、問題を起こすタイプではない。けれど、どこか引っかかる。
彼は、声を武器にする。
相手の反応を見ながら、言葉を選ぶ。
褒めて、黙って、また褒める。
人を“調整”する癖がある。
なくるは、それが苦手だった。
声は、相手を動かすための道具じゃない。
ただ、伝えるためのものだ。
「相手の人生に入り込むな」
昔、先輩に言われた言葉を思い出す。
表現の仕事をしているからこそ、越えてはいけない線がある。
ラジオの打ち合わせで、雨音の名前が出た。
新人作家、Amane。
作品は静かで、余白が多い。
なくるは、彼女の文章を思い出す。
説明しすぎない。
読者を急かさない。
声優の仕事と、似ている。
その夜、なくるはラジオで言った。
特定の誰かに向けたわけじゃない。
でも、意識の片隅には、確かに彼女がいた。
「声の仕事って、距離感が大事なんですよね」
リスナーからの質問に、そう答える。
「近づきすぎると、相手の人生を奪ってしまう。
遠すぎると、何も届かない」
ちょうどいい距離は、簡単じゃない。
でも、探し続けるしかない。
放送後、なくるは一人、スタジオを出た。
廊下のガラスに映る自分の顔は、少しだけ大人びて見えた。
彼は思う。
もし、雨音が過去に“声”で傷ついた人だとしたら。
そんなことが脳裏を過ぎる。あの警戒心はどこからくるんだろうか。そして自分を避けようとした。自分のことなのか、声の仕事をしていた他の誰かに傷ついたのか。
自分は、絶対に同じことはしない。
と、言ったところで信じてもらえるかも分からない。
名前を聞かなくても、理由を尋ねなくてもいい。
尊重することは、できる。
それが、大人であるということだ。
なくるは、まだ踏み込まない。
けれど、諦めたりもしない。
距離を測りながら、同じ場所に立つ。
それが今の、彼の選び方だった。
声優という仕事は、声を吹き込む仕事で、ひとに夢を与える仕事で、人の心を弄んだり、人の心を支配するためのものではない。
心理学もそう、声の仕事もそう。使うものの善意に寄る。悪用すればなんでも凶器になる。声という武器は。
声優という仕事は。
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