恋愛フィルター〜恋愛トーナメント第2章〜

天咲琴乃 あまさき ことの

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第9章

第9話 ラジオの夜

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  ラジオの夜

 その夜のスタジオは、いつもより照明が落とされていた。
 深夜帯。言葉が一人歩きしない時間。



 なくるは、マイクの前に座りながら、呼吸を整える。



 今日は、ゲストがいる。
 雷牙。



 番組の進行は、何事もなく進んだ。



 仕事の話。表現論。最近の活動。
 どれも無難で、問題はない。



 ただ、雷牙の言葉には、わずかな探りが混じっていた。



 「声って、不思議ですよね。
 距離を一気に縮める力がある」
 なくるは、間を置いて答える。



 「そうですね。
 だから、縮めない選択もあると思っています」




 雷牙が、ほんの一瞬だけ視線を上げた。
 「……縮めない?」



 「ええ。
 相手が近づいてほしくないときも、ありますから」



 否定ではない。
 説教でもない。
 ただの事実。



 雷牙は、それ以上踏み込まなかった。
 いや、踏み込めなかった。



 番組は、静かにエンディングを迎える。
「今夜も、ありがとうございました」
 なくるの声は、いつも通りだ。




 特別な感情は、乗せない。
 収録後、雷牙はスタッフに軽く会釈をして、スタジオを出ていった。



 引き止める理由は、どこにもなかった。



 一方、なくるは、ブースに残る。
 マイクを外し、ヘッドホンを置く。
 “繋がなかった”という選択が、胸に静かに残る。



 それでいい、と分かっている。
 廊下の向こうで、別の足音がした。
 雨音ではない。
 今日、彼女は来ていない。



 それでも、なくるは知っていた。
 この夜の選択が、彼女の時間を守ったことを。




 帰り道、雨音はラジオを聴いていた。
 ゲストの名前は、意識しないようにしていた。



 けれど、番組の空気が、いつもと違うことには気づく。
 余計な熱がない。



 誰かを引き寄せようとしない。
 ただ、静かだ。
 雨音は、スマートフォンを伏せる。
 心拍は、乱れていない。
 ——大丈夫。



 理由は分からなくても、そう思えた。

    事情は知らない。それでもなぜか、なくるが自分をまもってくれるそんな確信があった。無理して人の心に土足で踏み込まない、そんな男性だから。


   そういうひとだから、人気声優なんだと思う。



    人柄なんだ、最後は。人気の理由はきっと。


   特になにかを聞かれた訳じゃない。それでも……。






 恋は、まだ始まっていない。
 でも、終わるべきものは、確かに終わった。
 ラジオの音が、夜に溶けていく。
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