恋愛フィルター〜恋愛トーナメント第2章〜

天咲琴乃 あまさき ことの

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第10章

第10話 フィルター越しの未来

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 フィルター越しの未来

 朝のパン屋は、いつもより少し静かだった。
 雨音は、オーブンの前で焼き色を確認しながら、昨日のラジオを思い出していた。
 特別なことは、何もなかった。
 名前も、感情も、大きな言葉も出てこない。
 それなのに、胸の奥が落ち着いている。


 ——安心。

   安心する恋がこんなに心を穏やかにさせることを知った。


 それが、今の正直な感覚だった。
 昼過ぎ、出版社から短いメッセージが届く。
 次の番組出演の打診。



 相手の名前を見て、雨音は少しだけ考える。
 なくる。


    なくるさん……だ。
  ほっとする。



 すぐに返事はしなかった。
 でも、断る理由もなかった。
 夜になると、ラジオをつける。



 いつもの声が、いつもの距離で流れてくる。
「無理に変わらなくていい夜も、あります」


 なくるの言葉は、誰かに向けられたものじゃない。


 でも、雨音の中で、ちゃんと届いた。


 彼は、何も約束しない。
 未来を先取りしない。


    わかってる。私一人に向けられた優しさではない。彼は誰に対してもとても優しく、親切だ。勘違いしてはいけない。



 今ここにある感覚を、大事にしている。
 それが、信頼になる。
 恋人ではない。
 でも、警戒もしない。
    だけど、もし、もしも。


    勇気をだして、話したり、相手のことを知ろうとして見たい。


    出来るだろうか。





 その中間に、確かな場所があった。
 雨音は、自分の中のフィルターを確かめる。
 不安を煽らない。
 沈黙を責めない。
 距離を奪わない。
 通過している。
 無理なく、自然に。




 パン屋のシャッターを下ろしながら、雨音は空を見上げた。
 夜風が、気持ちいい。
 恋は、勝ち負けじゃない。
 選ばれることでもない。
 同じ速度で呼吸できるかどうか。
 それだけでいい。




 ラジオの音が、部屋に広がる。
 なくるの声は、相変わらず穏やかだ。
 まだ、周波数は完全には合っていない。
 でも、雑音はない。




 それなら、十分だ。
 恋愛フィルター越しに見る未来は、
 思っていたより、ずっと静かで、明るかった。
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