とこしえの庭で君と散る

楠富 つかさ

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#5 欲望の渦中

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 スーパー銭湯そらで万和ちゃんに出逢った。なんだか、自惚れかも知れないけれど私を探して来たようにも思えた。きっと、淫奔な百香と付き合っている――交際しているという意味ではなく、交友関係を持っているという意味の方――ことを心配してくれているのかもしれない。
 もっとも、私は百香に惚れているわけでも心酔しているわけでもないし、百香の蜜がなければ生きていけないわけでもない。互いに忙しかったら会わなくても問題ない。木代家のあの古風でありながら便利に使えるよう手が加えられているあの雰囲気も好きだが、小規模な銭湯それこそそらと似たようなものだ。
 そらは家から近いということもあり、度々利用しているスーパー銭湯だ。気付いた頃から水が好きで、お湯も好きだった。全身を水にたゆたわせるあの感覚がたまらなくて……大きなお風呂は私の癒しだった。スーパー銭湯はサウナも完備されており、それもあってよく利用している。全身から噴き出す水を感じられることと、水風呂による充足感が魅力だ。
 私は万和ちゃんを誘ってサウナに入った。

「え、いいですけど……」

 サウナには先客がいたが、十五分もすれば二人きりになった。私は万和ちゃんの頬を撫で、たっぷり指先についた汗を舐め取った。……普通、かな。

「そろそろ出ようか。水風呂、気持ちいいぞ」

 ちょうど身体を綺麗にしたのだから、構わないだろう。
 水風呂に入り、それからまたお湯に浸かる。冷ました身体を再び温めると、シャワーを浴びて大浴場を後にする。

「ちょ、友庭さん! 髪の毛ちゃんと乾かしてください」

 しぶしぶ彼女に為されるがままに髪を弄られる。この後乱れるのだがなあと思いつつ、髪を乾かしてもらう。そらを後にした私たちは近くのカラオケ店に入った。
 フランチャイズのカラオケ店で、部屋はさほど広くないし古いし、カラオケの機種自体も二世代前という人気もへったくれもないカラオケ店だ。もともとカラオケに興味がなかったこともあり、近所に住んでいるのに存在すら知らなかったほどだ。だが百香に連れ込まれ、その裏の用途を聞かされた。個室のドアから死角が多いソファの配置、レジ前にしか防犯カメラがなく、それなりの防音がされていて、ついでにドリンクバーがある――すなわちここは、泊まれないラブホテルなのだ。

「あの、えっと……」

 三時間パックで入店し私は水を、万和ちゃんはお茶を持って薄暗い部屋に入る。大人しくついてきた万和ちゃんも、流石に下着を脱ぐよう言ったら困惑した。よくよく考えれば困惑もするか、と他人事のように思っていた。湿ってはいるが先ほど使ったバスタオルをソファに敷き、まどろっこしいので万和ちゃんの下着は私が脱がせ、それから座らせた。

「万和ちゃんはさ、一人でシたことある?」

 性の目覚めが遅かった私は、百香に言われるがまましたのは初めてのそれだった。自分の蜜はさほど美味しく感じなかったから、あれっきりしてはいないのだけれど。万和ちゃんは少し恥ずかしそうにぼそりと答えてくれた。もっとも、その恥じらいは私に理解出来ないのだけれど。

「一応、人並みには……」
「じゃあ、今から何するか……分かるよね?」

 そっと目を閉じた万和ちゃんに、ついばむようなキスを。

「はぅ」

 うっすら緩んだその唇に、舌をねじ込み、貪るようなキスを。顔を覗きこむような角度で口づけを交わし、唾液をかき集め……嚥下する。姉妹だから、なんていう理由が成立するかは不明だけれどその味わいはどこか百香のそれに似ていた。
 繰り返し唾液を貪っていると、百香と同じくふわりとした甘みの奥に百香のそれとは違う、ハーブにも似たきりりとした味わいが追いかけてくる。それを感じながらも、指先は万和ちゃんの蜜壺を引っかき回す。百香と違って茂みは整えられておらず、その奥は狭く、指二本入れるのがきついくらいだ。女の顔をした万和ちゃんは、百香と同じ目をしていた。私に甘露を呑ませてくれる者の目だ。
 期待に胸を高鳴らせながら、下の口に吸い付く。

「じゅる、ずちゅぅ……じゅぶ、ぬぷ」

 意図的に音を立てた方が美味しく感じられる。きっと、蕎麦を初めて啜った人もそう思ったのだろう。百香やその友達のような、使い込まれた故の呑みやすさはないが……ただ彼女らのような雑味が少なく、甘い香りと未熟さを感じる苦み、それから僅かな酸味が口の中を支配する。味わいとしては想像以上のものではなかった。可もなく不可もなしといったところだ。
 味わうのもそこそこに、フィニッシュに向けて動きに変化をつける。初めてだから、潮は吹かないだろう。それでもまぁ、満足はさせてあげたい。そう思って舌の動きを速くし、蜜壺にねじ込むような動きをしつつ、肉芽を抓る。声を我慢しようと、手を噛みながら耐える姿はどこかいじらしく、ほんの気まぐれに万和ちゃんの下腹部から口を離した。蜜壺が収縮を繰り返しながら、わずかに白濁した液を垂れ流す。

「美味しい、ですか?」
「うん? 普通かな」

 その言葉に、絶望にも似た露骨な落胆が見て取れた。だからと言って特別な感情がわき上がるでもなく、私は零れる蜜を再び吸い上げた。万和ちゃんの身体が弓なりになり、上半身をぐったりと古びたソファに預ける。意識が飛んでしまったようだ。

「ご馳走様」

 規則正しい呼吸を繰り返す万和ちゃんの下腹部を拭い、下着を穿かせる。それから私はちびちびと水を飲み始めた。ドリンクバーの水だというのに、これは単なる水道水だ。とはいえ、空の宮の水道水は霊峰の雪解け水を始めとする地下水の流れを汲んでいるから十分に美味しいのだけれど。

「……この水ともじきにお別れか」

 夢を叶えるために、私は羽ばたかねばならないのだ。
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